
- 考古学上の論争は、各々がお山の大将で、唯我独尊的で明確に勝負がつく場合が少ない。悪口を云わせて貰えば、決定的証拠はないままに、その方面のオーソリティがこう宣ったからこうしておこうといった雰囲気があるように思う。私の若い頃は考古学の記事と言えば京大の梅原末治先生だった。それから小林行雄先生の代となり、近頃では同志社の森浩一先生とか歴博館長の佐原真先生などはマスコミ受けという意味ではそれに近い存在らしい。今回の東日本における捏造事件は、皮肉な言い方だが、考古学が文学部の一学科で理系の学科でないことをよく理解させた事件であった。
- 先の日曜日、千葉県立中央博物館のミュージアム・トーク「捏造された前期旧石器」を聞いた。講師の小宮先生がこの問題について話されるのは今年2回目だそうだ。捏造など論外だけれど、再現実験が不可能な考古学では、周到な準備によりなんと40年間も「学」界を騙し続けたビルトダウン人事件なんかがあるそうだ。騙したのはこちらもアマチュア考古学者である。だが、今回の事件では、確たる研究論文も学会の評価も出ない前に、60万年前という太古ロマンに酔ってしまった周辺特に報道関係の責任も大きいと思われる。オーソリティが何か言っていたのならその責任はなお重大である。だが今回は蚊帳の外らしく、私流の理解ではそれが問題だったのかも知れない。
- ミュージアム・トークで頂いた批判論文を読んでみた。小田静夫, C.T.キーリ:人類学雑誌, 94, 325 (1986)である。前期旧石器時代提唱の基礎は勿論年代測定である。測定には熱ルミネッセンス法(TL)、フィッション・トラック法(FT)、C-14法が使われた。土器が見つかればTLもFTも有力である。だが宮城県研究者は自然攪乱、二次堆積が著しい地層にこれを当てはめてしまった。TLもFTも500℃を切ってから現代までの時間を計るのであるから、鉱物や岩石が溶融状態から固化結晶化した時にストップ・ウオッチを押している。火山灰の中の鉱物微結晶なら火山から灰が吹き出た瞬間からの時間である。火山灰は宮城県では同じ場所にずっと堆積したのではなく、複雑に自然攪乱、二次堆積運動を繰り返し経験している。だからTLまたはFT結果が60万年前と云っても地層生成以前の経年が入っている。それが証拠に、C-14の結果は、測れる範囲では常に、TLやFTのそれらの何割かにしかならない。C-14は地層に埋まった植物化石から求まる。一番単純明快で信頼度が高いのはC-14なのに、何故か宮城県の研究者は採用せずに問題の多いTLとFTの結果に準拠しようとする。私に面白かったのはこんな内容である。考古学上奇妙な石器出土状況をも指摘している。いまにして思えばその指摘が捏造であると示唆していたのだが、この論文は顧みられなかった。反論すらなかったそうだ。心細い話である。
- TLとかFTとかの内容は東京化学同人の化学大辞典で調べた。考古学の辞典にも記載されているが、何故年代が測れるかがもう一つはっきりしない。文系の人々が数字を丸飲みし易い欠点がこんな所にも出ていると思った。嘘とお思いの方は、上記化学大辞典と加藤晋平、鶴丸俊明:「石器入門事典−先土器」、柏書房、1994と比較されたらよい。加藤先生の事典を悪い方に出すのは恐縮の至りだが、考古学のコーナーを立ち読みした中で一番出来が良く詳しく書かれていた本だと紹介することで勘弁願いたい。
- 学会でもデータの選別、捏造、盗用などはしょっちゅう起こる。このホームページでも常温核融合の真実とか「超科学」をきるとか云った本の紹介をしたことがある。世の中うまい話には欺瞞が五万と隠されていると思って世の中を渡ることである。ともかく結果だけを見て走らない訓練が特に報道関係者に必要である。
(2000/11/22)