
- 面白い夢を見た。女が数人検査に行くと行って私の前にいる。女の年格好はいわゆる熟女で若くない。肉付きが良く豊満と言える体である。奇妙にも臍丸出しで腹に皺がかすかに見える。夢は目覚めと共に消えるのが普通で、体の線まではっきり記憶に残ったのは今回が初めてだった。でもすぐに理由に思い当たった。その前日に私は千葉県立美術館の常設展に行ったのである。
- 横尾芳月の3枚「鏡獅子」「夕粧」「春風」はいずれも若い女の姿態を画いた日本画で、とりわけ夕粧は夏化粧台に向かう女性の艶めかしさに溢れた立ち姿を画いている。湯上がりなのか黒の襦袢で身を包み細帯を前で仮結びしている。襦袢は女の体の線を上から忠実に撫でている。乳房のあたり、肩のあたり、それから腰のあたりは出張っていて、肌の色が襦袢を通して見えている。
- 私は高専時代に衣服や化粧品の化学を少しだけ講義したことがある。その時特に女の体型は年齢と共に随分変化するものであることを勉強した。夕粧に画かれた女性は明らかに20才前後のまだ子供を産んだことのない人であった。ある日、TVの街頭インタビューで伊東絹子の写真を見せられて、若い子たちが、理想はもっと細い姿だと言っているのを聞いたが、その伊東絹子よりもずっと平均に近いつまり豊かな体格の日本女性に画かれている。伊東絹子とは、八頭身という言葉が流行った頃のミスワールドである。私はこの絵を県立美術館収蔵品中の三名作の一つに数えている。他の二つは浅井忠の「藁屋根」と石井林響の「木華開耶姫」である。
- 夢解きは心理学の得意である。私が学生の頃はフロイト全盛期で何でも性欲のせいになった。近年はユング心理学の時代らしい。河合隼雄「無意識の構造」(中公新書)を読むとユング派の夢解きがぼんやりながら解ってくる。私が朝の浅い眠りの中で見た女性は、絵から抜け出した家内の化身である。もうバイアグラもお呼びでない年齢になって、遠ざかりかけている異性への関心を夕粧が揺り覚ました。それが最も慣れ親しんでいる家内に重なっている。後の何人かは影は薄いが普段周辺にいる人だろう。歳と共に迫ってくる老いと、自信が持てなくなり始めている自分の健康を、男の中の女性意識(アニマ)が労ってくれている。夢の中で彼女が云った検査とはそのことだろう。そう思って置いたら我が家庭は万々歳である。夢の解釈なんて、ある枠組みはあるものの、幾通りでも可能だからここでは最も好都合な解釈だけ上げておこう。
- 強制だったが、教養課程で幅広く勉強できて良かったと思う。人生を濃度濃く味わうためにはとっかかりが多い程良い。そのとっかかりはオーソドックスな勉強でしか得られない。最近教養課程が学生に不人気で時間数も減っていると聞く。目先だけの学問で薄っぺらな人生にならぬように説得するのは年寄りの役目であろう。がんばれ語り部たち。
('99/02/07)