地球法廷:生命操作


NHKのホームページに地球法廷というフォーラムがあって、テーマを決めて議論を受け付けている。テーマはもちろんその時に最もホットな題材である。原子力問題の時に一度投稿をしたことがある。それ以来折に触れて事務局から案内が来る。今は生命操作が主題である。誘いに乗って以下の投稿をした。1200字以内という制限がある。基礎資料は別途公開されている。()内はこの雑文のために付け加えた補筆である。

題:悪いシナリオに乗らないために
良い方は自明だから悪い方の(話題の生命操作が完成し、自由に実施された未来の)シナリオを考えてみた。
夫婦者はマイノリティになり、その夫婦もお腹を痛めた子を連れているのはごく少数である。しかし子孫が減ったわけではない。よくみると同じ顔のクローン人間がやけに目に付く。お医者と実業家の顔が多いのは複製も役得と算術だからである。社会の必要と流行に応じてその時その時の「パーフェクト」ベービーが大量に養育される。殆どが施設での養育に頼っている。現代既にその傾向が著しい老人介護の方向と同じである。愛は犠牲を伴うものであってはならないと一般に考えられている。培養臓器のお陰で平均年齢は一段と延びたが、脳と骨はついに回春の医術が実用化せず、世間は腰の曲がった半ボケ老人で埋まっている。
社会は急にはついて行けない。ましてや生命40億年の真理の破綻である。どうしても遺伝子操作生命操作を必要とする対象を慎重に選びながら、社会のコンセンサスを条件に認可を重ねてじわじわ前進するしかない。今まで医師の個人的思い切りでやってしまったというケースがしばしば出てきた。功名心の時もあろうが現場の苦悩が吹き出した場合もある。棚上げ先送りをせずに、技術の進歩と合わせて早め早めに倫理的方向付けを行う時代にしなければならぬ。マスコミの使命は重大である。今回のNHKの取り組みを高く買っている。ただ「経験」を発言の条件にしているように受け取れるのは肯けない。そのせいか(投稿者は)医療関係者あるいは患者と云った立場が多く、幅広く遠くまで見据えた哲学的見解を述べた話が少ない。テーマの細分は一考を要する。

短い文章でこれだけ大きなテーマに発言するのは難しい。私は遺伝子操作を含めた生命操作技術が人間性や社会性に与える悪影響を危惧している。唐招提寺の北に垂仁天皇陵がある。大きな前方後円墳である。その濠の中に小さな陪塚がある。田道間守の墓という。彼は天皇の命で不老不死の国に旅したが帰り着いたときには天皇はもうお隠れになっていたという伝説の主人公である。不老不死は叶わぬ夢でよい。短い命を交配で受け継いで永遠の命とすると同時に進化を期待する。この40億年続いた生命の基本ルールを破壊するときはよほど慎重に進めても慎重すぎることはない。それよりも安楽死の社会認知を早めてほしい。社会的に役立たずになった我身にはその方が先決事項である。

('99/05/04)