五月世相寸描

- 5/1ヨルダン空港で毎日記者の手荷物が爆発し、死傷者を出した。おみやげに拾った手榴弾だかクラスター弾だかがドンといったらしい。信じられぬ「良識新聞」記者ぶりである。毎日新聞は社長までが謝罪に勤めた。だが私は「社長謝罪」という言葉に引っ掛かる。社長は、「部下の意図せぬ事故のために不幸な結果を招き遺憾に思う。かくなる上は彼の勤務新聞社として最大限の補償を行う。」というのが本当だ。簡単に自ら罪人を志願しているが、そんな奇妙な姿勢は世界の笑いものになるのではないか。朝日新聞社が北鮮拉致帰国者・曽我ひとみさんの家族住所を無断公表したことを謝罪した。横田めぐみさんの未成年の娘に身勝手な論理でインタビューして顰蹙を買ったケースもあった。カストリ新聞ならともかく、日本を代表すると自他共に認める大新聞の記者が、他人の危険を顧みずに、浅はかな行動をする。
- 個人情報保護法案あるいは今度の裁判員制度試案に対して、取材・報道の自由を妨げるとして報道関係機関から大紙面を使った反論が出た。記者も編集委員も煩悩を引きずる人間である。彼らにも何らかの暴走に対する歯止めが法の形で必要だと私は思う。5/22個人情報保護法が成立した。報道機関は適用除外なのが気に入らぬ。外部には厳しいことを云っているのに、案外身内には甘いのが普通である。
- サウジ・アラビアで外国人居住区を狙った爆弾テロが起こった。イラク・バグダッドで旧イラク軍兵士のデモ。給料払えと。流石に市民の目は冷ややかだったという。相変わらずイラク人のイラク人に対する強盗事件が市民の安全を脅かしている。一方新聞ブームで町には20紙からの新聞が発行されているという。市民はジリッジリッと自由の何にも代え難い値打ちを実感し始めている。
- 5/4読売にロシア極東地域に放置されている退役原子力潜水艦41隻の非核化・解体が始まるというニュースが載った。日本は250億円の資金提供をしているという。東電の原発が事故ではなくひび割れが見付かっただけで稼働の目途が立たず、今夏の関東は停電を予想せねばならないと云うのに、なぜか忌々しい話である。
- 読売5/21夕刊一面のトップ記事に、アメリカ公聴会における脱北元ミサイル技師の証言が出た。北朝鮮開発ミサイルの部品の9割が日本製で、万景峰号による密輸だという。毎日新聞にはこの情報は次の日に二面記事として小さく出た。毎日の21日の一面記事は海上自衛隊補給艦がインド洋上での対米艦船補給を任務に含めているという指摘だった。アフガニスタン、イラク問題ではアメリカ支援を国策として決めている。何が問題なのかもう一つ見えてこなかった。最近の毎日は防衛本能を欠いているのではないかと思われる場合が目立つ。北朝鮮は国家事業として麻薬密輸に取り組み、主な輸出先は日本であるとも証言された。公聴会は多分にやらせ的要素もあるようだから一応は眉唾で聞くべきだが、既にその証言を肯かせる証拠が多数挙がっているのだから、毎日新聞はもっと深刻に受け止めるべきであった。しばらくしてからオーストラリア沖で北の貨物船から大量の麻薬が押収された。5/29朝刊で読売は北元工作員の難民認定が認可の方向で検討されていると報じた。その北に与えるインパクトを、かなりの紙面を使って解説している。
- 香港の研究者によるとSARSウィルスはすでに4種を数えるという。先月の世相寸描で指摘した心配が当たっている。忍者ウィルスが本姓を発揮しだしたとしたら、対策はいたちごっこの長期戦になる。それに空中でも存外に長命で1日経ってもまだ10%は生きているそうだ。これからは完全退治までかなり覚悟して臨まなければならぬ。WHOは5/7死亡率を平均14-15%と発表した。5/26で世界の死者700人を越す。年齢が高いほど死亡率は高く、65歳を超えるとなんと50%だという。エイズは潜伏期が数年はあり治療薬もおいおい開発されている。しかしこの勝負の早いSARSは罹ったら最後、ロシアン・ルーレットで拳銃を頭に当てて引き金を引くような具合である。李外相が「大事ない」と言った中国の官・軍の患者隠しがおいおい明らかになり始めている。
