ウェブ進化論


梅田望夫:「ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる−」、ちくま新書、'06を読む。序章に、「トヨタは凄い」という意味は誰でもイメージできるが、「インターネットは凄い」といっても具体的にイメージできる人は、日頃どっぷりインターネットに浸っているごく限られた人々だけだとある。玉石混淆の情報を瞬時に価値判断して分類するグーグルの検索システムが、既存の情報ヒエラルキー構造をぶっ壊して、新しい情報王を作り上げるだろう。日本は携帯とブロードバンドに関しては世界一という。心強いことだ。この長所を活用して情報王のチャンピオンを日本から輩出したいものだ。フジテレビ対ライブドア、TBS対楽天は静かに潜行しながら確実に動いている情報地盤革命の、ほんの氷山の一角である。
私はどっぷり浸っているか?。私は楽天証券で株をやるわけでもないし、アマゾンで本を買うわけでもない。全く買い物に利用しないわけではなくて、遠方のオリジナル商品の買い付けには活用する。たいていは家内のリクエストだ。HP作成の手段としてグーグルは便利に利用させて貰っている。HP内検索マシンもグーグルからの借用である。検索マシンははじめはヤフーやグーを使っていたが、いつの間にかグーグルに切り替わっていた。ハードを紹介すると、プログラマブル電卓が20年前、それからワープロの文豪、ノートパソコンの98noteと続いた。だからこの本を読む基礎はあるとしよう。だが、私が読んでさらに何かに想達できるほど立派でないことも明らかである。HPに書いているように、インターネットには離陸期から関わり合ってきたので、理解は出来るであろう。
情報革命の三大潮流とは「インターネット」「チープ革命」「オープンソース」だという。家電量販店が好きな人ならチープ革命は肌で感じている。私は20万円を家電の趣味買いの閾値にしている。98noteもそれぐらいだった。V30というCPUでクロック周波数がたしか10MHzだった。ハードディスク無し。私の現世代ノートパソコンはCPU 1.5GHz、ハードディスク20GB、電池はNi-CdからLi-ion型に代わって高能率となった。それが10万円台だった。国民の平均収入も上がっているから、誰もがPCの時代に来たと実感する。もっとも年寄りの会例えば同窓会ではなかなか自在に操る人など見付からない。本書にある通り、彼らは永遠のネット疎外者で、私に言わせればむしろハッピ−に人生を続けられる羨ましい人種に属する。
三大潮流がネット世界の三大法則を作ったという。第三法則は面白い。(≒無限大)×(≒ゼロ)=Somethingと表現してある。無限に近い顧客から集まるほんの僅かの情報でも、塵も積もれば山となるという意味だ。この三大法則の意味の解説に量子力学とニュートン力学の対比が為されている。私は、僭越ながら、それよりもフラクタル幾何学の話の方がもっと適切だと思う。何しろ無限の世界では無秩序は秩序を作るという話だからである。グーグルがその盟主である。
7/9 NHKスペシャル・テクノクライシスの第1編サイバー犯罪を見た。本人には何の瑕疵もないのに、闇の手が銀行の口座から預金を盗んで行く。日本はまだハッカーに対する防衛体制が甘い。我が国に対するサイバー攻撃の8割が中国本土からという。インターネット犯罪の最大特徴は国境がないということである。こんな話を聞くとネット漂流など二の足を踏んでしまう。しかし文明の利器には陽の部分もあれば陰の部分も必ずある。この本は陽の可能性を重点に近未来を解き明かそうとしている。
日本の楽天とかライブドアとグーグルは、インターネットのあちら側にあるという意味では同じだが、立脚基盤が全く違う。前2者は既成システムの応用活用事業だが、後者は新技術の創造による開発事業である。IBM、インテル、マイクロソフト、アップルなどと続くテクノロジー産業の系列で、ヤフーとかアマゾンといったネット会社も技術開発にかける姿勢では日本各社よりはずっとテクノロジー産業的である。そのアメリカの系列にあって一際グーグルが群を抜いて見えるのは、独創性の高さだ。世界国家が出現したら彼らの仕事になると思われるような目標にそれが集約されている。世界中の情報を整理し尽くし、誰にでも無償で瞬時に発送してしまう。正に情報民主化をネット社会に実現する会社になった。独裁社会政権者にとっては全く目の上のこぶ以上の存在だろう。
俊才中の俊才が集うという意味ではヤフーやマイクロソフトなどと同じだが、違うのは博士号取得者をそろえているということだ。全体が研究開発会社になっていて、社員は80%を公式プロジェクト業務に当て、残りの20%を非公式の自分のプロジェクトに当てるように指示されている。私は現役の研究屋であった20年ほど昔に、アングラ研究の勧めを聞いた。従来まで技術導入でしのぎを削ってきたが、もう導入の種が無くなりだした頃であった。アングラとは、遊んでいるなどと幹部から批判されないように、こっそりと隠れてと云う意味である。グーグルの姿勢とは全く違う。それから博士号とは研究オリジナリティの王道を歩んだことがあるという証明で、無くても研究に差し支えはないが、日本のように、博士号取得者は柔軟性に欠けるなどと、思い通りに研究者を動かせない理由付けに博士号を使っているのでは、たいしたオリジナリティを研究に期待できない。
