
- 母校の学生新聞を二カ年購読した。主に第一面を読んでいる。一昨年は、若い世代の良心を代表する論説として、私を大いに安心させ又勇気付けるものであった。昨年の第一面は学校の先輩に聴くと云った内容で、混沌の時代になって著名人となった人たちから学ぼうとする姿勢が出ていた。年末に継続購読の勧誘があった。私はもうその義理はないと思ったが、唯一知っている学生が大学院に進学するのを思い出し、もう二年付き合うことにした。
- 掲題の染色法は、私が会社時代にお世話になった高分子の電子顕微鏡観察に必須の試料調整法である。高分子のような柔らかい材料は電子線では濃淡を観測し難い。それで、一旦オスミウムなどの重金属で染めて、電子線により濃淡が着きやすいように調整をする。染まりやすい高分子、染まりにくい高分子といろいろあるから、例えばポリマーブレンドの構造を見るときには好適な手段になる。微細構造を持つ材料の粘弾性的性質を追求するとき、まずは構造を目で確かめるのが第一である。私らはその方法を当然のように使っていた。
- この方法が母校の先輩加藤嵩一氏の開発によるものだとは「高分子」昨年11月号で初めて知った。加藤さんは東レに勤めた生物学者だったそうで、昨夏亡くなられた。電子顕微鏡の活用は生物学関係者が我々高分子屋より遙かに先行していたから、繊維を東レでおやりになったのが我々に幸いしたのであろう。
- 加藤さんには、専門が近い私ですら気が付かなかったのだから、学生新聞の編集者が気付くはずはない。極狭い範囲でしか知られていない、然ししっかり我々の科学の底上げをしてくれた学者研究者は無数にいるだろう。世俗的な著名人ではないが、彼らにもしインタビューの機会があったらどんな話が聞けるだろうと思う。一般の学生にはかなりの幸運を背景に天下国家に名を成した人々からよりも、むしろ真実の生き方という意味で教わるところが大きいのではないかと思った。
- 先輩に聴くという企画はともすればアイデンティティを見失いがちな世相の中では有意義のことと思う。国際人と言っても個人としては強烈なアイデンティティを持っているのが普通と思う。自己の出身に伝統と誇りを感じ、次ぎにその所属社会に、その次ぎに所属民族に、最後に地球全人類にとアイデンティティが広がる。アイデンティティ感覚が薄い人は何事にも傍観者的に逃げているという印象で、決して本当の国際人にはなれないと思うが如何。
('99/01/06)