四月世相寸描


毎日4/3朝刊に大企業の'04年度新卒採用予定調査結果が出た。松下電器は900人という。内500人が技術系で、その200名を'04年度新規「グローバル採用」(外国人)に予定していると書かれていた。本社スタッフの国際化が目的の本社採用という。大半は中国人になるらしい。今までの現地採用の中国人の優秀さがこの決定に大きく影響したらしい。人口の単純比較でいっても優秀人材は日本の10倍だから、企業としては当然の方向だろう。いずれ松下が採用の半分をさらに2/3を外国から採用するようになっていく。他社も続く。
10年前まで日本企業が日本人従業員だけで成績を伸ばせたのは、「勤勉」「忍耐」「犠牲」「忠誠心」などに伝統的な価値観を共有していたからだと思う。ある時期から個人の利益、家族の幸福などが中心の欧米型価値観がグローバル・スタンダードだともてはやされるようになった。これが日本の若者にとって幸せな方向だろうか。旗を振った毎日新聞などはそこまで読んで、なお両刃の刃である国際標準指向を唱えていたのであろうか。世論調査の結果として読売が報じたところによると、終身雇用が若者に見直されているそうである。だがその他の日本的価値観が戻らぬのに、企業が終身雇用制度だけを再び背負うことはあるまい。競争社会は彼らが願ったことではなかったかと言うであろう。
3/31の日経平均株価が300円以上落ちて8000円を切ってしまった。小康状態で決算にやや明るさを取り戻した風に思っていたが、最後の日になって大崩した。株価の瞬間風速で決算に一喜一憂せねばならぬ竹中会計法の問題は大きい。好況の時にそっと時価評価にするのなら分かるが、よりによって一番悪いときにくだらん実験をやったものだ。その後も株価は下がる一方で、銀行生保の危機が刻一刻近づいている。
大島農相辞任。最後まで疑惑に応えなかったと書いてあった。青森県選出衆院議員である。青森では県議会の知事辞職勧告にもかかわらず、知事は辞任の意志がないと突っぱねている。4/13の統一地方選挙では国民の保守回帰と政党離れ、無投票区の増大、女性議員の増加、投票率の低下、長野、徳島両県の知事不信任案否決議員数の確保、青森県の不信任案可決議員数の確保などがトピックスであった。知事当選者は東京都の石原さんと神奈川県の松沢さんを除けば官吏出身である。首都圏を除けば県や道は実務者による実利を求めている。松沢さんはNHKインタビューで神奈川県が無くなってもいいと発言したが、これだけ交通機関通信手段が発達した今日では、もう県議会の存在理由が無くなりつつある。千葉県議選の投票率は40%と全国史上最低だった。これも国民の意思表示である。州制度への移行が望まれる。
4/5にはバグダッド市街地をかすめた米軍がサダド(バグダッド)国際空港をほぼ手中に収めた。4/7大統領宮殿占拠。4/8フセイン大統領を狙った特殊貫通爆弾がレストランに命中。4/10ほぼ政権崩壊。民衆の歓声の下で巨大フセイン像引き倒し。4/12あとフセインの生まれ故郷ティクリートを残して全土をほぼ掌握。ティクリートでは激戦かと思ったが、あの忠勇なるイラク精鋭部隊は殆ど抵抗なく霧散していた。何十年のフセイン政権とは何だったのか。それにしてもアメリカの桁違いの情報力、軍事力である。5/1ブッシュ大統領の戦闘終結宣言が出た。
