みんなの高校地学

鎌田浩毅、蜷川雅晴:「Blue Backs みんなの高校地学~面白くて役に立つ、地球と宇宙の全常識~」、講談社(2024)を読む。Copilotによると、「高校の「理科」に「地学」が正式に組み込まれたのは、戦後の学習指導要領の整備が進んだ1950年代以降とされています。」という。私は、多分「地学」一期生だったらしい。'51年に高校で学んでいる。選択科目で、履修者はごく少人数だったと記憶する。現在も不人気らしく、「2023年度時点で「地学」を開設している高校はわずか7.4%」と言う回答だった。私には、化学、物理、生物に比べれば地学は未知で不可解な分野が未だに多く、最も好奇心をかき立てる学問のように思えるのに、不人気とはと思う。
本HPの「マグマの地球科学」('09)、「日本列島の地学」('17)、「富士山噴火と南海トラフ」('19)は鎌田浩毅氏の著作へのコメントである。地震とか噴火あるいは台風と云った自然災害への見解は、何しろとてつもなく複雑な総合事象であるから、専門家のお話には「結局どうなんだ」と言う印象で終わることが多いが、鎌田氏の説法はことに研究の評価において明快で、私のような素人を納得させる。本書は大気、海洋、宇宙までの広範囲の解説で、期待して読み始めた。
序章の「日本列島と巨大災害」に、日本海側のメカニズムが、太平洋側と異なり規則性が無く、能登半島地震の予測は不可能であったと述べてある。日本海沖ではユーラシアプレートと北米プレートが接した地震帯に沿って、M8までの地震が不規則に発生する。両プレートは水平方向に押し合っており、日本海東縁ひずみ集中帯は断層と褶曲が入り混じった地層で構成されている。太平洋側はプレートの沈み込みと跳ね返りが規則的な巨大地震を起こす、南海トラフ巨大地震の次回は'35±5年。その前後に内陸地震がある。阪神・淡路大震災はその始まり。南海トラフのいやらしい問題は「富士山噴火」の可能性。前回('44年&'46年の2つ)は(宝永噴火のときの噴火の要因)東海地震を伴わず、そのぶん富士のマグマ溜まりは膨れあがっている。
第1章「地球の姿としくみ」の1・4にチバニアンの紹介がある。地磁気逆転の歴史を地層に留めている。地磁気が太陽風の防壁になってくれているため、陸上の生命が維持出来ていることは常識だ。だがこの地磁気はどんな機構に依存しているか、本書には自転する地球外核溶融鉄の熱対流に基づくダイナモとしか説明されていない。ダイナモには初期磁場という火種が必要だ。微弱でも一旦電流が流れ出したらダイナモ作用が「自己増幅」する可能性が出てくる。Copilotに聞くと初期磁場生成にはいくつかの学説があるとのことだった。その中でもっともらしいと思ったのを2つ以下に掲げておく。
1.太陽系形成時の磁場の取り込み~原始太陽系円盤には磁場が存在していた。そして地球形成時にその磁場が外核に「封じ込められた」。冷えて固まった火星には過去の磁場の痕跡がある。金星は地球と同様に鉄の核を持つと考えられており、理論上はダイナモ作用が可能だが、金星にはほぼ地磁気が存在しない。だがそれには確固たる理由が上げられる。
2.強磁性鉱物~磁鉄鉱など~が初期磁場の「種」となった。下部マントルの磁鉄鉱などや外核融鉄が種を提供すると考える。外核は界面あたりでは4000Kほどで、FeのCurie温度を超しているから、非平衡状態の「ゆらぎ」が必要だ。あるいは地球史のどこかでこんな可能性があったかも知れない。
マントル主成分である橄欖岩の融解曲線が出ている(cf.「マグマの地球科学」('09))。マグマ発生を水無し条件(柱状上昇高温流のプルームがプレートを突き抜けて上昇するような場合で、ハワイ-天皇海山列ホットスポットが好例)と水あり条件(海洋プレートが水を巻き込んで沈み込み、その部分が含水岩石となってマグマ化し、火山を作る場合で、日本の火山が好例)と分けて示してある。含水とはほぼ化合水なのだろう。融点を下げるから、乗っかった大陸プレートにマグマ溜まりを作るのだ。
第2章「46億年の地球史」。地球を形作る岩石~火成岩、堆積岩、変成岩の概説が前章終わりから続く。日本列島は大陸プレートに海洋プレートが潜り込む位置にあるから、列島には、生い立ちから必然的に、あらゆると言ってよいほどに地質学的変異現象の証拠が出揃っている。9ページほどにそれが纏めてある。石灰岩は鍾乳洞やカルスト台地を通じて日本にはお馴染みの岩石だ。我が国で唯一大量に産する資源(セメント原料)だと学校で習ったことを記憶している。炭酸塩補償深度があって、深海ではCaCO3は堆積しないから、海洋生物起源の石灰岩は浅海の大陸棚が必要だ。我が国の太古にはそんな時期があった。
