三月の一面記事

- 5日の読売朝刊に、米露の研究チームが常温核融合の実験に成功したと載った。J.R. ホイジンガ:「常温核融合の真実」、青木薫訳、化学同人、'95は、「今世紀最大の科学スキャンダル」と言うサブタイトルが付くことからも明らかに、'88以来ユタ大学のフライシュマン教授とポンズ教授を中心に、世界を巻き込む大騒動になった常温核融合反応をエセ科学と決めつけた分厚い解説書である。エセと断定された理由は、バックグランドを減らせば減らすほど、中性子発生量が減って行くという実験結果である。
- 最も精密な実験として上げられているのが、日本のカミオカンデによる検出だ。水深に直して2.7kmという、滅多に宇宙線が届かない安定条件での結果も、肯定的ではなかったのである。今回の発表はもちろんこの過去を承知の上だろうから、今後の展開が楽しみである。超高温核融合実験は世界各国で今も継続されている。しかし、理学的にその発熱を取り出す方法が見出されてても、工学的には、その超高温が仇となって終局不成功に終わるだろうと私は悲観的だ。だからあの金食い実験は日本ではもう縮小すべきである。それに比べれば常温核融合のなんと夢の多いことか。カミオカンデ実験室は早速その追試に取りかかるべきだ。
- 8日毎日朝刊に、下部マントル内には海水の5倍の水が保有されているという東工大の研究発表が載せられた。高圧高温装置で地下のマントル鉱物を再現した結果だという。25万気圧1600℃だという。私が学生の頃、確か「高圧化学」という表題の小冊子があった。記憶に間違いがなければ、当時の実験可能の超高圧は2-3万気圧であった。温度は500℃を超えられなかっただろう。読んだのはもう半世紀は昔に近い。実験技術の進歩に驚く。下部マントルとは地表より660-2900km下だそうだ。未知の世界の扉を、今後、どう開けて行くのか楽しみである。現在の人間の知識は、海も陸もせいぜい深さ4-5000m程度までであろう。
- 中旬の読売にメタン・ハイドレートからのメタン採取試験に国際チームが成功したと報じられた。日本周辺海域にもこの水和物は多量に存在する。工業的に成功すればエネルギー資源皆無の日本には朗報である。しかし深海で位置の確定も並大抵ではない。だいぶ先の夢のようだ。
- 23日の毎日朝刊に、南極大陸から掘り出された7000年前のペンギンの遺骨から、ミトコンドリアDNAが抽出され、それから遺伝子の異変速度が従来考えられていたものより2-7倍早いと言う結論になったと報じられた。ブライアン・サイクス:「イヴの七人の娘たち」には、進化論に遺伝子の突然変異を持ち込む基本的根拠の一つがこの異変速度で、人類では1万年に1回の突然変異が確認されたと述べている。そこが狂うと進化の系列がづたづたになることは明らかだ。分析法は確立されたものだから問題なかろうから、あとは人とペンギンの差、南極という位置の問題などなど見守っている方には、今後に興味津々である。
- 同じ朝刊に北村四郎京大名誉教授の訃報が載っていた。私がよく参照する「原色日本植物図鑑」、保育社の共著者である。業績紹介記事に'55の京大学術調査隊でアフガニスタンに出掛けたとある。私が、このホームページの「アフガニスタン」で、蒙古語を話すジンギスカン遠征隊の末裔部族の話を入れたが、その調査隊はこの京大隊だったのであろう。謹んでご冥福をお祈りする。ついでに同じ京大関係のニュースだが、京大学生新聞の最近号に、前ウイルス研究所長・伊藤嘉明教授のインタビュー記事が載った。定年退官によりシンガポール大学の腫瘍学研究所長に招聘され、10人の研究員もろともに移転するという。定年退官で移転というのが引っ掛かる。55歳ぐらいに一応の定年ラインを敷き、有能の先生には、人に応じてあと何年もの延長を認めるというのが理想的なんだけれども、誰が有能の判断をするか、つまり猫に鈴をつける人が悪平等の社会では育たなかったというのが私の感想である。
- 中央官僚の文系優先昇進の実態が毎日新聞の25日朝刊に特集されたいた。理系白書シリーズの第3部「文系の王国@」である。採用時は55%が理系出身であるのに、トップの事務次官クラスになると僅かに3%だという。民間もそれに合わせたようにトップほど文系優位になる。民間は官になびかねばやって行けないからそうなるのか、ともかく科学技術立国だというのにおかしいではないか。私は若い時期に、ドイツの大化学会社へ、技術導入のための実習に派遣されたことがある。当時のドイツでは、その会社だけではなく少なくとも製造会社のトップは殆どが理(工)学博士であった。なぜ日本では法(経済)学士ばかりなのかというのはその頃からの疑問であった。トップの出身とは、あらゆる装飾を取り外したあとの、その集団が持つ究極のポリシーの一つである。今後の議論の展開に期待したい。
- 鈴木、加藤両代議士だけで終わるかと思ったら、今度は野党の辻元議員に政策秘書疑惑が持ち上がった。北朝鮮拉致問題を、小泉首相は、国民安全の根幹問題と位置づけて日韓頂上会談に臨んだのには好感を持った。10人ぐらいの拉致疑惑者のために、国の外交を歪められるかと云ったとか云わなかったとかの、外務省関連記事が気になっていたのである。北朝鮮赤十字は「有本恵子さん」問題には一応の反応を示したが、今までの経過があるから、また見返り援助が終わったら、はい、さようならではないかと疑っている。経済は相変わらずのアプアプだが、藁をもつかむ思いの藁があちこちから流れ始めている。とにかく今月は政治記事、経済記事、社会記事とも私には食傷気味であった。だから小さい記事であったときもあるが、主に理工学の記事をこのホームページに取り上げた。
('02/03/26)