グーグルは目標に沿った発展型のコンピュータを自作した。昨年でボードが30万個ほど接続されているという大きさという。それが情報量の加速度的増加に合わせて部品追加的に成長するという。ソフトも自前である。利用はただなのにどこで儲けるのか。グーグルのHPを見ると、広告掲載とかビジネス・ソリューションというクリックタームがあって、アドセンスというグーグルの事業が説明してある。私のサイトは登録していないが、無料登録すると、グーグルがそのサイトを自動解析して、広告希望顧客のうち最適のものを選び、その広告だけをそのサイトに送り出すのである。掲載料が取れるから人気サイトはいい収入になる。あらかたはグーグルの儲けで、年1000億円の純利益だった。売り上げはその5倍、社員数5000である。ヤフーもマイクロソフトも追撃に躍起だ。ヤフーのマップが随分と改良されたのを見ても危機感が分かる。
検索していると頼みもしないのにアマゾンの本の広告が飛び込んでくる。何れも検索内容に沿った参考本である。時折我が家にアマゾンから本が宅急便で配達されてくる。広告も無いし大凡売れ口の少ないと、一見して分かる堅い専門書がほとんどだ。発注人は我が家の若い現役世代である。アマゾン・コムは自己の膨大なリソースを公開し、そのリソースを不特定多数に活用してもらうためのインターフェイス(API)を提供した。自らをテクノロジー企業だという。アマゾンは、後で1/3と訂正したが、'05年に、全売り上げの半分以上を、リアル書店が在庫を持たない本から上げていると発表した。塵も積もれば山となる現象をロングテール(現象)と云うのだそうな。グーグルと基本は同じだ。リアル書店なら在庫はランキング13万までの本で、しかも利潤は一握りのベストセラー作品からしか得られない。ところがアマゾン方式では、従来は在庫にも入れて貰えぬマイナーな本から利益が得られる。正に革命で、業界ではWeb 2.0(時代)の到来という。日本のネット列強はヤフー・ジャパンと楽天だ。しかし彼らは資源の取り込みはあっても公開はしない。著者はWeb 1.0からの脱皮を彼らに呼びかけている。
インターネット上にブロッグが大繁盛している。總表現社会と書かれている。私の検索にもしばしば引っ掛かるようになった。大抵は一方的断片的情報で調査目的には合わない。本書が云うように石が圧倒的に多い玉石混淆状態にある。私はHPに情報開示の場を設けた。スタートが10年以上昔でブロッグなど無かった。今ならハテどうするであろうか。ブロッグのおかげで情報専門家の裾野は急速に拡大し、プロとアマの境目は無くなりつつある。新聞、雑誌、TVなどのヒエラルキー構造があって、それに乗っかかった人たちだけがもの申せた時代から、誰もが口出しできる時代になった。HPもブロッグも自分を守るためにも必要な技術になっている。洪水の中から質高き玉情報に到達できるテクノロジー進歩があれば、忙しい現代人にとって非常に魅力的な第一級資料となる。
ウィキペディアという百科事典がインターネットで利用できる。私もよく使わせて貰っている。誰でも編集に参加できるオープンソース型の事典で、利用料は取らない。ブルタニカというリアル型の百科事典が6万5千程度の項目数であるのに対し、発足後5年しか経過していないこの百科事典は87万項目に及ぶという。悪意と偏見でいつ何時書き換えられるか分からないから、内容にはそこそこの信頼しか置けないが、それを承知の上で他の情報をも参照しつつ読むのであれば、なかなか有用な事典だと思う。平凡社の世界大百科事典が'00年アルマナックという20世紀最後の補遺版出版で終了したが、Abstractを作る壮大な事業すべてが同じ運命を背負っているのではないかと思う。
この本の注目すべき情報に選挙予報がある。著者は海外にあって小泉旋風が吹いた参議院選挙の結果を予想できたと云うし、米アイオワ大学のアイオワ電子市場は「ブッシュ対ケリー」の'4年大統領選挙結果をピタリと当てた。先月滋賀県知事選挙では大方の予想を覆して、環境派の学者知事を生んだ。長野県知事選挙ではどうであったか。これらの選挙に対するワークは出版後だからもちろん載っていないが、時折外れる世論調査方式を補うあるいは取って代わるインターネット方式が現れるのであれば素晴らしい。
最後の2章は若い世代への応援歌である。筆者自身が、34才でシリコーンバレーに飛び出した、日本人にしては異例の経歴の持ち主だ。才能もないのにカラ元気で自分を壊してはならないが、なかなか説得力のある善意に満ちた文言がある。これからの人に是非読んでほしい。

('06/08/09)