
- 総選挙で次期の台湾総統が、野党民進党の陳水扁氏に決まった。新総統は台南の貧しい農家の出身で未だ40歳台。二世議員とじいさん議員にウンザリの我々には、本当に羨ましく感じられる。逮捕投獄歴という勲章を下げた弁護士となれば、日本で云えば秀吉にあたる、まさに台湾ドリームの人である。敗れた責任をとって、現総裁の李登輝氏は国民党主席の地位を任期前に降りた。横領判決が出てもまだ辞任しない議員を抱える我々は、その潔さをどう褒めればいいのか。共産党との内戦に敗れて本国から国民党が逃げ込み、以来ずっと外省人の天下であった台湾が、まず国民党所属ながら本省人の李総統を実現、次いで民進党の陳総統へバトンタッチする。過去本省人と外省人の間には、あるいは国民党独裁政権と本省人の間には、血なまぐさい争乱があった。だが、それを乗り越えて自力で民主化に成功した。この成就は世界に誇っていいし、世界はそれを高く評価しなければならない。
- 台湾は中国本土から、漂着民を殺戮された日本の抗議に対し、自国支配下にあらずと放棄された経緯がある。台湾出兵の原因である。台湾は海峡を挟んで本土と離れているために、本土とは付いたり離れたりの微妙な関係を続けた。オランダやポルトガルの占領下にあった時代もある。台湾出兵の頃は明の鄭成功の鄭氏が占拠していた時代で、清は賠償金は払ったが、日本軍撤兵で領有権が国際的に認められた形になった。だがすぐ日清戦争の結果として、95年来1世紀以上にわたって、本国とは遊離した関係に立たざるを得なかった。本省人とはこの鄭成功時代から急増した対岸の中国人で、日本敗戦までの台湾人を指す。外省人は2割に満たない。本省人は、おそらく感覚的には、親の援助もない状況の下で次男坊三男坊が苦労して築いた地盤に、大陸でしくじった長男が家長気取りで乗り込み、現地に軍備がなかったのを良いことに、占領軍気取りで独裁政権を作り、好き勝手をやったと云った受け取り方をしていると思う。
- 政党は違うが陳次期総統は、李総統の二国論を最も色濃く受け継いでいるという。江沢民主席の中国が、熱い戦争をした蒋総統の国民党の方がまだ話せると云うのは、その時代の国民党には、中国統一論はあっても二国論など無かったからである。江主席の一国論は、論拠を得意の歴史的背景に置いているのか、あるいは同文のよしみに置いているのか知らない。だが、歴史的には上に見たとおりで、下手に我々がそれを承認すると、朝鮮半島にもベトナムにも拡大解釈される恐れが出る。
- 台湾内では外省人と本省人が同じ文化を共有していたことが、ユーゴのコソボやカシミール、スリランカあるいは東チモール地方の問題とは違った経過を辿った、重要な一因になったであろう。だが、本土と台湾が同文とするのには、たいへん抵抗がある。それは国民党入台までの話で、今は政治思想が共産主義と資本主義に分かれ、イスラムとキリスト、あるいはチベットの共産主義と佛教の関係に近い。香港とか廈門の植民地解放とは違うのである。長年独立に生きてきた2000万を越す人口は立派な一国を意味する。現実問題としても、生活レベルも格段に差が付いた相手との関係は、本省人と外省人の関係どころではない。そんな相手に呑み込まれるのは真っ平ごめんであろう。ともかく彼らは二国論の後継者を選んだ。私は江沢民中国が大中国主義から早く目覚めて、同系文化圏の枠組みを緩くて良いから全体として広げるような方向に進んでくれることを期待する。勿論江主席が匂わす軍備による恫喝など論外である。
- この一文を書いた後で同じ題名の小冊子を本屋の店頭で見つけた。ありふれた題名なのでそのままここに掲載した。
(2000/03/27)