裏山

三年生相手に余計なことを云ってしまった。山ならまだ若い諸君とでもお相手できると。だから今日は山行きと心を決めた。今年の夏前の話である。
幾分曇っていたが、梅雨時に晴天は期待する方が無理だから、予定通り裏山に登った。ここは車で少し入れば、もう1000Mを越す山がゴロゴロ控えている辺境である。私の住まいは云うても町中だから人口は減少しない。しかし登山口までのちょっとした距離を走ると、廃屋が目につきはじめて、ここらは典型的な過疎地帯であることを思い知らされる。過疎は農村よりも山村に早くくる。行政区分としてはそこはそれでも市域なのである。
昨年の干ばつにも干上がらなかった涌水が、今年の梅雨で勢い好く流れ出ている。山林は保水庫と言う意味がよく分かる。山頂はガスで覆われていて、見通しが効かないと思ったら降りだした。慌てて下山に掛かる。追い抜いたはずの子供連れを又追い抜く。彼らは雨で登頂を諦めたらしい。無理をしないのは良い心がけだ。小走りの山道にあざみの花が見えた。
あんまり履かない登山靴だが、今日は履いてきて良かった。濡れた急勾配の岩肌に足を滑らしそうになったとき思わず冷や汗が出た。普通の靴ならやっていただろう。だがこの靴はツルリと行かなかったのである。濡れた岩肌に対するグリップ性は何で決まるのであろう。水膜を挟んでの靴底と岩肌の結合力など信じられぬ。顕微鏡的な凸凹のアンカー効果。これはわかる。でももっと他にもありそうだ。こっちは勢いが付いているから、摩擦力だけでは駄目なんだろう。損失弾性率が高いのカナ。走るための靴ならきっと貯蔵弾性率を高くしているだろう。この靴はその逆を行っているのではないか。靴裏のパターンは少しはこれと関係があるのかしら。
自動車にABSと言うシステムがある。あれも結局は車の勢いを、タイヤのスリップ熱ではなく、ブレーキの熱にして放散させ続け、更に道路との摩擦力を車の慣性力が上回ることを防ぐ条件が付いているのだろう。登山靴に似たブレーキシューを想像する。
それなりに楽しい登山でした。登山靴には自信がない。正解を知っている方がおられたらぜひ教えて下さい。

('95/11/18)