異端の桜:鬱金と御衣黄

新宿御苑に花見に出掛けた。私はここの桜が好きである。よく手入れされた公園で、樹木も品種も多い。この時期には花見客がどっと押し寄せるてくるが、御苑だからか、身勝手な顰蹙を買うような行為を殆どやらないし、一応身だしなみにも気を使っている。警官のパトロールもある。今年の御苑は外国人、特にアジア系外国人が多かった。昔、京都の苔寺が庭園のコケを守るために、当時としては破格の1000円という入園料を設定したことがあった。新聞は批判的であったが、景観維持には必要であった。御苑は国の管理だから、経営上は入園料200円を取る必要はないと思うが、庭園内マナーの維持には必要である。
戻ってから新宿御苑のHPを見たら、その日ソメイヨシノが満開と書いてあった。いいタイミングで出掛けたことになる。昼食時間を挟んでほぼ3時間ほど見物した。大木戸門から入場。江戸切絵図に内藤新宿の東端に大木戸が、宿場と並行して走る玉川上水の水番と並んで設置されている。温室を鑑賞してから、イギリス風景式庭園の北よりの道を辿り、西休憩所から母と子の森を歩く。この森はまだ作られてから日が浅いようだ。境界に沿った散歩道を千駄ヶ谷門の方向に歩き、途中で日本庭園に入る。上の池、中の池、下の池とこの御苑の美しさを代表する風景を愛でつつ、イギリス風景式庭園の芝生を取り囲むサクラを丹念に見て歩いた。大木戸門に近い玉藻池は、内藤駿河守下屋敷の玉川園の池をそのまま使っている。内藤家は信州高遠藩3.3万石の領主であった。地図の形から見ると、今も存在する内藤家菩提寺の天竜寺の庭園からわき出した水の流れが下って行く通路が、この上、中、下の池に当たるようだ。
そのソメイヨシノは大木揃いで、数も多い。最も多い種類だろう。昨日は千葉ポートタワー公園のソメイヨシノを見たが、もう葉を付け花はかなり散ってしまった樹があった。ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンザクラとの一代交雑種だそうだ。花はヒガンに、若葉はオオシマに似る。すなわち幾分ピンク色の花を付け、若葉は青々としている。御苑のソメイヨシノは、全くと言ってよいほど青葉を見せず樹木一杯に咲いていた。オオシマザクラの開花期はソメイヨシノと殆ど同じか少し早い。こちらは自然種で、ソメイヨシノのようなクローンではないから、開花期は樹木毎に異なっている。千葉の公園では1週間ほどのギャップがあるが、御苑ではあまり差がないようだった。開花と同時に青い若葉を出すので、余計に花が白っぽく見える。
エドヒガンザクラはこの御苑では見かけない。コヒガンが幾分小ぶりのソメイヨシノよりは濃いピンク色に咲いている。茶系の若葉は殆ど目立たなかった。コヒガンはエドヒガンとマメザクラとの交配の結果という。コヒガンはエドヒガンほどには大木にならないそうだ。ソメイヨシノの引き立て役に植わっているのであろう。旧主の高遠城址は、タカトウコヒガンザクラの名所である。タカトウが附いたらどう違うのか知りたいものだ。アメリカという品種がある。エドヒガンとオオシマザクラの交雑種だという。ソメイヨシノと親は同じだ。種子は出来ないのかな。チョウシュウヒザクラはイギリス風景式庭園のど真ん中の大木で、幾分紅色がかった花であった。ヤマザクラはソメイヨシノに次いで数が多い。
八重咲きのサクラを見る。満開ではなく3分咲きぐらいなのに見事なのはイチヨウだ。カンザンはまだ蕾段階だ。ヤエベニシダレもよかった。ゲンペイモモがこの時期に満開になる。八重咲きのサクラと間違っている人がいた。ボケも咲いている。こちらはサクラの盆栽だ。同じバラ科だから間違えるのも風流だ。接ぎ木しているわけでもないのに、モモとボケは同じ枝に紅白の花を付ける。一輪の花の中に紅白と別の花弁を備えたまだらの花もある。これはツバキにも見かける。サクラには起こらない。私には不思議である。枝垂れ桜にシダレソメイヨシノなる品種があった。
ウコン(鬱金)とギョイコウ(御衣黄)は咲き始めだった。ウコンは薄黄緑、ギョイコウは薄緑だから、若葉の頃の御苑の中では今は目立たない。満開期になったらどんな雰囲気になるのかと想像してしまう。緑系の花はサクラ以外でも珍しい。正に異端の花である。
野の草花で眼を惹いたのがハナニラ、シャガ。前者は御苑のいたるところに咲いている。温室にアメリカシャガという花が育っていた。ちょっと大型だが、よく似ている。屋久島の植物園でヒスイカズラを見たことがあったが、御苑の温室でも見かけた。小指ほどのヒスイ色の花がバナナの房のように並んで垂れ下がっている。記憶がある植物にはすぐ目が移る。心理学ではこの現象を何というのかな。サクラ以外の木本ではユリノキ。この木も私のマンションの庭に咲いているのですぐ気付いたのだろう。こげ茶っぽい地味な花である。同じ意味で温室で見たクリスマスローズも地味である。キブシを1本イギリス式庭園の縁で見た。私の住まい周辺では見かけない樹木である。黄色房状の花序が美しい。

('07/04/02)