
- 娯楽時代劇華やかなりし頃、必殺シリーズというのがあった。今から20年も30年も昔になる。朝日放送、松竹製作の人気番組で長く続いた。シリーズ終わりの方では藤田まことと誰かが交代で主役をやっていた。その誰かの一人が山田五十鈴だったとき、この富嶽百景殺し旅というシリーズ第13弾が放映された。最後に闇の仕置人が表の裁きでは裁けない悪をばっさりと始末し遂げるから、道具立てが目新しくなるだけで、物語の本質は従来と大同小異であったことには変わりがない。が、私の記憶に残った。多分、それは葛飾北斎の「富嶽三十六景」を踏まえ、かつ北斎と写楽が同一人物であるという設定になっていたからである。
- ビデオ屋で借り出して見直す。確か最後の第14話だったと思う。北斎は小沢栄太郎、その娘お栄が吉田日出子で、天衣無縫の北斎とこれまた天衣無縫のお栄が、ハチャメチャな浮世絵三昧の人生を送る姿を見事に演じている。仕置人(からくり人と云った)の元締めが旅芸人一座の座頭山田五十鈴で、そこへお栄から北斎を殺してくれと云う依頼が来る出出しからして筋の面白さが出ている。実は北斎が注文殺到のため、本屋から逃げ出す口実に、見かけの殺人を依頼しているのである。肩の凝らない作品としてお勧めである。
- 北斎イコール写楽とは、写楽の活動期間があまりにも短かったために巷で囁かれた俗説である。新聞で取り上げられた記憶もあるし、平凡社の世界大百科事典にも一言付言している。北斎は「殺されて」自由の身になったが、版元は北斎ものの価格上昇を当て込んで、今後北斎を名乗らぬ約束をさせる。役者絵に開眼した北斎は写楽という別名の浮世絵師になって世に出るが、北斎存命を危険視する投機家達によって結局は殺される。写楽10ヶ月の見事な説明である。奇想天外ではないが、意表を突いた脚本と言える。
- 浮世絵をまとめて200点も見たのは始めてであった。千葉市美術館でこの正月から始まった「浮世絵 美の極致」展はスイスのバウアーコレクション600点の中の選りすぐりだそうだ。春信、清長、歌麿、写楽、北斎、豊国、広重などが一堂に会する。美人画の系統、風俗画の系統、風景画の系統、役者絵の系統など色々楽しい展示である。同じ浮世絵師が描く美人の面立ちはいずれも似通っている。上村松園の美人画を見たときもそう書いたように思うが、個性を目立たさないのが日本画の伝統なのであろうか。テレビドラマの捕物帖などで出てくる似顔絵は、同じ線画でも特徴をよく捉えた描き方をしているから、日本の技法に問題があるわけではない。絵師の間にはかなり差違があるのは、それぞれの理想が違っているからであろう。富嶽三十六景を見つけた。稲妻が走る山下白雨に赤富士。一度本物を見たいと思っていた写楽の役者絵も並んでいた。「必殺」ドラマの中で北斎が役者をデッサンするシーンがあった。遊興中に飛び入りしてきた役者を買ってモデルにするのである。美人画が没個性的であるのに対し、なんと雰囲気に溢れている絵であろうか。百科大事典では、役柄の真骨頂を極めようとしたデフォルメが一時人気に終わったのが、写楽の寿命を縮めた原因としていた。
- 「必殺」に導かれた「浮世絵展」であった。単なる娯楽作品による暇つぶしで見ていたつもりでも、意識の深層は意外な価値を捉えているものだと思った。
('01/01/07)