 TVインタビューなどでは、開戦当時は、徹頭徹尾アメリカと戦いフセインを守ると云っていた民衆だが、しきりとフセイン憎しの本音を伝えてくるようになった。幾度となく戦火を潜ってきた民衆はしたたかだと思う。だが市内は強盗略奪暗殺など内乱状態に近く、銃器社会の欠陥が吹き出している。国立博物館の収蔵品まで荒らされている。盗られ壊されたのはメソポタミア文明の至宝である。バーミヤンの大仏爆破と同じく、異文明には容赦しないイスラムの伝統がさせるのか。同じ敗戦後でも日本とはずいぶん違う。日本は戦争に負けても国内治安は完全に維持できた。博物館荒らしは勿論商店荒らしさえなかった。アフガニスタンでも思ったことだが、なぜ治安維持が出来ないのだ、やらないのだろう。現地側の発言として新聞に出てくるのはアメリカ軍の統治責任である。自分たち相互のルール違反監視を自分でやらないで他国のせいにする根性が分からない。大学の同窓会でそう言ったら、日本のように清廉潔白な民族は世界でも希有だと云うことになった。
米軍が新政権設立後治安を引き渡すまでに半年とアナウンスされているが、もっと長いであろう。敗戦でたちまちに伝統文明から勝者の文明へ頭を切り換えた日本と違って、イラク人は誇り高く頑固である。容易にはアメリカ式民主主義を容認しまい。日本には大正デモクラシーがあった。明治以来西洋の文明吸収に勤めた過去がある。だから少なくとも民主主義に対する経験があったと言える。しかしイラク国民にはそれがない。西欧文明に対するイスラム文明という歴史認識になる。
この構図では自力では独裁専政恐怖政治から抜け出られない。民主主義国家だって世界の脅威とならぬとは限らない。しかし民主国家では凡人の常識というフィードバックが狂気の暴走だけは防いでくれると信じている。誰かが何処かで専政を断ち切る矯正手術をやらねばならぬ。昔ならイラクほどの距離にある外国の話には無関心でおれた。だが、戦争手段の進歩は、いやでも明日のわが事と思って関わり合わざるを得ないようにしてしまった。自分が局外者で未来永劫にわたって絶対安全という条件でしか成り立たない、いわば他人事のような戦争反対論など何の役にも立たない。しかしそんな議論が「進歩的」文化人を擁するマスコミには多いのである。
4/16読売の連載−イラク後の世界4「国連頼みに限界」−は北朝鮮有事の時に中露が常任理事国である安保理で何が出来るかという現実論で、自国国益優先の国連を唯一の頼りであるかの如く幻想する無理を指摘していた。頼りになる安保理だったとしてもアメリカさんにお願いするしかないのである。さらに読売4/17朝刊に「日本と安保理−300億出して"白紙委任"−」と言う題の編集委員論文が出ていた。国連分担金は拒否権がある仏、英、中、露4国合わせても日本一国の負担率に及ばない。日本は分担金支払い停止をちらつかせてでも安保理に定席を求めるべきだとある。ところが国内の国連至上主義者には意外にも常任理事国入りに腰が引けている人が多いとある。国連とか安保理は矛盾に満ちたエゴ剥き出しの場であり、それを自覚して日本の国益を追求せよと迫っている。私とほぼ同じ意見である。
毎日4/17朝刊一面に航空自衛隊が「第2の対人地雷」クラスター爆弾を保有していると大活字で報じた。地雷では率先して廃棄した。同様にクラスター爆弾も廃棄せよという意見のようだ。日本が兵器を先頭に立って廃棄して行くのはよいことだ。だが周辺諸国すなわち韓国、北朝鮮、中国、ロシア、アメリカがそれに習ってくれて始めて有効になる。地雷を廃棄して周辺がそれを見習ったか。Noだ。日本は今でも外から見れば金持ちの無防備国でまことに美味しい存在である。馬鹿げた平和ごっこはお断りだ。
わが国ではSARSはまだ水際で食い止められている。世界中で発病が報じられているというのに立派なことだ。各国の努力でSARSの原因が新種コロナウィルスだと突き止められた。このウィルスでサルが同じ症状になると言う。コロナウィルス科は、エイズウィルスの属するレトロウィルス科と同じく1本鎖RNAで、分類上互いに近い関係にある。エイズウィルスはRNAタイプ特有の忍者ウィルスで、次々に新型に変質して従来の免疫療法を寄せ付けない。コロナウィルスはどんな性質かまだ知らないが、忍者形である可能性は否定できていないと思う。エイズに対しては未だに完璧な特効薬はなく、日本では'91年には患者数が400名台だったのに、今や若者中心に3万人を越す(NHKスペシャル4/26放映)という。抗SARS薬も開発に最短でも3-4年はかかるはずだ。