はじめは泥や砂、礫さらに火山砕屑物であった堆積物が岩石になる。粒子間にCaCO3やSiO2が晶析し、高い地圧と熱でセメンテーションを受けるからだ。コンクリートは砂利とセメントと水。砂利の間にセメントが潜り込み、水和で大きくなって隙間を詰め、絡み合って混合物を岩石にしてしまう。似ているような似ていないようなメカニズムが堆積物にも働くと思っておこう。
地球生誕は~46億年前と云われている。その証明は隕石の放射性同位元素による年代測定だ。隕石は「キャニオン・ディアブロ隕石」でU-Pb法が用いられた。Copilotに聞いてみた。その他の隕石、その他の放射性同位元素法もほぼ同じ結論を出している。「はやぶさ」が持ち帰ったイトカワ微粒子も、イトカワ母天体の形成時期(太陽系初期)は46.4億年前を指す。イトカワには他天体との衝突による破砕変成イベントがあって、それは15.1億年前と判っている。
ふたたびCopilotに聞いてみる。岩石年齢はU-Pb法では、それに含まれるジルコン(ZrSiO4)を分析試料にするのが一般的だ。ジルコンはウランを固溶できるが、鉛はほぼ含まない、つまり結晶化のときに吐き出すから、その後のPb-106は結晶化後の産物だ。最も信頼性の高い年代測定鉱物とされている。火成岩(例えば花崗岩)・変成岩(例えば片麻岩)に広く分布している。ほかにモナザイト、パデライト、アパタイトなどがあるという。
第3章は「地球をめぐる大気と海洋」。
ここ何年かで梅雨時から8月にかけての線状降水帯が、メディアに大きく取り上げられるようになった。現象そのものは古くからあったが、頻度と災害の大きさから注目を受けるようになった。「NOTE」のHPに「2025/8/11 九州で大雨」なる記事があった。著者のnkym氏は気象予報士。線状降水帯は色んなタイプに分類されるが、8/11のそれは代表的なメカニズムによるものらしい。その発生模式図は、気象庁HPに2020/7/4の同じ地方を襲ったものの解説にも載っている。本書の大気に対する説明と重ねると、ジェット気流を交えた偏西風に流されつつ、あたかも梅雨前線に沿うように、亜熱帯に近い海域から高湿度の空気が送り込まれ、積乱雲群列となって阿蘇中心の東北東方向に大雨を降らす様子が判る。
海洋に関する解説は、大概は歴史やメディアの報道で、理屈はともかくとして、半経験的にほぼ知っている内容だ。よく纏めてある。深層循環の話は現役を退いてから知った(「海のなんでも小事典」(’08)、「海から見た地球進化史」('13)、「南極の氷床と氷河」('22))。1000年単位の時間をかけて、グリーンランド近海から北太平洋までを循環すると云うから、なかなか納得できなかった。でもグリーンランドの氷床状況悪化のニュースには耳をそばだてるようになった。循環流が止まったらことに北半球での気象変動は猛烈だろうが、正確なシミュレーションは出来ていない。
第4章は「はてしなき宇宙の構造」。
私の最近の天体に対する興味は「宇宙の誕生」あたりにある(「宇宙全史(過去編)」('17)、「ダークマター」('21)、「宇宙の誕生と終焉」('24)、「文系のブラックホール」('25)、「宇宙創造のころ」('25)など)。本章の最後の2ページは図入りでその「宇宙の誕生」に触れてある。現在は関心がだんだんと誕生以前に移ろうとしているが、まだ一般教養書レベルでその問題を纏めた本はないようだ。
宇宙の未来にももちろん無関心ではおれない。太陽系について云うと、46億年前に原始太陽が寿命約100億年の主系列星として誕生した(地球は原始太陽の一部だから今の太陽と誕生時期もほぼ同じ)から、赤色巨星化するのはまだ数10億年先だ。核融合反応はなくなったころが、いわば水素の残り火が終わるころで、外層のガスを放出して収縮し白色矮星になり、やがて暗くなって恒星としての一生を終える。原始星状態は約1億年、赤色巨星状態は約5億年、白色矮星状態は数千億年から数兆億年という。赤色巨星と白色矮星についてはCopilotに問い合わせた結果である。さらにその先では我らは全くの孤独状態になるはずだ。宇宙膨張の果てである。

('25/8/19)