- SAPIO 5/28号の広告に「世界の疫病神」中国を封印せよとあった。随分過激な表現である。でもその中の“ウィルスのゆりかご”中国華南地方を緊急査察せよという主張は私と同意見である。5/17ついにSARS日本上陸を思わせるニュースが飛び込んだ。台湾人医師が関西観光旅行ののち発病しSARSを確認されたのである。彼はSARS患者処置病院の医師で既に旅行中発熱していた。中国の感染拡大のかなりが治療に当たった医師からの伝染であることが既に明らかな今日、当人および旅行を許した当局の責任は非常に重い。当人は専門医なのである。しかも意図的に検疫網をくぐった(読売5/18朝刊)とされている。「世界の疫病神」などと総括したくはない。しかし中国人の倫理観の低さを改めて思い知らされた出来事である。
- 中国は台湾のWHO加入に賛成しないようにと日本に釘を刺してきた。台湾は中国の1州だからと。その台湾でのSARS感染拡大が停まらない。中国は台湾では何ら手の打ちようがない。こうなればもう台湾を国際組織の一員に加える以外ない。ウィルスにまで政治を及ぼそうというのは、人間の命の価値をあまりにも軽んじた発言である。読売5/15朝刊にSARS感染事件が中国の情報統制体制に風穴を開け、あわよくばチェルノブイリ事故がソ連崩壊をもたらしたように、中国の一党独裁体制瓦解の引き金になるかもしれないと云う憶測記事が出た。その方が中国人民にとって幸せであると私も思う。
- 中国外務次官が北朝鮮の拉致問題の国内沈静を川口外相に要請したとか云う記事が小さく出た。北朝鮮は、拉致問題は終わった、経済援助会議のテーブルに着くべきだとの対日見解を盛んに伝えてきている。G8外相会議で「北朝鮮の核開発認めず」の共同対処方針が確認された。日米首脳会談では小泉首相とブッシュ大統領が北朝鮮に対して「対話と圧力」の方針を確認しあった。中朝の利害は対日関係では一致する面があることに留意すべきだ。
- 5/4の読売に中国における日本企業の知的財産権侵害のひどさを1面記事にしていた。読売5/13朝刊に海外からの模倣品流入を防ぐ目的で、技術裁判官制度の導入が検討されていると報じられた。アメリカでは、高度知的財産の専門知識を持つ弁護士や裁判官が多いが、日本では理工系の学士を持つ裁判官が十人前後しかいない点を突いていた。理工に留まらず、医薬農漁林などの問題を専門知識なしに法律を治めた人だけで裁く珍妙さはもう何十年前から指摘されてきたが、既得権意識からか、法曹関係者が一向に神輿を上げなかった問題である。知的財産権問題を突破口に、裁判官の2/3ぐらいは専門知識人で占める体制を早く作らねばならぬ。
- ドル安停まらず。115円台しばしば。政府は買い支えに回っているようだが、いつまで続くか。読売は景気対策を懸命に主張し、亀井氏は30兆円の公共投資をと云う。私は世界に窓を開いた自由貿易体制でいる限り、今の日本経済の実力では対策は殆ど実効がなく、政策的経済対策はハゲタカ・ファンドにこの上もないほどに美味しいエサをばらまくだけだと思っている。