京大総合博物館の自然史系展示部に、生命種の豊かな地方として東南中国が上がっていた。だからこの地方は病原体を含めた未知の新種生命体の宝庫であるとも云えるのであろう。今後も要注意で、権威ある世界の最先端研究所が常駐するのが望ましい。6日の北京における日中外相会談でつつかれて、李外相は「マスコミは注目しているだろうが、それほど深刻ではない。もう抑制されている」と述べた(共同)という。李外相はよく勉強して貰いたい。中国は体面や面子、あるいは政治経済上の思惑を病気にまで持ち込まないで欲しい。4/10中国の発病者数の政治的過小評価が内部告発により明るみに出た。4/11のNHKニュースでは、中国が研究所長発言の形で抑制したという認識を取り消した。NHK4/17クローズアップ現代は死者が150名を越したと報じ、WHOが中国の情報統制が世界蔓延を引き起こしたと非難した事も紹介していた。月末では死者が400人に近い数になった。WHOの推計では北京の患者数は当局公表の5倍だと云う。その内に9倍になった。
NHKで4/16国連人権委員会が「北朝鮮に組織的な人権侵害がある」と非難決議をしたと知った。拉致事件にも言及されている。韓国は採決前に退場した。拉致者数としては日本よりずっと多いはずなのに不思議な姿勢だ。このニュースは読売4/17朝刊には一面トップ記事として出たが、毎日には夕刊に三面記事として出ただけだった。北朝鮮について毎日は及び腰である。25日に米朝中会談が行われ、北朝鮮が核保有を公言した。この脅迫によりアメリカから政権の安堵を勝ち取ろうとしているらしい。
NHKプロジェクトXにOSトロンが出た。携帯、ファクス、コピー機などのOSとして世界を制覇する勢いであるという。マイクロソフト擁護のアメリカの301条脅しで小学校用PC搭載を通産省が取り下げて以来、日陰を歩いたトロンが実力を方々で認められ出したのはまことに喜ばしい。自動車エンジン制御に最初に取り上げたのはトヨタであったという。それにしてもあのアメリカの脅しは卑劣だった。完全無償公開の大学の先生のプログラムを301条対象にしたのである。これからはソフト時代だと分かっていたのに、通産の弱腰にもガッカリさせられたものだ。
最近のNHKスペシアルは面白い。3/30の「要塞町の人々」はアメリカで今、「要塞町」と呼ばれる高級住宅地が次々と出現しているというレポートである。ガードマンが不審な人物の侵入を許さない。中南米ではもっと昔からあったと思う。日本も治安不安が続けばいずれこうなるだろう。現に最近のマンションは10年前の開放型から閉鎖型に変わってきた。2/26の「睡眠時無呼吸症候群」はJR西日本の新幹線運転士による運転中の居眠り事件を取り上げた。これは、睡眠中にたびたび呼吸が止まるため熟睡できず、日中に眠気で集中力が減退し、本人の自覚がないまま居眠りをしてしまうという病気である。太り過ぎなどに多いと云うから贅沢病の一つらしい。「個人破産〜アメリカ経済がおかしい〜」はITと株のバブルがはじけた後のアメリカで企業の投資意欲が完全に冷え込む中、ひとり経済を支えているのは個人の消費だが、それがおかしくなり始めたという警告である。日本が停まり、アメリカが停まり、EUにもブレーキがかかっている。世界経済が地獄を見ようとしているのかと、いよいよ心配である。

('03/05/03)