女優田中裕子


ビデオ撮りしてあった映画「天城越え」を見直す。何度目だろう。封切りは'83年で、もう18年も昔になる。何度見ても名画だと思う。映画は普通時が経つと共に感激が薄れ、ご時世に合わぬ時代遅れの印象もときには出てくる。評判となった作品でも見直す意欲は衰える。しかしこの映画は、少年の殺人事件と大人の先入観、誤解を扱う正に現代の青少年の心の闇を先取りをした原作(松本清張:「天城越え」、新潮文庫「黒い画集」収録)の確かさと主演者(田中裕子、ほかに渡瀬恒彦、平幹二朗)の好演で後世に残る名作映画になった。田中裕子の代表作でもあるのだろう。
足抜けで急ぐ酌婦と家出を思い留まって戻る14-5の少年が連れ立って人通りが途絶えた山路を行く。意図せずとも洩れてくる大人の女の戯れの秋波に少年の男が目覚めて行く。それが少年の義侠心と共鳴して酌婦の売春相手への怒りとなる。この心理の絡み合いの描写が実に見事だ。見せ場は他にもある。坂上二郎の菓子行商人、修善寺の曖昧料理屋での酌婦同士が客を取り合う喧嘩、刃物を振り回しての立ち回りである、田中裕子が似合っているなあと感心する、樹木希林がやる派手な夫婦喧嘩、下田警察署取調室、2度と作れないようなシーンの連続である。この映画は何度か放映されたが、私のビデオになったのは4年ほど前のNHK BSでの衛星劇場であった。コマーシャル無しで質のいい画面である。映画館では見ていないが、その機会がいつか何処かで訪れることを期待している。
リメークの「二十四の瞳」での大石先生役には、それほど感心しなかった。これは12人の少年少女の演技が今一だったからであろう。高峰秀子が主役をやった初作では、戦前と戦後の混乱期を肌で知っているスタッフも多かったろうし、子役もある程度は心得ていただろう。だが、リメークでは子供達の演技は借り物だった。「男はつらいよ・花も嵐も寅次郎」のマドンナ役は出色の出来映えであった。つらいよシリーズのビデオ全48巻売り出しの一面大広告が今日(5/29)の毎日新聞に出ていた。このシリーズは人気があると見え時折広告が出る。「花も嵐も寅次郎」はその第30作目'82年の作品である。マドンナはその前の第29作がいしだあゆみ、あとの第31作が都はるみで、このシリーズでも脂ののった作品が並ぶ時期である。「花も嵐も・・」は、愚直一途を演じる沢田研二と呼吸のあったコミカルな作品になった。ロケ先が私の任地だったので余計に印象深い作品になった。
テレビではまずは「おしん」第2部を上げねばならぬだろう。第1部の小林綾子の伝説となった名子役ぶりに隠れてそれほど評判は長続きしなかったが、苦難の青年時代に度胸を据えて生きる姿は清々しかった。腹の据わった女と言う役柄は一種彼女のその後のトレードマークになったように思う。NHK大河ドラマ「翔ぶが如く」で大西郷の妻を演じたときもこのトレードマークがものを云ったようだ。台湾の航空機事故で逝った向田邦子のドラマシリーズでは、毎回だったかどうかは定かではないが、よく出演していた。大抵は行き遅れの姉の役で影のある心の襞を見事に出していた。
高倉健との共演の「ホタル」が封切られている。今度はどんな女を演じてくれるのだろう。世代を代表する名女優を世代毎に見いだせるのは幸せである。

('01/05/30)