- 5/18ついにりそな銀行に公的資金注入が決定された。2兆円という。実質は銀行破綻による国有化である。竹中金融改革はあと1-2の大銀行を国有化して終わるのではないか。5/25の読売朝刊によると行員のボーナスゼロ、収入3割カット、子会社整理統合などかなりの出血を伴うスリム化プランが俎上に上がっているらしい。40兆円の収入に対し、まだ生まれてもいない曾孫、玄孫の税金まであてにして毎年40兆の赤字を垂れ流す政府は、このりそなホールディングスの健全化計画をよくよく理解して貰いたい。藩政時代に半知返上の制度があったことはよく知られている。藩士の知行すなわち俸給の半分を、藩財政の建て直しのために、藩は取り上げたのである。企業ならとっくに倒産している国家財政状態なのに、首相以下が高給を取っている時代ではあるまい。政府税制調査会の云う消費税2桁化などは、その後にすることである。
- 毎日5/22朝刊の千葉ニュース面に小さく住友化学の新プロピレン・オキサイド工場の操業開始が載った。自己技術によるアジア最大の工場という。松井やイチローのプロ野球記事には2面も3面も割いているのに、日本を支える技術開発にはこの程度かと扱いのアンバランスに首を傾げる。毎日はそれでも地方版の記事にした。読売はまったく触れていなかった。その大リーガー。5/29現在松井は打率が2割6分を切り、イチローは3割2分に近づいた。アメリカのファン投票はイチローに外野手1位を与え、松井は球宴に多分選ばれないであろうという。だが日本のマスコミは今も松井、松井である。理性が不思議がらないドライな取り上げ方をして欲しい。
- 5/27NHKニュースはヒトES細胞作製に京大再生医科学研究所が成功したと報じた。翌日朝刊には読売も毎日も一面で同様の記事を掲載した。失った臓器や組織の再生の切り札だそうである。切ない親子の生体肝移植など早く昔話になって欲しい。ケチを付けるつもりではないが、ES細胞作製は日本初ではあっても世界初ではない。メリットは外国のES細胞を使うと特許権を吸い取られると云うことらしい。住友化学の新プロセスは世界初である。なぜこんなにオリジナリティという面から云えば逆の取り扱いをするのか不思議である。
- 5/27読売朝刊によると年金、健康保健に加えて介護保険の基金破綻問題が制度スタート後間もないのにもう浮上しているそうだ。現在給付費が年間5兆円だが'25年には20兆円になるという。その負担増を若者からも保険料を徴集することで賄おうという試案が検討されている。福祉国家では健康者の負担増はやむを得ないが、少子化が進む現在、患者の一律負担増やシンガポールのような支払保険料による上限設定など自己責任分の増額をやらないと若者層の支持が得られないであろう。
- 宮城沖でM7.0最大震度6弱の大型地震が5/26夕方に発生した。直下型でなくしかも震源深度が深(71km)くて助かった。神戸・淡路大震災は深度16km、M7.3、最大震度7だった。その騒ぎの中で秋田県では災害対策本部に来ないパチンコ副知事が誕生、彼の辞職申し出を知事が慰留、世論を見て慌てたか一転受理。ついでに5/17青森県知事辞職願い、受理。理由はセクハラ。選んだ人たちも含め程度の低い話だ。5/18の徳島県知事選挙で吉野川可動堰建設反対の太田前知事が接戦で敗れた。議会運営のまずさが敗因か。新知事は可動堰にどう対処するのか注目される。
- 国民生活白書が提出された。学生と主婦を除くと5人に1人がフリーターだという。白書は、若者の職業能力の低下が日本経済全体に悪影響を及ぼすと危機感を表明している。我々は今、日本病に取り付かれている。頑張らなくても「そこそこに」生活できると言う現実が甘い勤労意識を蔓延させている。「そこそこに」を「ぎりぎりに」までグレード・ダウンしなければならぬ。頑張りに対し、見合った昇進と思い切った報酬が付いてくるように社会を作り替えなければならない。中国人留学生が日本の勤勉は昔の話だったとコメントした記事を見たことがある。我々世代は1日の必要カロリーすら取りかねる戦後の状態から出発し、世界一の所得水準まで持ち上げた。余暇の活用もゆとりもリゾートも所得を維持できてこそである。懸命に勉強し働いて欲しいと思う。
('03/05/31)