40億年

ダーウィンがガラパゴス諸島で化石動物を目にしたとき生物進化論が生まれた。教会は人間は猿の末裔かと大いに怒ったが、日々神に近ずいているとも解釈して安堵もした。と言うのが私が中学生の頃読んだ進化論のあらましで、それ以来このロマンチックな話題を本気で反すうした事はない。
この夏休みに中村運「生命進化40億年の風景」,化学同人, '94を読んだ。全くもって驚いた。「昆虫記」で有名なファーブルはアンチ進化論者で他の追従を許さぬ細緻な生態観察からダーウィンにかみつくのであるが、その論争はまあいわば哲学論争だっただろう。ファーブルは問う。トックリ(?)バチがわが子のために植物カマキリを作る戦法はどないして進化してきたのか。当時じゃこんな質問に答えようがなかっただろう。ところが今は科学になっているのである。上述のファーブルの問にはちょっと先端過ぎてまだ答えられないが、基本的なところは解釈が付き始めている。
なんと云っても最もロマン溢れるシーンは生命発生のくだりである。一代記でも後半生の原型が出来上がる過程がいちばん面白いのと同じである。その代表は太閤記とおしんだ。おしんが10にもならぬのに材木問屋に子守に出されるシーンあたりは紅涙を絞ったと言う。あれである。RNAワールドが本当の生命の起源である。しかしRNAでは生命の基本条件の一つ、遺伝の安定性に欠けるところがあった。DNAワールドに至って初めて安定な系統性を発揮できるようになる。
私はこのときやっとエイズビールスの強かさが分かったような気がした。こやつはレトロなのである。つまり生命最古のRNA型で生きているために、突然変異を次から次へと繰り返す事が出来る。だから忍者ビールスでどんな薬を作っても抗体を作ってもするりとすり抜けて別のビールスに化けてしまうから効き目が無い。
種を守るためには系統性を維持せねばならぬが、進化のためには突然変異が必要である。種の絶滅が襲う化石時代の変わり目に生き延びた種はどんなに対応したのか。化屋が十分分かる平易な語り口で進化の大河にまで話を進める。300ページに余るのに一気に読ませるお薦めの一冊である。

('95/09/11)