田舎者

夏休みに関東に帰ってきた。とにかく2週間を越して夏休みをとれる教師商売は止められん。私が会社勤めをしていたときは、土日を挟んで6日の連休が精一杯だった。それに学校に出るも戻るも制約されないのは社長並である。社長はしかしいつも先の銭勘定で心臓が痛む。それに反してなんぞこの天国商売はと、いつも転職の機会を与えてくれた先輩に感謝の祈りを捧げている。(具合の悪いところもあるが。)
帰ってきて見渡せば見渡すほど都会の華やかさが目に映る。店の数も品数も違う。こんなに多くては優柔不断の私は何を買って良いか分からなくなる。昼飯を食うのも決めるのが一苦労だ。こちらなら行き先候補は2ー3軒あれば良い方で、夕飯なんぞ早くしないとすぐ店が閉まってしまう。ところがこれだけあるのに時間帯では客で一杯で、どこも列が出来ている。テーブルの2/3が埋まって居れば、流行っている店である当地とは大違いでカンが狂う。結局時間が来て駅弁で済ませる手を常用した。待つのが嫌いな性分である。
時代の微妙なズレもある。CD屋はもう殆どテープを置いていない。わが愛する八代亜紀なんぞもう片隅にでも見つけるのが大変である。演歌のコーナーなんか無いに近いのである。田舎とはずれているなぁとつくづく思った。それから特に印象深かったのは若者の多い事。学校を一歩出ると年寄りが目につく当地と比べてなんと若さがまぶしい事。すれ違う女性には美人が多い。昔京美人と云った。今は東京美人である。宮本武蔵に江戸に下る京の花街の一行の描写があったが、都会の経済力は美人まで吸い取るのであろう。
今度の帰省では美術展を巡る事とした。東京地方では外国旅行など必要の無いほど一流中の一流作品の展示が入れ替わり立ち代わり開催されている。博物館美術館の数も数え切れぬほどに多い。羨ましい限りである。田舎で名品とうたわれる芸術作品にお目に掛かる機会は滅多に来ない。年に一度か二度それも数多くない展示が県都に来るとき山々を越えて出かけるのである。その美術館巡りである日佐倉に行った。
塚本美術館はわが国の刀剣の収集で有名である。塚本家の一部に簡素な建物を開いて美術館に当てている。佐倉で今度始めてみたのは市立美術館だった。町の中心部に一際目立つ4階建ての瀟洒な建造物で、入り口は多分昔の銀行か何かの煉瓦造りの建物をそのまま使っている。一階が喫茶室兼用のホール、2,3階が展示室、4階がハイビジョン映写室で世界有名美術館の美術品の忠実な映像が見れるようになっていた。3階で個人の彫刻展をしていたが2階は準備中だった。今からスタートして常設展を打てるほどに買い集められるのカナとソフトの方を心配する。塚本さんのような収集品があってそれにハードを作るのなら一本筋が通った美術館になるが、先ず、作ったヨと市民が納得する箱から出発するのはあとが難しいなあと思う。おらが町には美術館が要るのは田舎だけではなかった。

('95/08/25)