情報技術(IT)革命


IT革命がサミットの主題となるご時世である。俯瞰的に本題を捕らえ将来を予測している概説書を捜しておったところ、宿南達志郎「eエコノミー入門」、PHP新書、2000に行き当たった。著者はNTTでITの実務に長くかつ神戸大助教授の学究でもあった。初めて聞くお名前だが、経歴から見ればまずは偏らぬ議論が出来る人と期待できる。本の厚みも教養程度で良い私には適当だ。と言うことでこの本を買った。
とにかく片仮名の多い本だ。私は電子工学屋ではないが、立ち上がりが早かった方と自惚れていた。だが、わからん言葉が一杯出てくる。例えばサイバーとは今までのバーチャルとどう区別しているのだろう。サイバースペースを仮想空間と訳していたが、この方がよっぽど通りがよい。古い字引にはcyberspaceは載っていない。ネットワーク用語事典を引くと、外国のSF作家が使いだした要するにインターネットのこととあった。まだ定義も流動的なのかも知れない。そんなときは確立された言葉を複合的に使う方が読む方も楽だし、本の価値も永続すると思うが如何。直輸入語が多いのは自由だ。だがその場合は本は論文誌のように横書きとし、直輸入語はローマ字綴りそのままで書いて欲しいと思う。原語が判ると一般辞書からでも語源から何とかなるのが普通だからである。時間を掛ければだけれども。
最先進国アメリカはパソコン・インターネットである。何よりも恐れ入るのはアメリカ政府のITに掛ける意欲である。インターネットは個人が単位だから、国民の一人一人がパソコンを身内と思わねばIT化は進まない。我々の政府がはじけたバブルの後始末対策に無駄な土木事業をやっている間に、アメリカの政府は次々に手を打っている。沖縄サミットに800億円を使ってイギリスの新聞に揶揄られるぐらいなら、赤字当然の地方新幹線新設に1000億を越える予算を出すぐらいなら、日に定期航空便が1-2回しかない地方空港の建設に予算をかき集めるぐらいなら、瀬戸大橋だけでも赤字なのに更に四国中国間に連絡橋を2つも渡すぐらいなら、なぜ光ファイバーケーブルを各戸口まで持ってこない、パソコンを大工道具並に使う教育に力を入れない。IT教育の方が英語教育よりはるかに優先順位が高いはずである。鉄道や飛行機が来れば若者は都会へ出てしまう。ITを駆使して大都会生活者と同じ経験が出来るなら故郷を捨てる人も減るだろう。
日本はケータイ・インターネットでは先端を行っている。著者はパソコン・インターネットの補完役割と考えているようだ。ボタンの数から云って事業情報発信には向かないが、受信情報の選択や数字の伝達には支障はないだろう。だから私にはB2C(business to consumer、消費者向けの電子商取引)には適当な分野が多いのではないかと思える。i-モードが標準化した暁に、日本からどんなIT革命が起こるか期待したい。この本では北欧が家庭電子化の先端を行っていると注目している。毎日新聞7/24夕刊に「北欧のIT大国フィンランドを見に行く」という特集ワイド記事が出た。起爆剤は携帯電話とあった。だが人口500万人の国ではB2Cは独自では難しかろう。パソコン・インターネット人口もB2C量もまだまだ後進の日本だが、ケータイ数では他を圧する。ケータイB2Cで逆転トップも夢では無かろう。私自身はi-モードをやらないので無責任発言だと言われればそれまでではあるが。なおフィンランド語は欧米では系列が孤立した言語で、そこはヨーロッパで一番英語の下手な地域だそうだ。何か日本に似て愉快である。
「食事の文明論」で、現代社会では家族の必要性が薄れて行く傾向が指摘された。あの本は15年前の著作でまだITなど影も姿も見せなかった時代であった。今このように個人と社会の繋がりがどんどんバーチャル化しつつある。家庭の中で共食が家族の繋がりを確かめ合う儀式となりつつあるのと同様に、社会を構成する他人とも、繋がりを確かめ合うために、心を入れて儀式を持ち積極的に参加せねばならぬ時代に移りつつある。この本にはITの社会に及ぼす影響までは触れていなかった。今後に必要な問題意識である。

(2000/07/25)