
- わが家の世界大百科は三代目である。初代は全32巻をほぼ30年昔、二代目は大百科事典の名で全16巻、出版されてすぐだったから'85年に、今の三代目は元の世界大百科事典に戻って全35巻、'92年に買っている。平凡社が延々半世紀近くにわたって継続してきた文化事業である。初代は幾らだったか忘れたが、三代目が揃いで27万5千円だから、当時の懐具合からすれば当然この買い物にはかなりの決心が必要だった。だが、生き残るためにはますます高い専門性を要求される世界に住むものにとって、常識の泉話の泉としてこの百科事典はまことに重宝な存在で、私は十分に元を取ったと思っている。
- 毎年年鑑が発刊された。一年の集大成としてこれも貴重であった。昨年アルマナックが送られてきた。第二代出版後の15年のまとめで世界大百科事典補遺巻である。毎年今時分に関連の案内が来る。だが今年は来ない。不思議に思って平凡社に電話し、始めて世界大百科事典の出版事業が終了したことを知った。この文化事業が経済的に成り立たなくなったらしい。電子化を担った日立デジタル平凡社も店を閉めるらしい。残念な話である。国民の本離れ、出版業界の低迷は承知していたが、年鑑の編集事業も継続不能なほど深刻だとは思わなかった。電話先の人は日立システムアンドサービスの「ネットで百科」を継承先として紹介してくれた。結局日立の系列に完全に移ったと云うことか。
- 「ネットで百科」では世界大百科事典のCD-ROM版を12000円という格安の値段で売っている。インターネットで百科事典を検索するシステム「ネットで百科@Home」の1ヶ年の使用権利付きだから、その分4800円を差し引いた7-8千円が世界大百科事典の価格となる。私は4年前に古本屋へ初代と第二代を処分したときそれらはタダだった。この手の書籍の価格下落は酷いものである。だがインターネット検索を事業の主流に据え、その閲覧権を売ると同時に、CD-ROM版も販売する百科事典の方向は世界共通らしい。ブリタニカも、あまり詳しくは調べていないが、小学館の百科もそのようである。ブリタニカは2世紀以上昔にスコットランド・エジンバラで生まれたが、アメリカ・シカゴ大学に版権が移り、今は会社組織になって全世界的に活動している。
- ブリタニカやマイクロソフトの百科事典の日本語版で何が悪いかという議論もあろう。それらの日本での浸透ぶりにはめざましいものがある。だが、文化の集約事業を日本人が放棄すれば、今の経済界と同様に、我々は文化上もアメリカ人の補完的立場に甘んじる方向に一歩進んだことになる。私はこの日本を代表する大百科事典に生き残って欲しいのである。世界文明は多様性モザイク状有機体であって欲しい。経済運営上はグローバリゼーションとはアメリカにとってはまことに都合のいい論理であった。文明にまで及ぼされては堪らないと思っている。
('01/03/27)
- 今日読売新聞にブルタニカ国際年鑑の広告を見た。あちらは元気らしい。
('01/04/17)