
- もう20年も前に岩波書店からデビッド・マコーレイの土木建築史絵本シリーズの訳本が出版され評判になった。「都市−ローマ人はどのように都市をつくったか−」「ピラミッド−巨大な王墓建設の謎を解く−」「カテドラル−最も美しい大聖堂のできあがるまで−」「キャスル−古城の秘められた歴史をさぐる−」が私の書棚に残っている。小学高学年から中学あたりが対象であったが、大人が見ても楽しい絵本であった。その時代の最高の土木建築技術を詳細に分かり易く絵解きしてくれる本であった。
- 我が国にも壮大な都市計画、寺社建築、城郭造成がある。その技術史絵本は草思社からぼつぼつと出版されている。岩波の出版が始まってしばらくしてから草思社のシリーズ本が始まった。「江戸の町(上)−巨大都市の誕生−」「江戸の町(下)−巨大都市の発展−」「法隆寺−世界最古の木造建築−」「大坂城−天下一の名城−」。私が今までに購入したのはこの4冊である。江戸の町(上)(下)は碁盤の目型でもなく、西欧の放射線型でもない日本独特の都市計画として認識を新たにさせられた。
- 表題の本は上下2冊よりなり、それぞれに「平安京から町衆の都市へ」「世界の歴史都市へ」という副題が付いている。著者の2人の内の西川幸治氏は岩波の「都市」の訳者でもある。京大工学部建築学科時代からの著名人で、京都という都市を語るには最適の先生である。マコーレイの本はイラストまで自分で画いているが、草思社の本では穂積和夫と言う方がシリーズを通して画いている。この人も建築畑の人で適任である。
- 近年は立派な博物館が方々に建設され、その中に建造物や都市景観を示す大きな模型が並んでいる。例えば国立歴史民族博物館には、思いつくままに列挙すると、羅生門から貴族の生活、中世の町並みと人々、念仏踊りやら桂女、それから社寺建築のいくつかと京都とその近郊の歴史を目で確かめられるようにいろいろ工夫されている。最近NHK-TVで知った話だが、当時の屏風絵図例えば洛中洛外図を立体的に示すCG技術が出来たそうで、屏風で見るより遙かに現実味のある姿に製作当時を見ることが出来るようになった。然し場面の数では本にかなわない。本のイラストは上下合わせて100枚を越えるであろう。歴史が目に見える理解しやすい姿に変わって行く。歴史も多分その他の学問もDOS型からWindows型に変わろうとしている。
- 小さいときから千本丸太町の交差点を少し入ったところに大極殿跡の石碑があることを知っていた。羅生門跡の石碑は黒沢明の映画の後で知った。平安京の痕跡はどれも地下に眠っていて地上では見えない。ただ一つ東寺だけは、たびたび戦火を潜りながらそのたびごとに修復再建され建設当時の姿を伝えている。朝廷の庇護、官の庇護、権力者の庇護など幸運に恵まれたとも言えるだろうが、とにかくよくぞ生き残って法隆寺、正倉院に匹敵する平安の形見を伝えたものである。幸運もあったが、終局は先祖の厚い信仰の賜である。京都の歴史もそれ以前の歴史も信仰抜きには語れないことを再認識させられた。
- 京都千二百年と言っても権威と権力が一体であった本当の都は、せいぜい最初の400年だけである。あと700年は権力が権威を脅かす受難の時代だった。権力が関東に移り、経済の中心は大阪になり、かろうじて朝廷に代表される権威だけが残っていた。しかしそれでも都だったのである。世界に例のない歴史展開である。今世界は共存に悩んでいる。共存よりも差別浄化覇権に繋がる民族主義的行動が受け入れられ血を流し合う。京都千二百年が一つの共存共生の見本にはならないのかと折に触れ思う。
('99/04/13)