
- 千葉県立中央博物館で「知られざる極東ロシアの自然−ヒグマ・シベリアトラの大地を旅する−」という特別展が開かれている。何でも3-4年前にこの博物館がロシア科学アカデミーと共同で、カムチャッカ半島と北千島を調査したときの成果だそうだ。そこに特大のトラの剥製が展示してある。女性ガイドの説明では頭の先から尻尾の先まで2m半はあると言った気がする。NHKのドキュメンタリー番組で絶滅の危機にある動物として詳しく報道された記憶がある。獣害や皮採取の他に、サイの角と同じで漢方薬の薬種として珍重される為に密猟が絶えぬと云う。虎を薬種とする漢方薬が幾つか展示してあった。外装で見る限り明らかに中国製である。日本でもちょっと路地を奥まった場所に行くと、こんな薬が売られているそうだとまことしやかに彼女は云った。
- チョウセントラとどう違うかと問うた人がいた。私はチョウセントラはもう絶滅していて、厳密な比較は出来ないのではないかと云った。北朝鮮白頭山あたりには未確認ながら何頭かが生き残っていると聞いたことはあったが、日本のカワウソかニホンオオカミに対する噂と同じ類であろう。歴博の企画展「天下統一と城」に加藤清正の蔚山籠城絵屏風を見たあとだったためか、すぐ清正の虎退治を思い出した。あのころには何処にでもトラはおったのであろう。平凡社の世界大百科事典を調べると李朝時代までソウル近郊に出没したとあった。その事典ではチョウセントラはシベリアトラの別名になっていた。ついでだが、ニッポントラと言うトラは文献的にもおらぬそうである。
- 余り時を置かずにNHK教育テレビ(10/29)で「野生発見の旅」を見た。イギリスの作品である。バリ島、ジャバ島のトラがここ20年ぐらいの間に絶滅し、スマトラトラが今絶滅寸前であるという。やっぱり漢方薬の問題が指摘されていた。虎の猛々しく勇壮果敢なハンターぶりを見て人間は魔性を感じた。虎の何処かを薬としたら魔力を与えられると思うのは自然かも知れない。しかしそれは99.9%まで迷信である。毛皮は国際法で取り引きできなくなったが、薬に売られる分は捕まえようがないだろう。多分薬効など無いだろうに、困った漢方薬である。おそまきながらスマトラトラは保護飼育されるようになったのがせめてもの救いである。この映像では、野生のトラで、なんとか人手を借りずにここしばらく種を繋げるのは、ベンガルトラだけのようだった。
- ネコ科ヒョウ属トラ種に8つの亜種があるという。岩波の生物学辞典によると、人種とは種としてのホモ=サピエンスのすぐ下位、あるいはそれに次ぐ分類群だそうだ。旧人類は棚上げにして新人類だけで考えると、モンゴロイド、コーカソイド、ニグロイドぐらいな位置づけにあるのが亜種であろうから、シベリアトラやベンガルトラはモンゴロイドかコーカソイドかと云うところだ。だが、剥製をじっと眺めても記憶にある動物園のトラ−多分ベンガルトラ−と区別が付かない。並べたらきっと判りますよとガイドが慰めてくれた。人種なら皮膚の色、背丈、座高、鼻高などでいっぺんに判るのに、彼らトラ種は人間ほどには環境適応の進化がなかったのであろう。我々が縄文型と弥生型の顔、ゲルマン型とラテン型の顔の区別ができるように、トラ同士ならシベリアトラとチョウセントラの区別は出来るのかも知れない。確かに亜々種の分類になるとかなり主観的である。
(2000/10/31)