船の科学
- 池田良穂:「船の科学〜超高速船・超巨大船のメカニズム〜」、講談社BLUE BACKS、'07を読む。本書は昨年9/1に青函フェリーとして就航した高速双胴船ナッチャンRera号を話題の中心としている。著者はその開発に関わりあった大阪府立大の先生である。たまたま私は7/Eの北海道・ウラジオストク クルーズ中に就航予定のニュースを知った。このHPの「線路にバスを走らせろ」に少し言及している。網走でJR北海道開発のデュアル・モード・ビークル(DMV)に試乗するフリープランがあり、申し込んだが抽選漏れになった。DMVについてはその後「線路にバスを走らせろ」という本が出、それに対する私なりの見解を纏めてこのHPに載せた。北海道と言うことで、ナッチャンにも触れてみたのであった。
- ナッチャンはオーストラリアの造船所で生まれた。造船大国・日本での生まれでなかった。この船はウェーブピアシング型で、開発したのが、オーストラリアのインキャット社であったからだ。単胴型艦船の船速は30ノットまでで、造波抵抗の急増によりそれ以上の高速は無理である。戦艦大和も最高速度が27ノットであった。この障壁を打ち破るべく各種の新型船舶が登場した。私は大分空港から大分市までを結ぶホーバークラフトをよく利用した。あれは40ノットで走る。現在も運転されていると思う。でもあれは2乗3乗の法則の掣肘を受けるので大型化できない。九州と韓国を結ぶ高速船ドルフィン・ウルサンはやはりオーストラリアの開発で、3胴船だ。だが、玄界灘の荒海を往復するには小型すぎたのか、1年余りで引退した。新聞記事になったことを覚えている。日本における最近の新型船のもう一つの話題はスーパーライナーオガサワラで、小笠原航路就航の予定が挫折したことでニュースになった。本書によると14500總トン最高速度39ノットという、ホーバークラフトを改良したSESというタイプだそうだ。燃料を大量に積まねばならぬために、長距離輸送は経済的でなかったからという。
- ナッチャンは総トン数1万余り、排水量約1500トン(載貨重量トン1450、満載排水量約3000トン)の中型船である。私は総トン数/排水量の関係に興味を持ち続けてきた。タイタニック(客船、'12進水)46328/66000(満載排水量)、白山丸(貨客船、'23進水)10380/18851、浅間丸(客船、'29進水)16947/8218(載貨重量トン)、おりえんとびいなす(客船、'90進水)21884/4863、ぱしふぃっくびいなす(客船、'97進水)26000/3060と記すと、数字の凸凹ぶりから、船の軽量化が'90あたりから画期的に進んだことが判る。本書にある通り、耐海水性Al-Mg合金の採用がその裏にある。飛鳥(客船、'91進水)、飛鳥U(客船、'90進水)はそれぞれの総トン数(28856、50142)しか判らない。鋼鉄船型なのか、合金主体船なのかあるいは遷移段階の折衷船なのか。
- 私が(満載)排水量を知りたい理由は、船の海水から受ける抵抗を求めるためである。このHPの「造波抵抗」で、飛鳥の最高速度時の推進動力をエンジン最高出力の55%と計算した。船の諸元不明のまま、しかも球状船首出現前の標準船のデータによる推算であった。本書には推進動力がエンジン出力の5割程度だと載っているので、当たらずとも遠からずの計算をしたことになる。もし満載排水量が判っていたら、もう少し精度の高い計算になるはずであった。本書にはもちろん船の抵抗について解説がある。しかし例えば上記球状船首について、戦艦大和と武蔵の場合、約8%の省エネ効果があったとぐらいにしか述べられていない。どんな条件で何に対する8%なのか書いてあると意味が出るのだが、これだけでは何の足しにもならない。
- 船酔いに関する記載は目新しかった。私は太平洋岸を走るフェリーで酔ったことがある。でもそれ以降は経験していない。日本海が大時化で目的港に入港できなかったことがある。本HPの「飛鳥'05春日本一周こぼれ話」にその時の様子が示されている。このときは上階スイートクラス・キャビンの船客に船酔いが出たようだった。外洋を走るクルーズでは、上階ほどよく揺れることに注意せねばならない。本書に日本海にウラジオ方面からの北風が吹き、大時化になったときの風波の試算がしてある。それによると風速15m/sで1.5日吹くと、有義波高が5.5m(だから最大波高は11m)、周期が9sとなる。我々が遭遇した時化とよく似た状態だ。単胴船の固有周期は8-18sだとある。飛鳥も揺れやすい状態だったのだろう。また、周期が6秒ほどの頃が最も酔いやすく、上下加速度が0.02gぐらいから嘔吐が始まるという図がある。甲板の揺れ波高を50cmとし、正弦波近似で最大加速度を求めると、0.0124gと出てくる。これなら300人乗っておれば1人ぐらいの確率であろう。ナッチャンは固有周期が4sと短く横揺れに強いそうだ。
- ナッチャンのウォータージェット推進方式は船の操縦性改良に多大の貢献をした。小さなタグボートが活躍する、大型船の桟橋での長い離着岸風景は、船客としては楽しい見物対象だが、経済上は非常な損失である。ジェットの吹き出し口方向は自在だから、ナッチャンは舵が要らない。船速と旋回性が互いに独立している。プロペラ船では、船速が遅くなると舵の効きが目立って悪くなり、衝突危険の時に回避動作が鈍くなって事故に繋がる。ナッチャンは、逆噴射により、短距離で操船性を失わずに停まることが出来る。これも安全上非常に望ましい性能だ。エネルギー効率は、同速のプロペラ型通常艦船と変わらないようだ。ホーバークラフトや水中翼船のような揚力支持型の船は、もっとエネルギーを食う。
- 船に乗ると2日目ぐらいに避難訓練がある。先月に乗った長崎・別府クルーズは5泊と短かったので、やらないのではないかと思っていたが、やっぱり2日目に実施した。ライフジャケットをつけて救命ボートに走る。ジャケットは折り畳まれているので、あらかじめ付け方を知っておかないと、いざというときにまごつきそうだ。ボート定員は船客と船員合計の倍になっている。片側がダメなときに備えているのだそうだ。エレベータは動かないから上階下階の船客は大変である。だからかサボる人も結構いる。足の悪い人は甲板の近くのフロアのキャビンを取るようにしたらよい。救命ボートの積み荷が紹介されている。タンパク質は消化に水を必要とするので、非常食は糖分リッチな食品が多いとあった。救難食糧は1万キロジュール/人が義務づけられている。2400kcalだから食いつないでも1.5日分にしかならない。飲料水は3リットル/人。これで数日は持ちこたえるそうだ。救命筏はよくできていて、突如船が転覆しても自動的に浮き上がり展開するそうだ。もっとも私はこの筏が海面に浮かんだ姿を見たことがない。避難訓練は点呼の後、船長訓話があって終わる。
('07/01/10)