
- この映画を今年最後の映画に選んだのは、学生新聞にその紹介があったからである。「ハリウッドは総制作費百億円を・・・」「国防長は撮影協力を拒否・・・」などと興味を煽り、「いよいよ日米同時公開。今、あなたが歴史の目撃者になる・・・」と結んであった。学生新聞も我々の左派硬派の時代に比べると、随分軽く柔らかい内容になった。総入れ替え型の映画館で入りはまずまずと言うところであった。映画は'62年のキューバ危機が舞台である。アメリカの安全に対する2段3段の構え、表もあれば裏もある外交、世論を惹き付けるための情報操作、理念では済まされぬ現実の難しさなど見所一杯である。キューバ国民の安全など一顧だにされない米ソの駆け引きを見ると、自国の安全は終局的には自国民によってのみ守られるものという素朴な当たり前の感覚が蘇る。
- 冷戦最中、フルシチョフ首相率いるソ連がキューバに核搭載可能の中距離ミサイル基地を建設しようとする。カストロは、この冒険の実行と引き替えに、20年間に157億ドルの経済援助を引き出すのであるが、自国民の命を危険に晒したこの取引は全く正当性を欠くもので、いずれ後世において歴史はそれを断罪するであろう。空中偵察写真の解析でミサイルと断定したアメリカは、キューバ侵攻を唱える軍部を押さえつつ、撤去せざれば第三次大戦も辞さずとの基本姿勢で、ソ連と厳しい外交交渉に入る。この交渉が平和的妥結点を見出すまでの、ジョン・F・ケネディ大統領とその側近に絞った13日間を、何処までが真実か我々には伺い知れないが、ドキュメンタリー手法で描く。側近とは弟のロバート・F・ケネディ司法長官とケネス・オドネル大統領補佐官の2人である。
- アメリカは艦艇183隻、軍用機1190機という圧倒的軍事力を使って、ソ連からのミサイル運搬を海上封鎖により阻止する。そこに至るまでにはあらゆる手練手管が動員される。まず米州機構の支持を満場一致で取り付ける工作をやる。何よりも国際支持である。国連緊急安保理事会におけるアメリカとソ連両大使の火花を散らすやりとりは壮絶である。立ち上がれば簡単にカストロを一蹴できるだろうが、世界の世論がアメリカに傾くのを見極めるまでの慎重な姿勢は、骨の髄から民主主義に浸ってきた人物でないと保てないだろう。
- 実際はどうだったか知らないが、弁舌に長けたソ連大使に証拠を突きつけ、次第にソ連が仕掛けた国であると云う印象を周囲に認めさせるあたりの場面は、出色の出来映えである。出動の偵察機乗員に大統領府から直接電話を通し、偵察機に対しキューバ軍の反撃があっても反撃と云って欲しくない雰囲気を納得させるシーンは多分虚構だろうが、鬼気迫る刻々の雰囲気を見事に伝えている。この話は、米軍が反カストロ分子のキューバ侵攻を支援して失敗した事件(ピッグス湾事件)を背景にしている。国軍が功を焦っていると判断し、大統領直結情報官を軍作戦司令部に派遣して司令官の命令一つ一つに神経を尖らすほどのやり方で、外交的に尻尾を掴まれないよう腐心する。
- 報道関係への情報コントロールには細心の注意が払われる。強硬姿勢の表の外交が行き詰まる中で裏ルートが活動する。裏ルートは報道関係の大物から持ち込まれ、相手打診のための闇情報が最高責任者筋の話として通される。フルシチョフからの返事の真偽を巡る審議の場面が面白い。ソ連とて一枚岩ではない。タカ派が準備完成のために時間稼ぎをしているのかも知れない。結局両者は危機回避で一致し合い、落としどころを確認し合ってミサイル撤去のフルシチョフ声明となる。この映画では出なかったが、この危機経験が米ソ首脳同士のホットライン設置になり、以後の危機管理に大いに役立った。あらゆる場所にあらゆるパイプラインを引いておくのが政治家の務めなのだろう。わが国は大丈夫だろうか。
- 家族関係は主題ではない。ただ、大統領が事件解決直後に、地対空ミサイルに打ち落とされた偵察機の殉職乗員の家族宛のメッセージを口述するシーンは、人権大切のアメリカを抜け目無く宣伝している。国防省は不満だったらしいが、我々にはアメリカの言い分が一杯の映画のように思える。ソ連側キューバ側の見た危機も映画になるといい。最終的にはキューバはアメリカの不可侵の約束を取り付け、トルコにあったアメリカ軍基地の、こちらはソ連の喉元の棘であったミサイルは撤去された。他方、ソ連とキューバの仲は一時冷却し、フルシチョフは失脚した。まずは五分五分であったと思うが、各国ではどんな評価が為されているのであろうか。
(2000/12/26)