
- 船には造波抵抗と摩擦抵抗が働く。後者は水の粘性に基づく。水道管の摩擦損失と同類だから割に馴染みがある。だが、前者とは現役時代についに一度も出会さなかった。船旅のたびに、舳先が造る波となって逃げて行く無駄なエネルギーがどれほどのものか、当たってみたいと思っていた。何しろ専門外もいいところだから、定量計算で頼れそうなのは、手持ちの資料では、日本機会学会:「機械工学便覧改訂第4版」、'61(第15編第4章が「船舶」である。以下便覧という。)だけである。飛鳥は諸元を割に詳しく開示しているので、この船について計算してみた。
- まず、飛鳥が便覧当時の大型高速客船とはだいぶ違った体型をしているのに気付く。幅広く浅底だ。むしろ当時の小型客船に近い寸法比率になっている。昔一次大戦前から'70年頃までは、大西洋航路には幾多の高速船が国の名誉をかけて競い合った。だが、それらの船の諸元は明らかでないので、便覧の計算式をチェックできないのが残念である。「宇宙戦艦ヤマト」でお馴染みになった、丸棒が船首に突き出た構造、球状船首は便覧になく「世界大百科事典」、平凡社、'88(以下大百科という)にでているから、これは'70年代以降に実用化した技術改良であろう。高速では摩擦抵抗よりも造波抵抗の軽減に苦心する。球状船首もその一つである。高速コンテナー船ではそれでも全抵抗の半分が造波抵抗だという(大百科)。
- 便覧の計算式は標準船用だが、最速21ノットの船飛鳥の概算になら使ってもいいだろう。方形係数を図より0.61と求めた。方形係数とは船の形状を示す重要な指数で、もし箱船だったら1.0、半円筒船だったら0.79、半球状船なら0.52である。また摩擦抵抗は標準船形のまま、また造波抵抗は2割減とする。この仮定は全く根拠の無いカンである。計算途中経過は全部省略するが、造波抵抗は全抵抗の49%になる。エンジン出力11,770x2 PSで全抵抗が12,820PSだからエンジン出力の内推進に寄与したエネルギーの割合は55%である。ロス45%の大半はプロペラのロスである。この数字なら妥当なところだ。これは排水トン数/総トン数が0.543であることを示す。
- いかに船形を工夫しても30ノットを越すとだんだん飛行機の燃料消費率に近づくという。いかな軍艦でも40ノットを越すことは出来ないそうだ(大百科)。飛鳥は0.8 PS/トン、それに対し32ノット近い記録のあるクイーン・メアリー号が8万トン強で16万PS弱だったから、2 PS弱/トン。これがもっと小型の高速船だったらエンジンのお化けになってしまう。潜水艦だと造波抵抗がないから、大型艦ほど有利になる。そういえば、昔日本海軍に1万トンを越す潜水艦があった。高速民用潜水船計画の記憶もある。あれはどうなったのかな。
- 色々つまらぬ計算をお目に掛けた。だが、計算すると問題定量化の際のネックが判る。この次ぎ船旅するときに船内図書室でゆっくり調べればよい。機関長とか航海士に聞く方が手っ取り早いかも知れない。あるいは船の科学館で判るかも知れない。まあ定年後のたっぷり過ぎるほどある余暇の潰し方の1例のつもりで書いてみた。
('01/03/03)