沙羅双樹


妙心寺の塔頭・東林院の沙羅双樹が花を付け、特別拝観ができるというニュースをTVで聞いた。樹齢300年で樹高15mと聞く。平家物語序文冒頭の、「祇園精舎・・・」に続く「沙羅双樹の花のいろ、盛者必衰の理をあらはす。」は、私の好きな日本語の一つである。だが私は沙羅双樹を見たことがない。世界大百科事典には、沙羅双樹(サラノキとかシャラノキとも云う、フタバガキ科)は熱帯原生で北は北緯32度まで分布すると書いてある。北緯32度は鹿児島あたりで、妙心寺は北緯35度1分だからちょっと北限をオーバーしている。日本の寺院で沙羅双樹として植栽されるのは、実は全然別科(ツバキ科)のナツツバキだとも記載してある。北村四郎他:「原色日本植物図鑑」、保育社、'79にもナツツバキ(シャラノキ)の項に類似の説明がある。
インターネットで調べたら、妙心寺の沙羅双樹はナツツバキであった。平家物語の作家は、このツバキ科のシャラノキの大きな白い花が、咲き誇った日の翌日にぼたり、ぼたりと落ちる様子を、仏教思想に繋いで、盛者必衰の理と観じたのであろう。フタバガキ科のシャラノキは、お釈迦様の三大聖木の一つである。それにしても(沙羅双樹)and(妙心寺)のページ検索で200件に余る情報が取れるとは、インターネットは恐ろしく有用な情報システムである。百科事典が廃れるはずである。
都会で四季を花で感じるのは案外難しい。植木では偏っているし、外国産のガーデニング・フラワーも結構多い。何時のころからか、私は半ば定期的に、公園やら植物園を訪れる癖が付いた。今は照葉樹林の青葉が目立つ季節で、花が目立たない季節のはずであるが、その気で見れば結構花を見つけることが出来る。キョウチクトウでは白は既に咲いていたが、赤が咲き始めたし、ネムノキの薄桃色の花が霞のように樹木を覆いだしている。近くの公園はデイゴが多く植わっているのが特徴である。一面の真っ赤な花が南方出身を主張しているようで、何か健気である。アジサイ、ハナショウブ、キショウブ、アヤメ、カキツバタ、クマノミズキ、ナンテン、オニユリ、クチナシ、リョウブ、ムラサキシキブ、ザクロ、クリ、ホタルブクロ、ドクダミ、ハス、スイレン、名も知らぬ草花を入れたらもっともっとある。花ではないが、歴博付属のくらしの植物苑で見たケムリノキは、果実が枝の先から煙のように湧き出ている風で面白かった。
青葉の森公園には水鳥の観察小屋がある。植物観賞方々時折覗いてみる。渡り鳥が居らなくなって今は種類が少ない。バード・ウオッチングは相手が居ったり居らなかったり、居ても絶えず動き回るので、なかなか確信が持てない。よほどタイミングが良くないと人に教えを請うことも難しい。と言って博物館の剥製を見てももう一つ興味が湧かない。やっぱり私にはツリー・ウオッチングが向いている。旅行に出たとき植物相の変化が解って、ささやかな優越感を味わったこともあった。植木にお金を掛けた公園とそうでない公園の区別も、ぼんやりながら出来るようになった。
一角の口を利いたが、その季節に特徴の少ない樹木は、単独で出会うと、さっぱり解らないと言うのが私の実力である。花がないときのバラ科サクラ属、ツバキ科ツバキ属などの樹木はいい例である。シダレザクラは葉が無くても枝振りで解るが、ソメイヨシノ、ヤマザクラ、ヒガンザクラ、サトザクラ、オオシマザクラなどは、花が付くまでは、はっきりとは区別が出来ない。チャは栽培されているから区別出来ようが、ワビスケ、サザンカ、ヤブツバキ、フユツバキなどは、やっぱり花も見ないと確信できないのが普通である。私はそう言う樹木を名札が付いている場所で覚えている。整理の仕方としてはちょっと不自然だが、科学的な分類法に気が付くまでは、仮の整理法としてやむをえないと思っている。我が町では同好会の人たちが植物に名札をつけ回っている。結構なことだ。

('02/06/17)