ヒョウタンの系譜


歴博くらしの植物苑は、拙宅から車でほぼ1時間の距離にある。渋滞が少ない道で、ドライブを楽しみがてら出かけるのに丁度良い場所である。先週の土曜日に、そこの観察会で辻先生の掲題のお話を聞いた。植物苑の入口には、ヒョウタン棚が仮設されていて、センナリヒョウタンが沢山ぶら下がっていた。なかなかの雰囲気で、聴衆はいつもより多かった。
ウリもメロンもヘチマもカボチャもトウガンもゴーヤも、ヒョウタンと同じウリ科の植物だという。そう言えば、花や葉の形も茎が蔓性であることも互いによく似ている。岩波生物学辞典によると、ウリ科は被子植物門、双子葉植物綱、離弁花亜綱、ビワモドキ下綱、スミレ目に属する。ビワモドキ下綱には、ツバキ目、アオイ目、ツツジ目、カキノキ目などあって、正に身近の高等植物群である。民間でヒョウタンと呼び慣わしてきた植物が、実は植物学上のヒョウタン(ユウガオ属)とは別の属に入るものもあるという。種としては同じヒョウタンなのに、食用にするのと容器に利用するのとで別の言い方をする。中には、トウガン属やカボチャ属との属間雑種ではないかと疑われる種もあるそうだ。属間雑種はたいていは不稔性であるが、ウリ科の植物は属内の交雑は殆ど自由らしいので、あるいは、ありうることなのかも知れない。
世界大百科事典にヒョウタンの文化史という解説が載っている。水や酒の容器に古くから利用され、水神、船幽霊、火神に纏わる祭具などに、その名残を今も見ることが出来るという。楽器としても登場したことがあるようだ。先生は1万年前の遺物があるとおっしゃった。食用か容器なのかは解らないそうだ。縄文前期もいいところだ。世界一古いが、それは日本の考古学的調査が進んでいるという証拠で、余所のヒョウタン利用が遅れたと云うことではないそうだ。
くびれたヒョウタンはしかし歴史がずっと浅く、中世からと言う。私らに記憶されているのは、もちろん秀吉の馬印としての千成瓢箪である。私は千成りとはデザインの名で、こんな亜種名のヒョウタンがあるとは知らなかった。大百科にはvar. microcarpa Haraと書いてあった。ついでだが、私はこの事典によって「瓢箪鯰」と言う言葉の由来を知った。「ヒョウタン」の横に書いてあったのである。吉永小百合らが出演した映画「細雪」の中で、煮え切らない男を「瓢箪鯰ねえ」と横山道代が上目遣しながら云うシーンがあった。彼女はお見合いの仲介者役である。意味は分かるが語源がずっと疑問のままであったのである。
聴衆は年輩者が大半だった。一番若いのが講師と、先生自らが冗談めかして云わねばならぬような状態である。その先生も中年である。先生は適度にユーモラスに、かみ砕くように分かり易く話された。もう何年も続いているいい企画である。その存在は関心があれば解っているはずだ。中学生や高校生は何処へ行ったのだろう。今回の観察会は夏休み最中だし、入苑料はタダなんだから、もっともっと中学生・高校生が集まってもいいはずなのにと思う。
毎日8/26朝刊の理系白書に、日本における科学雑誌の不振、特に若手の博物館・科学館離れが載っている。中学2年生対象の国際数学・理科教育調査によると、日本中学生の博物館や美術館に行く回数は、国際平均を大きく下回るそうだ。中高生の数学オリンピックの本年の日本の成績は16位だそうだ。じわじわ成績が落ちて行く。トップは常に中国とアメリカで、韓国も健闘している。科学立国、技術立国がどんどん遠離って、お題目だけになろうとしている。そもそも理系の素養がいらない事業なんてないのだ。日本はこれから確実に、それこそ戦後の焼け野原の時代から今日までに、営々と積み上げてきた資産を減らして行くであろうと思う理由の一つである。どうしたら、全国民的であったあの昔日の科学への熱い思いを取り戻せるのであろうか。

('02/08/27)