
- 東京国立博物館に御即位10年記念特別展「皇室の名宝−美と伝統の精華−」を訪れた。週日だったのに大変な混雑である。1000円で常設展も含め全て見れる。名宝展は平成館で開催。正門で券を買って平成館に入るまでに半時間は費やしたであろう。館内も人々で美術品を鑑賞すると云った雰囲気ではない。展示台硝子壁にピッタリと人の列が出来、それがちょっとも動かないから真後ろからでも説明文を読むことすら出来ぬ。仕方がないのでオーディオ・プレーヤーを500円で借りた。
- 最初の部屋は考古物。人物埴輪女子頭部が最初に見た御物だった。仁徳天皇陵からの出土という。かなり写実的で見栄えのする像だ。巫女の姿だそうだ。この像は風水害で崩れた斜面からたまたま出土したもののようだった。天皇陵の考古学的調査が許可されれば、当時の最高傑作が出土することは確実なのにと思う。とにかく展示台前面をぴっしりと人が群れていてとても覗けない。考古物などどこの博物館にでも山ほどあるし、大抵は一瞥をくれる程度で通り過ぎる人が多いのに、何故か御物となると食い入るように眺め説明書きを見ている。私はこの部屋を諦めて次の部屋に歩いた。
- 更級日記に出会う。高校時代の国語で1年間かけて読んだ思い出の古文である。だがこんな崩し字は読めない。古今集、和漢朗詠集、万葉集。原文に近いものがそこにあることは判ったがどれも読めない。でもこのじっと動かぬ人の群はどうしてだろうとまた思った。この部屋も諦めて次ぎに次ぎにと移る。
- 辛抱して辛抱して頭と頭の隙間から何とか見ようとしたのは蒙古襲来絵詞であった。肥後の国の御家人竹崎季長の武勇伝である。出征、海戦に向かう船内のもののふ達、切り込んだ船上でのモンゴル兵との合戦状況を見ることが出来た。人物には名が記されてあるものもあってなかなかの迫力である。この絵詞は外国の侵略から日本を守った戦いを示す貴重な栄光の歴史資料のはずである。私は東京近在だから幸運にも見ることが出来たが、御物である限りは、大半の日本人は生涯お目にかかれぬ。日本人の国家への帰属意識は今危機的であるという数字がある。御物から解いて、例えば肥後熊本の信頼できる博物館に常設展示すべきではないだろうか。
- 絵画刀剣の部屋あたりからなんとか自由に鑑賞できるようになった。いずれも大作だから後からでも見えるようになったと云った方がよいかも知れない。巴里万博に出品されたという漆器金工焼き物など、振るえる限りの技に惜しみなく金をつぎ込んだ贅沢の極上品であった。これらは色褪せぬ故もあって今も燦然として美しい。象牙の彫り物宮女置物などもうこれから先作れぬ品物である。
- 丁度10年前に朝日新聞主催で「即位記念・近代日本画壇の巨匠たち展」があった。その時の出品と重なる作品がたくさんあった。下山観山「光明皇后御像」、橋本関雪「進馬の図」「暮韻図」、鏑木清方「讃春」、上村松園「雪月花」などを覚えている。実際はもっと多かったろう。数々の名画が10年に1度とは少し寂しい。宮中行事に必要でない限り一般が常時鑑賞できる制度を作ってもらいたいものである。代毎に新調されると云う悠紀・主基地方風俗歌屏風は勿論初めてであった。昭和天皇のそれは上述の展覧会で見た。東山魁夷ともう一人の作である。気宇壮大に天地を描写した屏風絵である。
(2000/02/18)