
- 千葉県がバブルの絶頂にあった頃に打ち上げた、かずさアカデミアパークの中核となる研究所である。あのころ筑波学園都市の成功に刺激されて研究都市プロジェクトが多数動き出した。その千葉バージョンである。現実がどうなっているのか一度見たいと思っていたら、会社のOB会が行事の一環にここの見学会を取り入れてくれた。
- 千葉のこれからの計画都市は1000ヘクタールというアカデミアパークと成田空港一帯の先端工業都市だそうである。将来の高速道路網計画もだいたいその二つを中心に描かれている。東京湾臨海地帯はもう重工業で目一杯に埋め尽くされ、それ以外の平野部では大都会からは離れ過ぎだろうし、まとまった面積の用地手当が困難だろうから、経済上昇期の計画としてはまあ無理のない姿であった。丘陵地帯利用法としてはこれ以外ないだろうとも思う。国際空港を中心にした先端工業誘致地区、海底トンネルでの接続を当て込んだアカデミアパーク、しかもこれらの内陸部は千葉県では最も環境の良い地帯であることはNOX濃度分布を見ても分かる。これは現代産業科学館を見たときに知った情報である。
- この数年間で実現したのは、DNA研究所以外では、国際会議場ホテルなどのセンター設備と医薬会社関係の生命研究所ぐらいでまだほとんどが空地だそうである。大学も近くに女子大があるが、これは理工系とは言えぬし、今はこの地帯の魅力として貢献しているとは思えない。民間企業の研究所が吸い寄せられるように集まるためには、中核的な国立公立の研究所があと二つ三つ開所しなければならない。千葉大の理工医薬系は進んでこちらに移転すべきである。しかし、人口縮減、経済縮退の今日から見れば、総花的にあっちでもこっちでも研究都市計画が生まれたときに危惧された事態が、ここにいたって現実化しただけのことでもある。今の日本では新立地としては関西研究学園都市だけでよい。裾野を予感させるDNAの研究などは、薬の伝統のある大阪界隈でやる方がずっと良かったのではないか。本当に研究を考えての研究所ならビルを関西に設立しても何らかまわなかったと思う。その後アカデミアパーク計画の大幅縮小が新聞記事になった。
- だいぶ前置きが長くなった。研究所は立派であった。専門外だからどれほどか分からないが、お道具は揃っているように思った。広い建物の割に研究者の姿は少なかった。企業や大学の研究室を知っているから研究者密度に関心が行くのだろう。建物の構造では、ユーティリティ配管配線がすべて床下の独立フロアに入っているのに感心した。私が関係した研究所研究室ではせいぜいまとめてダクトに入っている程度だったから、ずいぶん贅沢な構造である。ここの見学のあと会社の新鋭半導体原体工場を見たのであるが、その切りつめた構造とは全く対照的であったので強く印象に残った。
- 私はDNA以前の生物学しか学んでいない。染色体に遺伝子が載っているまでは学んだが、DNAとは結びつかないのである。染色体が一本のDNAからなり、遺伝子はそのDNAの部分で、翻訳開始点から終了点までに対応する一個のタンパク質に相当するなんてことはこの見学会のあとで、生物学辞典をひっくり返して確認した知識である。この生物学辞典でも遺伝と名の付く項目が50いくつかあって、命と関係があるのだからちょっとは知っておきたいと思っても、寄りつきがたい理由になっている。そんなわけでせっかくの案内も猫に小判だったかもしれない。然しさわりだけは理解できた。
- 遺伝子工学ぐらいの段階ではまだ世の中平穏であったが、今日(11/24)の毎日新聞の記事のように、ヒト万能細胞(胚性幹細胞)が人間の部分を、手でも足でも、自由に培養器の中で作り出すような時代になったら、いやでも人類の行方を心配し倫理規範を考えねばならぬ。臓器移植が始まったあたりからだんだん生命の定義が怪しくなった。老化が進みメンテナンスが必要になると培養器で作った器官を取り替えに使うことで、ヒトは永遠に生きる。それだから結婚で腹を痛めて子供を作るなんて営みは過去のものになる。そんな想像をすると未来がひどく煙って見える。
('98/11/29)