うそかえ(鷽替え)


太宰府天満宮に詣でたとき社務所でうそ(鷽)鳥の木彫りを授かった。社務所にしか置いてなかったので、何か祭神と繋がりがあるとは思っていたが、うそかえ神事の小道具だとは知らなかった。平凡社の世界百科大事典には、うそかえとは、正月7日夜、明かりを消した境内で参詣者同士が神前でこのうそ鳥の木彫りを取り替え、前年の不幸をうそとしその年の吉兆を招くという民俗神事のように記載されている。鷽を嘘に当てている。京都北野神社にも、大阪の天満宮にも、東京亀戸天神にも類似の行事があるという。私は幼少年の頃北野神社からそう遠くはない町にに住んでいたが、そんな神事には気が付かなかった。神のお加護もなく戦いには破れたし、戦後は迷信だとか科学と言う言葉がやたらともてはやされた。日本の神様は肩身が狭かった時代だったからであろう。
読売新聞の24日夕刊の写真記事を見て次の日に亀戸に出かけた。亀戸天神では24,25日の2日間この行事を行う。拝殿前に臨時のうその授与所が出来ていて、多分アルバイトの即席神子であろう、彼女達が木彫りを売っていた。一番でっかい7000円の木彫りはもう完売したあとで5000円以下しか無かった。私どもは財布のお守りにと一番小さい木彫りを買った。太宰府のうそはなかなか凝った木彫りである。上述の百科大事典のイラストでも判るように、鳥の頭を羽毛が三重に取り囲んでいる。羽毛一本一本は鉋屑のように薄くかつ先端を上方に巻き上げた姿に削られている。民芸品としても鑑賞に耐える品である。亀戸のそれは至って簡素な木工品であった。顔の描き方は太宰府のそれと似ているが、翼は全体を一枚で代表させていた。
割烹升本で昼食にする。たまたま間違って平井駅で下車し天神まで歩かざるを得なかったのだが、その途中亀戸にぐっと近づいてから見つけた和風料理屋である。元祖江戸前亀戸大根あさり鍋の広告が気に入ってここに入った。都道314号線南側沿い亀戸4丁目交差点東寄りにある。まだ歴史は浅いようで、私の古いガイドブック、東京都観光連盟監修、「東京の散歩道」、日地出版、'79には、その交差点の元祖いり豆本店はあるが、この店は載ってない。亀戸大根のサンプルが店先にある。長さが30cmもない小振りの大根で、江戸時代から大正の頃までここらで栽培されていた幻の大根だそうだ。
ぶっかけ飯とか犬飯の類である。起源は江戸時代の農民や漁夫、人足に駕篭かきといった肉体労働者、商家なら手代とか丁稚の、ファーストフードの一種だったのだろう。飯は麦飯が陶器のお櫃に入って出てくる。鍋は合わせ味噌仕立ての野菜汁で、少々のうどんと、餅の唐揚げなのか、えらく強靱な歯ごたえがある短冊状の薄い油揚げ状食物が何個も入っている。あさりもたっぷり入れてあって、うたい文句通りなかなかの味である。これをしゃもじで掬っては飯にぶっかけて食う。唐辛子ベースの辛い薬味を混ぜる。当店特製だとわざわざ講釈してくれる。寒い日にはもってこいの料理で、ふうふう吹きながら3杯立て続けに食ってしまった。鍋底にあさりの貝柱を見た。香の物に亀戸大根の2種、1つは切り揃えた生大根に味噌麹を添え、もう1つは奈良漬け風にして出す。これも珍しくかつ美味い。すり下ろした山芋に貝柱を混ぜた生地の油揚げ2片をデザートにしてある。値段は消費税込みで1300円余り。夜は4-5千円クラスの料理を出す店の昼間サービスといったところだろう。めっけものであった。

('01/01/27)