
- 毎日新聞(11/27)朝刊一面のカラー写真は秀逸であった。同じ来日報道写真でもこれほど見事な「物語る」写真は他になかった。天皇・江主席が威儀を正して並んでおられる後ろに、江夫人が皇后にかばわれながら主席の方に進もうとしている。夫人は足が不自由だそうで、気がせくのに進めない苛立ちを表情にしっかり出している。視線は夫の背中を向いている。中国流ではこんな時に夫人に主人が手を貸すことはあり得ないのかどうか知らないが、皇后の優しさと同時に主席の(情の)こわい人という印象は拭えなかった。先導されたであろう天皇にも配慮が欲しかった。
- 主席が繰り返した主張は「(二次大戦の)歴史に明確な態度を」と言うことだった。ただ一人一人の深い関心によるそれぞれの認識に基づいてという意味ではなく、中国政権の公式見解通りに統一した態度という意味であるのは明白である。二次大戦は中国はもちろん世界に非常な損害を与えた。損害の事実は共通の認識である。しかし態度は大戦を闘うまでに至った長い文化文明の歴史の中から汲み取れる思想の評価からやって来る。その評価は戦後の反動反省を経てようやく固まりつつあると思ってよい。だが、考え方の幅は縮まらない。自由な民主国家では当然である。
- 極東裁判の映画に対して、上から下まで口をそろえて日本人に「歴史認識の誤り」を教えようとした頃から、私はとうてい民主国家とは遠い存在としてこの隣国を理解するようになった。この理解は今回の主席訪日で確信に近くなった。
- まず政権にある人からと言うのであろう、代が変わるごとに中国の論理に沿った言質を要求してくる。そのたびに日本首相が謝るが、どうも満足しないのだろうまた同じパターンを繰り返している。「歴史認識が間違っている」閣僚を入れ替えたりしたことがあったからよけい図に乗ってくる。戦争が終わって半世紀以上になり、当時大人であった人々は99.9%まで引退し、今現役である人たちはほとんどが戦後世代である。彼らには「戦後」の歴史には責任があるが、それまでの歴史を言い募っては「嫌中」だけが日本人に残る。英国女王は一度も謝らない。それと同じである。歴史家に任せようではないか。
- 台湾問題は中国語を話す人たちの間の問題で、我々が出しゃばる場はまず無いだろう。ただし小渕首相も言ったように、平和裏に進められる必要がある。平和でないなら近隣国は降りかかる火の粉に断固影響力を行使するはずである。国境近くの海峡を挟む近代戦では内戦でも影響が外部の安全に及ぶから当然である。抑止力も当然行使せねばならぬ。今日の新聞(11/29)では、主席が、台湾の独立運動には武力行使もあり得ると発言しているそうである。共同宣言の主旨にもとると断固反応すべきである。安全と言えばもっと身近な大問題も避けずに議論して欲しかった。並はずれて多い在日中国人の犯罪である。新しく渡ってきた人たちが、先人が何代もかかって築いてきた中華街の信頼をぶち壊している。
- 中国本土との経済関係は苦戦続きで、日本にはいいカードが回されないと言うのが印象だが、台湾とは民間ベースがうまく機能する素地があって、本土よりもずっと深く交流できている。文化交流の自然さも対照的である。NHKで、後発のコダックが中国要人のルートを活用してそれまで浸透していたフジを蹴落として行くドキュメンタリーがあったが、国家意志による外国経済活動の支配は、内政問題とは言いながら異議を挟みたい話題である。
- 韓国金大統領が訪日されたとき国会でご自身の言葉で演説された。率直さが好評であった。クリントン米大統領の国会演説はなかったが、テレビ討論で人気を博した。しかも民間テレビだったから日米ともやんやの喝采だった。江主席はどうも政府の顔見知りと今までの日中友好功労者との交流程度以外はやらぬらしいと思っていたら、早大で学生相手に演説した。でも個人の魅力が出ないのである。誰も完璧無比な主席などと想像していないし、一方政治家には建て前を崩せぬことなど百も承知なのである。それでいて本音が漏れるのを五感で聞き分けようとする。VIPの番外の話や印象から世界の将来の予感を感じ取ろうとする。もう少し人柄を売って欲しかった。
- 金大統領は長年の援助にありがとうと言った。江主席は言葉では言わなかった。共同宣言には感謝すると一言入れてはある。然し署名のない文書はどんなに受け取ったらいいのか。どんな手紙だって署名が入っている。私は印刷の年賀状だって何かどこかに宛名だけであっても肉筆の文字を必ず入れる。心を伝えたいからである。署名しないと本人が言ったそうである。がらりと変わった戦後の日本にあって、今現役の人が敗戦の瓦礫の中からから送り始めた援助の歴史を仇おろそかに考えて欲しくない。この歴史にも明確な態度を示すべきであった。
- とにかく私には不評の江主席来日であった。たぶんお教えに驚喜した日本人は一人もいないのではないか。中国の日本に対する立場から言って、主席の態度がでかすぎるのである。不快にさせては友好に何の効果もないことを政治家なら知っているはずだが。
('98/11/29)