光化学の驚異U
- 光化学協会編:「光化学の驚異〜日本がリードする「次世代技術」の最前線〜」、講談社BLUE BACKS、'06を読む。「光化学の驚異」では第1章から第4章までの要旨と感想を述べた。ここでは第5-8章を記述する。ここに登場するホログラフィーとかレーザー光、特に後者は、私にとっては、就職後の止むに止まれぬ事情で勉強せざるを得なかった対象であった。分析機器に必須になり出したからだ。現役を退く数年前から微細加工への応用がホットなテーマになり出していた。
- 液晶ディスプレイの原理が示されている。液晶だから結晶の軸方向を直角に連続して折り曲げることが出来る。長軸方向に偏光した入射光は方向を直角に変えて出てくる。光方向に電圧を掛けると液晶が立ってしまい光を通さなくなる。光の通過量は電圧をかける時間で調節できるというわけだ。液晶ホログラムで立体テレビを見る夢が語られている。2-3日前の新聞にシャープ社長インタビュー記事が載っていた。数年前までは液晶ディスプレイに圧倒的なシェアを持っていたシャープが、韓国勢などに追い上げられ、現代では世界第4位に落ちている。液晶ディスプレイの実用化は日本が世界に先駆けて成功した。かって世界一を誇ったDRAMなどの半導体産業が、韓国勢に逆転された事情とよく似ている。半導体は不良製品率を下げる戦いであった。日本が勝利した理由は、不良品発生が主に食塩などの浮遊ゴミに起因することを突き止め、対策に成功したからであった。技術の核心を発表しすぎていると思ったことがあった。表から裏からのあらゆる形の技術外国移転が日本の経済の土台を崩す。中韓にはもっともっと用心せねばならない。
- 大規模集積回路LSIの集積度はどんどん増加して、今では1チップがトランジスター10億個分を含むという。私が現役を去る頃は水銀灯のi-線を用いた光微細加工法が全盛であった。短波長の光ほど微細加工が出来るから、そのうちにX-線やさらに電子線を用いた加工法が出てくると言われていた。i-線よりは短い光のエキシマレーザーの応用も試みられていた。現在はこのエキシマレーザーが花盛りであるらしい。光学器械の開発で波長より短い線を書く技術も実用されているという。フォトレジスト材料側の進歩ももちろん必要だったはずだが、その詳細は語られていない。LSIとは離れた超微細機械加工技術は紫外線レーザーとフェムト秒パルスレーザーの応用が注目されている。紫外線は原子間結合の切断に有効だし、パルスレーザーは材料の非線形光学現象を利用して、目的表面だけを瞬間加工するのに有用である。同じエネルギーでも短時間に一度に与えることが出来るとシャープな加工線を作れる。1フェムト秒とは、10のマイナス15乗秒のことである。私の時代にはなかった新技術として近接場光が登場する。まだ応用は先のようだ。
- 光圧が話題に出てくる。私どもの世代では光圧は帚星としか結びつかない。彗星のほうきは太陽に近づくほど輝きを増し長くなり、太陽の後方に遠離ろうとする。光量子が星の微粒子にぶつかって質量の中心から引き離そうとする。対抗する力は引力だが、彗星の質量はごく小さいからあまり引き留め役にはならない。この光圧が地上の微粒子の分析に役立つという。微粒子に加わる重力よりも3桁も大きな力になるという。だから、微粒子は流体中ではブラウン運動でフラフラしているが、一旦レーザー光を当てられると焦点に引きつけられて動けなくなってしまう。光ピンセットと称する。彗星のほうきは焦点が無限遠方にあるからどこまでも流れて行こうとする。あとは吸光分析蛍光分析などお好み次第だというのである。光ピンセットで微粒子1個1個を区分けできるから、粒子の大きさあるいは界面比率の大きさが、たとえば反応にどんな影響を持つかといった研究もできる。実用上の応用例は書いてない。
- 光ピンセットを使うと分子とかナノ粒子でも取り扱える。もう光学顕微鏡では見えない相手だから、蛍光顕微鏡を使う。資料には蛍光分子をラベルしてある。これは励起光透過フィルターで水銀ランプの光のある波長を通し、ダイクロイックミラーで光路を曲げて資料を照射する。出てきた少し波長の長い蛍光はこのミラーを通り抜けるから、あとは迷光を除くために励起光吸収フィルターに通すという光分離システムを備えた顕微鏡である。ナノ粒子とはウィルスとかDNAのサイズだ。分子の例として出てくるのは高分子である。ナノ粒子は単独の分子でもなく、バルク状集合体でもない。界面に並ぶ分子原子の性質が中心部の分子に無視できない影響力を持つ「新しい」材料である。実用上こんな成果が出たという話は何もないが、分担執筆者は殆どが大学の学者先生らしいので、実業界には意外と基礎研究が生かされた新材料が出ているのではないかと思う。そこら辺がちょっと食い足りない本だ。
('06/10/14)