県立中央博物館

日本人のルーツをいろいろ聞かされるがまさに蝶も同じだけの複数のルーツを持っている。千葉県立中央博物館で得た知識である。ここは広大な敷地に立派な建物。しっかり税金を使った施設である。皆様方も是非活用なさってください。
日本に生息する蝶は南方アジア系の蝶、揚子江からチベットに分布する系統の蝶、朝鮮満州系、シベリヤ系とそれから日本固有の蝶などに分類されている。国蝶のオオムラサキが固有種でないことはこのとき初めて知った。ウラナミシジミというかわいらしい蝶がいる。今ではほとんど見かけないが昔はエンドウ豆の畑にたくさん見かけたものである。これはなんと南方型で生育の北限が房総半島の南端安房の国だそうであった。
ウラナミシジミは春から秋へと生長のサイクルを繰り返しながら北進しついには千葉一帯に広がるが、冬になると安房以外では死滅してまた次の年に春からこのサイクルを繰り返すという。何ともはかないが強い生命力を感じさせる話だと思う。似た話に南海から黒潮に乗ってやってくる色鮮やかな小魚の話があるのを思い出す。これらの小魚も日本では子孫を育てることができずに死滅する。それでも我々がお目にかかれるのは黒潮のおかげである。気温上昇で少しは様相が変わるかな。もっともウラナミシジミにはここのところちょっともお目にかからない。農薬で発生元からほとんど全滅させられているのであろう。
今日の発見はキマダラヒカゲである。この地味なヒカゲ蝶はヤマキマダラヒカゲとサトキマダラヒカゲに分類されるそうな。ところで名の通りサトキマダラヒカゲは平地に住みヤマは山地に住む。平地では群の中の混交が激しいから地域に特徴は出ないが、ヤマは孤立しやすいから各地に亜種を作る。南総の山地も亜種を生んだ。元々南総の山地は海中に孤立していたが氷河期で陸続きになり温暖化してまた半孤立状になった場所である。キマダラヒカゲ以外にも半孤立状を証明する亜種は移動性の低い動植物にいろいろ見つかるらしい。それから関東平野が氷河期に海面が100mから下がったために出現し氷河期が過ぎてまた海面が幾分回復したとき渓谷は互いの連絡が切れて独立河川化し移動性のない動物はそこに孤立化した。渓流に住む魚はそんなものだという。
私は人を類型化して日本人とはとかイギリス人とはとか云う議論が嫌いである。ドイツ人は考えてから走り出すが、イギリス人は歩きながら考えるとは一昔前のベストセラー本に書かれていた内容であるが、歴史の一角を民族の特長にするような言い方には賛成しかねる。今でも民族意識の強い中進国開発途上国の人たちに、いい意味でないレッテルを貼り付けられると気持ちが悪い。確かにプレートとプレートはぶつかり合って千変万化千景万色の地相生物相を作る。だがこれは何万年もの時間が経過して生じた変化である。生物でも万年単位の孤立がないと形質の変化は現れぬ事を博物館の展示は見事に証明している。

('97/07/01)