釜山印象

- 飛鳥の秋の日本一周・韓国クルーズの第4寄港地は韓国・釜山である。オプショナルツアー「釜山寺院巡りと韓国会席料理」に出た。バスガイドの金さんは、九州にホームステイしたことがあると言うだけあって、なかなか達者に日本語を操った。韓国のお盆が次週の月火だという。この日土曜日から帰省ラッシュになるというので、ツアーの順序が変更され、高速道が混雑する前に通度寺をまず訪れ、ついで梵魚寺、昼食後先に海雲台パラダイス南門免税店それから最後に竜宮寺となった。目論見は当たったと自画自賛していた。計画より15分ほど早く戻った。
- 最大の関心は宮廷料理の流れをくむ会席料理だった。家内の話では日本で一般に韓国料理といえば焼き肉だが、それはもともと労働者クラスの料理で、韓定食という会席料理は上級家庭料理と言うことだった。穏やかな味の前菜から始まりデザートの梨まで20-30種ほどあったろうか。最後は6-7種類のキムチ、豆腐のみそ汁、赤飯で終わる。終わりに近づくとたいそう辛くなる。薄味から始まる日本の懐石料理と軌を一にしている。薄塩の焼き鯛は気に入ったのでたくさん食ったが、これでは日本料理である。だいたいは4人一皿だ。銘々の皿に取って食べる。一人一膳の日本料理・西洋料理の形式ではないが、全員が大皿から取り分ける中国料理風でもない。春雨に何かをあえた料理はあっさりしていて美味かった。カニ、豚、牛、鳥もあったろう、まあ山海の珍味であった。韓国ビールは初めてだったが、ホップがそれほど利いていない点を除けば同じである。ついでだが、船中の夕食は和食で、何か口にいつまでも残っていた韓国料理の違和感が、やっとなじみの味のおかげでとれたような気がした。
- 竜宮寺では多くはなかったが、梵魚寺通度寺とも多くの熱心に礼拝する人々が目についた。経典を読みながら、チベット仏教で有名な、膝を折り頭を地につけた礼拝を繰り返す。経典はハングル文字で書かれている。法要にきている人々は、仏僧の読経の間、座って頭を垂れているだけだった。梵魚寺には殿、たとえば日本の本殿に当たる大雄殿の他に、最後に閣という名のつく伽藍がある。殿は本来の仏、閣は仏教随伴の神々や土地の古来からの自然崇拝の対象になっていた神々を祭る伽藍である。私が見たなんとか閣には虎の絵が描かれていた。虎が神であった。今は幻の朝鮮虎なのであろう。
- 多神教はそれまでの土地の神々を身内に吸収しながら発展する。一神教と根底的に異なる点である。同じ教典から出発しながら、仇同士のようにいがみ合う昔のキリスト教vsユダヤ教、今のキリスト教vsイスラム教、ユダヤ教vsイスラム教の現状を見ていると、多神教の大らかさだけが世界平和をもたらすのではないかと思ってしまう。ローマが覇権国家となったとき、ギリシャの神々はローマの神として迎えられた。多民族帝国の基礎は多神教でなければならなかったと思われる。インドのヒンズー教もその典型だが、韓国の仏教も土地の神々と融和をはかりながら発展した。通度寺で見た天下大将軍とか地下女将軍とかの石像もその流れであろう。ちなみに今の韓国の仏教徒数は50%、キリスト教徒が25%、儒教は宗教に数えられず哲学として受け止められているようだ。
- 寺院は木造建築だし建物の基本的構造は同じだし、参詣人の姿形もわれわれと似ているから、そう違和感はないが、細部を見るといっぱい相違点があってやっぱり異国であると感じる。建物の極彩色着色は、法隆寺の建物が元来はそうであったというから、別段驚くには当たらない。仁王門に当たる天王門には、仁王ではなく仏の四方を守る四天王が安置され、参詣者は丁寧に各像に拝礼してゆく。この門から寺院は仏界になっているという。梵鐘閣には2Fに大太鼓、1Fに大鐘があって、日本の鐘楼とは違う。それでも鐘や太鼓の構造はよく似ている。梵魚寺の創建は678年の統一新羅時代、通度寺は646年の三国時代の新羅であるが、どちらも戦火などで消失し再建されている。竜宮寺は鎌倉時代の建設だが、ここも何度も建て変わっているようだった。日本海の白波をかぶる特異な位置にある寺で建物自体はそう多くないが、参詣に108段の階段を下りるので有名らしい。
- 戻ってからNHK衛星放送で韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」が始まった。16世紀初頭の李氏朝鮮が舞台である。背景に出てくる彩色豊かな高級建造物に違和感を覚えなかった。登場人物の民族服にも微かに記憶がある。ただしそれは今回の見聞ではない。旅行中民族服の男女についに一度も出会わなかった。
- 車窓から眺めた韓国は、ハングル文字の看板右側通行の自動車などをのぞくと、あまり日本と変わらない。伝統的な民家には一度もお目にかからなかった。郊外には高層のアパートが林立している。幾分ひ弱な構造のように思えた。地震はあるが巨大地震は無いという。そりゃそうだろう、フィリッピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込む地震の巣・南海トラフから遙かに離れている。韓国は地震に関しては幸せな国である。通度寺に行く高速道路は、今の片道2車線を3車線に拡張する工事が進行中であった。
- 車中のガイドの話では韓国の苗字は274で、日本の132000と大きな違いがある。全体の21.7%が金姓だそうだ。次が李姓15%で上位6姓で半分以上を占めると言った。結婚後も男女とも姓は変わらない。子供の姓は夫と同じで離婚後もそれが続くという男性社会だという。再婚するとその子の姓はそのまま持ち込まれる。ガイドの話を続けると韓国は5千万人弱で面積比で行くと日本より人口密度が高い。おきまりの少子化で人口減少の傾向が続く。戻ってから録画して置いたNHK 63億人の世界地図(7)出生率をみたら、韓国は1.19で日本の1.29よりも低いことを知った。韓国は教育熱心で、教育費の個人負担高は世界でも飛び抜けて大きいという解説があり、少子化の要因に数えていた。収入は日本の6割であるが、物価はたいていの品が、たとえば米が日本の6割だから、生活レベルはそう変わらないらしい。しかしガソリンのように日本の倍もする品もあるという。駐車場の料金が200円で、それでもついこの間まで100円だったといった。道路は市内でも幅広くほとんど3車線あるほどにとっているが、交通渋滞事情は日本の大都会と変わらない。自動車は国産車ばかりで、日本の車は見あたらなかった。
('04/10/08)