地球法廷:遺伝子操作を問う。


これもNHK BS1で今週放映した番組である。以下の感想をNHKに送った。

「BS1「地球法廷:遺伝子操作を問う」をNHKスペシアル「驚異の小宇宙・人体V遺伝子・DNABC」と合わせて見ました。いずれもなかなかの力作で価値ある番組だったと思います。後者は前者の基礎知識にもなっていますから、後者のシリーズを終わってから前者を放映しても良かったのではないでしょうか。以下は「地球法廷」の感想です。
昔から家系を曳くと云われてきた病は幾つもあった。病でなくても家系を曳く体質は幾つも認識されていた。お酒に強い家系、寿命の長い家系。経験による祖先の言い伝えが現代科学で裏付けられつつある。中西先生の国家衰亡論をあてはめると、自分自身の伝統文化の中に新文化の芽が既にあったという認識がその国の将来を決める一つのファクターである。日本の優れた言い伝えに触れていただきたかった。今「伝統の朝顔」展を歴博くらしの植物苑でやっている。歴博江戸期の展示室には養蚕家が保存していた繭の系統サンプルがある。日本は世界から孤立していながら遺伝学に関してはレベルの高い小宇宙を作っていたと思います。
アイスランドは家系がしっかり伝わっている国で、それを利用した製薬会社の遺伝子解析が進められている話は、人間の遺伝子の資源化と直結した悩ましい話ではあるが、科学の進歩からは優れた方法論として注目される。日本も系図のはっきりした家族が多いが、多すぎるのがかえって邪魔になっているのだろうか。
胎児を遺伝子診断によって中絶するのは殺人に準ずる行為である、人間浄化に繋がる行為だとする議論がある。受精卵についても同様の議論になろう。昔の日本はそれを結婚先の家系を選別することで実質やっていた。出来てからでは遅いのである。これからは結婚申し込みに遺伝子診断書を添えて出す方向に向かうのだろうか。
病に繋がる遺伝子を持った人、その家族の発症に対する対応は基本的に個人の決定する問題だが、周辺に情報コントロールがあってはならない。兵庫医科大学のカウンセリングで最後の判断を中学生の本人にさせたのは好ましい方向である。乳ガン予知で発症前に乳房を切除した女性の話は行き過ぎとも思ったが、やはり個人の問題である。アルツハイマーのように治療法がない病でも人生の設計のために遺伝子解析をするのは何とも痛ましいがやはり個人の問題である。遺伝子診断を受けた人々がしっかり家系を意識していたのは印象的であった。
地球法廷に投稿した人が医療関係者患者とその家族で殆どを占めるのは理解できる。しかし神の領域、宗教の独断場、自然の驚異であった生命の世界に持ち込まれた新しい科学の、人類の今後に与える影響はとても現場だけでは論じきれない。哲学者、社会学者、諸々の理工学者に実務を担当している人々によって見定められなければならない。その点ではもの足らなかった。別の企画があるのでしょうか。
私は最後の方で登場した科学ジャーナリストの言葉、遺伝子は音符楽譜のようなもの、奏でるのはその人という言葉を正しいと思う立場である。高等動物中の高等動物が遺伝子情報だけで全てを規定されているとは思わない。諸刃の刃であることは重々判っているが、また医療関係のトラブルは次々に起こるものの、日本は遺伝子解析を人類の幸福のために見事に制御してみせるだろうという自信を持っている。自信の基礎は情報開示にある。特に映像で送られる情報のウエイトは高い。今後のNHKさんの活躍を期待しております。」

('99/08/13)