色のおもしろ心理学
- ポーポー・ポロダクション:「マンガでわかる色のおもしろ心理学」、サイエンス・アイ新書、'06を読む。ほんの20-30年前までは理工学系のやさしい解説書案内書が周辺の本屋に溢れていたと思うが、近頃はさっぱりお目に掛からない。ポピュラー・サイエンス、一億人の化学、高分子素材one pointなどと言った叢書が私の本棚に並んでいる。今でもこれらのシリーズ本の出版は続いていると思うが、千葉駅周囲の本屋には表れない。理学工学の不人気に合わせるようにこの手の本の売れ行きも悪いのであろう。サイエンス・アイ新書は駅前の百貨店で見つけた久しぶりの理工系小冊子である。この叢書は昨年10月に創刊されたそうだ。今後の成長を望む。
- 私は染料化学を教えたことがある。光の物理、脳の視覚、化学構造など入り混じった話で、工業化学の中では出色の面白い課目であった。序章に基礎知識が並べてある。分光学の知識から解説していないのでちょっともの足らない。だが、色と時間、色と重さ、トーンの解釈などは私に新鮮であった。1例。青い部屋では感覚的時間は物理的時間よりも短い。1時間と思ったら実際は70-80分だったという。「時間を短く感じる」ことを「時間の流れを早く感じる」と表現する。後者は間違い易い表現だ。
- 次章、まず暖色寒色の区別。よく知られた事実である。マンガの手書き漢字が間違っている。炎天を災天としてある。自分の文章を自分で校正するとなかなか気が付かないが、他人の誤字にはすぐに気付く。校正は他人にやって貰う方がよい。さらに一般化して言えば、監査業務は厳正な第三者に任すべしと言うことだ。昨年の公認会計士事件で第三者に「厳正な」という形容詞を必要とするようになった。沖縄人は寒色を冷たい色とは思わない。何しろ海水が黒潮で、いつかのクルーズでは、27℃とアナウンスされた。12月だった。後天的感覚なのであろう。膨張色と収縮色の区分けは先天的に思える。進出色と後退色は後天的なのではないか。この二つのカテゴリー区分はあまり意識したことがなかった。食欲をそそる色は明らかに後天的である。赤提灯の赤は副交感神経を刺激するそうで、生理学的にも意味があるそうだ。眠りを誘う色というのは効果があってもそう大きくはないのだろう。
- 次は色彩心理の章だ。冒頭に「心理学には、教育心理学を始め犯罪心理学、産業心理学、教育心理学などの分野があり、・・」とでている。あとの教育心理学は児童心理学とでもすべきところだ。推敲不十分なまま出版されている。商品と色の結びつきには、昔は固定観念があったようだが、最近はなんでもありに近づいている。目立てばいいのだ。企業イメージの色は流石に精選されているようだ。青は誠実安定の象徴で先進性を表すとある。そんなに明確に抽象概念と結びついているようには思えないが、何となく冷静で知的という印象は否めない。衝動買い的に色感覚にすぐ反応する年齢からは離れてしまったが、病院の彩色は印象に残る。淡い暖色系が増えてきた。手術着は今までは緑系が多かったそうだが、最近はベージュなどの落ち着いた色に変わっているそうだ。緑は赤(血)の補色であるために、残像が赤く出てかえって医師の判断に悪影響があるという。白衣高血圧というのがある。元来はそんな性質を持たないのに、白は恐怖を呼び起こす。あれはお医者に対する患者の経験から来る。完全に後天的な性格のものだ。よく知られた事実だ。昨年も投薬間違いによる人身事故が何件か起こった。薬剤の色彩管理は行われているそうだ。それでも起こるのである。
- クルーズ船の楽しみの一つはドレス・コードで、引退後は殆ど機会の無くなったフォーマル着用の日があることだ。男性は黒のタキシードかダークスーツなのだが、我が友は決まって白を着て出てくる。背丈がありしかも均整が取れた体つきだから、際立って目に付く。だから女性陣にとても評判がいい。色で性格がわかるという章に、白が、世界中で、崇高な色として扱われてきたとある。純粋、無垢、冷静、別離という印象もあるらしい。彼は若くて穏やかだから、すべてに好意的に受け止められている。まず色の選択に成功した方である。成人式のTVニュースで舞妓さんが写った。その前日のNHK BS11で男はつらいよ(45)寅次郎の青春の最後のシーンは下呂温泉の正月風景であった。3人の芸者が橋を通る。和服は柄に模様に目を奪われて殆どトーンに注意しないのが普通だ。だが、舞妓や芸者の黒基調は、周囲の華やいだ雰囲気の中ではむしろ地味なのに、粋という言葉がピッタリ当てはまる。この本に玄人は黒人から来ているとある。素人は白人。舞妓も芸者も玄人に分類されるから偶然の一致かも知れないが面白い。この本に粋が出てくるのは2ヶ所。最後の章で江戸紫と京紫を対比して「粋な江戸の紫」と書いた。また洒落柿という言葉に対して、シャレた名前を付けた江戸の粋が感じられる色名であると言っている。著者の感覚では、粋は江戸の専門で、京の舞妓や下呂温泉の芸者の着姿に粋を付けては良くないのだろうか。
- 大脳の中で視覚はいかに認識されるかなんて、考えたことはないし勉強したこともない。蜂でも三原色を持つ。脳容積がたった1立方ミリあるかなしかの昆虫でもその能力を持つとは驚くべき事実だ。でも物理光の各スペクトルとone-to-one correspondenceする脳神経など持ち合わせていないだろう。そんな話は人工知能開発者の考える道筋である。昆虫は生活環境で必要最小限の知能を発達させた。だから少し環境を細工して実験をすると途方もない馬鹿げた行動をとり、昆虫学者を喜ばせる。人間さまの大脳は蜂の何十万倍もある。そう簡単に環境には誤魔化されないように出来ているはずだ。でも心理学者たちは手を替え品を替えて実験し、人間の脳の欠陥をえぐり出した。この本では色彩効果として挙がっている。補色の効果は誰でも知っている。対比効果の内、色の境界で現れるマッハ・バンド、ハーマングリッド、エーレンシュタイン効果は指摘されるとなるほどと判る。キュナード社のクルーズ船は等級区別が厳格なので有名だ。そのカタログには船室の等級区分が細かく絵図に色分けして示されている。種類が多いから似通った色彩を用いざるを得ない。よく等級の取り違えを起こす。色の同化効果というのだそうだ。
- 本書の一番最後に「もう1つの原色を持つ女性」という短文がある。遺伝学的に真っ赤を朱型と深紅型に区別する、赤が2原色になる遺伝子を女性の半分は持っているそうだ。男は1種だという。これは初耳であった。
('07/01/10)