Children's Cottage


いつも行く百貨店にこんな看板の売り物がある。英国製で値段がなんと95万円である。バブル時代から置いてあるらしく一向に売れそうにない。縦1.5m横2m高さ2mぐらいで、中に寝台とテーブルに椅子があって、屋内に置いてもよいし屋外でもいける。子供なら寝泊まりできる本格的なままごと道具である。百貨店の子連れの客が一息入れる休憩所に置いてあって、子供には人気の商品である。せんぐり入ったり出たり、中には寝台で寝ている子供にもお目に掛かる。
子供には息抜きの空間が必要なんだとは聞いていた。私も集団疎開で敗戦を迎え、親元に引き上げる寸前だったけれども、自分だけの堀立て小屋を造るのに一生懸命になった時期がある。国民学校今で云う小学校の6年生であった。集団疎開は大勢の共同生活で殆どプライベートがないから、滅私奉公の教育を受けていても、秘密の部屋造りに夢中になった気持ちが今でも判る。完成しなかったが。いつぞやは小学校の便所が学校の唯一の息抜き空間だから、もっと金を掛けるべきなのに、パソコン装備に予算を出しても便所には金を出さないのはけしからんと言った論調の新聞記事を見た。そのときは一方で学級崩壊が緊急の課題というのに、便所だけがそんなに大事かと一ヶ所だけ見ているようなかなり大きい記事に嫌気がした。
子供部屋は昔からあった。だが襖で仕切った部屋で、子供が小さい間、親の出入りは自在で、声を掛けて襖を開けるようになるのは、その子が色気付く年頃になってからであった。私は学生の頃にも個室の経験がなく、今でも私の仕事部屋には誰彼となく無遠慮に家人が出入りするので、本当の個室はないままに一生を終えるらしいと思っている。個室を小さい頃から与えて本当に近代性豊かな個人が育ってくれればよいが、個室に逃げ込んだ時間は人格的に幼い時期であるほど自覚もなしに低い方へ低い方へ流れるだろう。パソコンいじりが好きなので、将来は電子工学でも専攻してくれるかと思っていたら、動くエロ写真をドローダウンして鑑賞するのに個室の機能をフルに発揮させていたと云うぐらいが落ちの時が多い。親は我が子の人格をしっかり見極めて個室を判断すべきである。
不景気と言いながら移動式の一戸建て個室など贅沢を言えるようになったものである。元祖の英国ではこんな小屋はどんな評価になっているのかしら。社会全体で個人を育てる国だからこんな小屋も出てくるのだろう。今我が国では親子の関係がどんどん薄くなり、兄弟姉妹が少なく薄くなり、近所づきあいも同様、友人関係も同様である。学校でも先生とは教える学ぶだけの関係と割り切る。まあこんな風潮の世の中では、個室はぎりぎりまで作らぬ事だ。

('98/10/03)