相対論的宇宙論

- 佐藤文隆、松田卓也:「新装版 相対論的宇宙論−ブラックホール・宇宙・超宇宙−」、講談社、'03を読む。30年も昔の本の復刊である。新装版となっているので、かなり改訂されているかと思ったが、本文は全くそのままで、新装版はしがきと新装版あとがきが追加されただけである。理系の本にしては例外的に長寿命であるのに驚く。アインシュタインの一般相対論に重きを置いた、理論主体の本であるからであろう。元本のおわりにには、「アインシュタインと我々の関係」を楽しく橋渡しするのが、この本の狙いだと書かれている。一般相対論は生まれてからもう90年にもなる(こんな数字は改訂してある)。にもかかわらず、並ある重力理論の中でますます信頼度を高めているという。
- 4/3に「「時空のゆがみ」検証へ NASAが衛星打ち上げ」という新聞記事が出た。一般相対性理論によると、重力の影響で周囲の時空にはゆがみが生じる。しかし、地球程度の大きさの惑星では、そうした時空のゆがみはごくわずかで、従来は検証不能であった。NASAは、航空機や人工衛星などの姿勢監視に使われるジャイロスコープの、極めて精巧なものを衛星に4基搭載し、ジャイロの回転軸を、基準となる遠くの星にぴったり合わせ、地球の周りを1年以上周回させ、時空のゆがみによって起こる回転軸の小さなずれを、検出しようという試みをするという。本書の新装版あとがきに、一般相対論は、GPS衛星を通じてカーナビという形で我々の日常生活に入り込んでいるという。GPS衛星に積み込まれた原子時計の補正に活用されているのだという。
- 特殊相対論は高校時代に導出法まで勉強した。今の高校と違って、あまり大学入試に拘らずに本が読めた時代だった。一般相対論については、1919年に太陽周辺を通る星の光がゆがむという発見があったということ以外の記憶はない。以来半世紀以上古典物理の枠外には縁がなかった。化系であったから量子力学には多少お世話になった、その程度である。一般相対論にはまず歯が立たないであろうと初めから諦め気味だったが、量子力学を独学でやったときの経験で、3回丸飲みすれば、ちょっとは分かったふりが出来るようになることを思い出し、かじり始めた次第だ。だから本の紹介などとんでもない。しかし時空のゆがみだけは、ニュース解説の意味もあって、是非やっておかなければならぬ。
- 太陽の重力場で光が曲がる。しかし光は直進するものである。だから光の通り道になる空間が曲がっている。なんだか詭弁のようだが、アインシュタインは、光大切に、常識的なユークリッド幾何学の世界を、非ユークリッド幾何学の世界に置き換えて考えた。そのために、特殊相対論ではまだ物質と時間空間は峻別されていたが、一般相対論に至ってアインシュタインはその区別を取り払った。物質の作る重力場は時空の四次元で重力場方程式で語られるのである。太陽などはまだ弱い重力場で、非ユークリッド性もわずかだが、重力エネルギーが増して質量エネルギーと等しくなる極限であるブラックホールになると、時空はグニャリと歪んでしまい、よく知られているように、光はいつまで経ってもブラックホールから出てこれない状態になる。重力場方程式は残念ながらよっぽど特殊単純な条件でしか厳密解に至らない。それでもブラックホールという概念に到達し、それがおいおいと天文学的に実証されて行くのである。
- 重力場方程式に宇宙原理を仮定してやると、ちょっぴり簡単化され解が得やすくなる。宇宙原理とは宇宙の一様性と等方性である。それでも導かれた微分方程式にはまだ宇宙項という任意項があるので、それも思い切って無視してしまう。するとニュートン力学との簡単な対応がとれるようになるという。フリードマン・モデルというのだそうだ。もう一つ常数項が残る。この常数項が-1と0の間にあると、いつまでも膨張し続ける宇宙が導かれる。残念ながら、天体観測では値がばらつくので常数項をいくらと決めることは出来ない。今天体が膨張しているのは事実である。時間がゼロの時がビッグバンである。世界の物質は1点に集中している。さらに熱い宇宙の仮定を立てたフリードマン・ビッグバン・モデルでは初期の温度が一義的に時間の関数となる。ビッグバンから10万年経つと、ようやくプラズマの空が晴れわたり、原子が中性化し光の直進が始まるといった宇宙の素粒子論的進化が明確になる。宇宙の元素のほとんどが、宇宙初期の20分で料理された。天体で観測される元素の25-30%がヘリウムで、計算値とよく一致するという。
- フリードマン・モデルには特異点がある。時間ゼロの時のほか、膨張が収縮に転じる条件の際には最後の密度無限大の時も特異点である。特異点の外側にはいったいどんな世界があるのか。そんな世界を超宇宙というのだそうな。私のレベルでは、お釈迦様にお尋ね申した方が遙かに近道のような深遠な話である。それが第7章で、最終章の表題はマッハ原理と物理法則の相対化となっている。マッハとは音速単位として名を残した学者である。世に絶対はない、すべては相対的であるという哲学に対して、あなたならどう答えますか。
- 人工衛星によるマイクロ波観測はビッグバン宇宙論に最重要の貢献をした。人工衛星はアメリカさんの独壇場である。4/20の新聞に若い恒星の周囲にちりやガスの円盤が渦巻く写真が出た。惑星の起源を告げる世界初の写真だという。国立天文台すばる天体望遠鏡の成果である。4/17NHKスペシャル「地球大進化 第1集 生命の星 大衝突からの出発」は、宇宙規模で言うその塵芥状態から、現代の大きさに地球が成長する過程をCGで示してくれた。小柴先生の「ニュートリノ天体物理学入門」では、なんだかさっぱり分からなかったが、地底深くの実験装置カミオカンデが、捕らえたニュートリノを解析することで、現代の宇宙論を理論だけの根無し草に終わらせない実証性のある科学に押し上げる重要な業績をもたらしていることが分かった。日本もなかなかの活躍ぶりで意を強くした。
('04/04/22)