新しい免疫入門(第2版)(その二)

第4章「キラーT細胞による感染細胞の破壊」。
ウィルスは細胞の増殖機構を借りなければ種の命を保てない。細菌でも性病関連でよく出てくるクリミジアやリケッチアは細胞に寄生する。活性化したキラーT細胞が増殖し、自分の感染細胞を殺して病原体ごと分解消化する。そのためにナイーブキラーT細胞にスイッチを入れなければならない。細胞内が拠点の病原体でも細胞外に未侵入のものがいる。彼らは樹状細胞に捕らえられ、そのペプチドがMHC分子に載った形で抗原提示に使われる。
MHC分子クラスにはがあった。その双方にペプチドが載っている。「MHCクラス分子+ペプチド」がキラーT細胞と特異的に結合する。特異的なのはキラーT表面受容体横のCD8分子による選別のためだ。ヘルパーTではCD4だった。同時に「MHCクラス分子+ペプチド」結合したヘルパーTはサイトカインをキラーTにも浴びせて活性化させる。一方感染した細胞は「MHC分子クラス+ペプチド」の表示を表面に出している。そのときに出すサイトカイン(の中のインターフェロン)により、活性化キラーTが誘導されて、感染細胞をアポトーシス(自決)させる。病原体の中には、MHC分子クラスを侵入細胞が出さないように立ち回る進化を遂げたものがいる。それに対する備えがナチュラルキラー(NK)細胞。やっぱり感染細胞を破壊する。
臓器移植のときの拒否反応がコラムに出ている。ドナーとレシビエントではMHCが完全には一致しないのが拒絶反応の理由だ。
第5章「複数の免疫ストーリー」。
病原体撃退に参画する活性化ヘルパーT細胞はすくなくとも4種はあって、1型(第2章のマクロファージ活性化と第4章の感染細胞のアポトーシス)と濾胞型(第3章のB細胞出陣)は説明されたが、2型と17型は説明されていない。その濾胞型はさらに3種類に分かれる。マスト細胞、自然リンパ球、好塩基球、好酸球などが加わってくる。自然リンパ球は記述のNK細胞を入れて4種類。ここまででも相当に複雑怪奇なのにと思うと、この本は、一般教養書ではなく、大学の医学専攻課程で使う概説書と言った内容だと判る。研究最先端でもよく判らない因子が多いようで、未解明部分は未解明とはっきり書いてある。専門家の解説の最もよい点は、この区別を明言することで、科学ジャーナリストの本などにときおり感じる誤魔化しがない。
活性化2型ヘルパーT細胞は1型と同じメカニズムによりリンパ節で産生される。末端組織に行って、サイトカインを分泌して、マスト細胞(肥満細胞~花粉症のヒスタミン放出などでよく出てくる)や好酸球などを活性化する。マスト細胞は表面にIgEがあり抗原と結合すると活性化し、細胞内の顆粒の中のヒスタミンなどを一斉の放出する。顫動加速、粘液増量などで寄生虫~多細胞生物排除に働く。好酸球もほぼIgE関与で同じ目的に顆粒物質放出に向かう。活性化17型ヘルパーT細胞は主に腸管にあって細胞外細菌と真菌の排除に働く。好中球の動員にも働く。
活性化濾胞型ヘルパーT細胞によるプラズマ細胞の産生する抗体は、既述のIgM、IgGのほかにIgEとIgAがあり、IgGは3種類ある。対応する濾胞型Tはそれぞれ別種のサイトカインを活性B細胞に与えている。ナイーブヘルパーT細胞がこのように細かく分化する機作には不明な問題が多い。それに免疫応答は何種類もの多重応答で対処するのが普通で、時と場合によって主役が交代する。自然リンパ球は獲得免疫系そっくりに応答するのも見逃せない。後述のサイトカイン暴走による自己免疫疾患やアレルギーに、自然リンパ球も関与していそうだ。ダニの話題が述べられている。
第6章「遺伝子再構成と自己反応性細胞の除去」。
受容体も抗体だ。Y型でハサミの部分で抗原1000億種以上を認識する。ハサミはH鎖とL鎖の2重構造だ。ハサミの止めネジに近い方は定常部だが、刃渡りに相当する部分が可変部で、アットランダム的な遺伝子再編成で構成タンパク質をいろいろに造り替えることができ、その他の自由度を合わせると1000億種以上の抗体を可能にする。
T細胞の前駆細胞は胸腺で増殖しながら遺伝子再構成を受け、受容体の多様性を確保する。またヘルパーTになるかキラーTになるかも決まる。最後は「MHC+抗原ペプチド」受容体になるのだが、そのスクリーニングは、胸腺に抗原ペプチドなど置いてないから、当然に「MHC+自己ペプチド」により行われる。選ばれるのは、「適度」に結合するもので、産生Tの10%ほどしか生き残れない。B細胞は骨髄で同様の試練を受けるが、合格率はTよりよいらしい。Bはリンパ節で親和性成熟を受けて、抗原に対する結合力に磨きをかける。自己反応性が強いTやBは自己にとっては困りものだが、完全には排除できず10%ほどは残っているという。その対応策が第7章にある。
コラムにNKT細胞とγδ細胞が出てきた。前者は、病原体の細胞膜や細胞壁に由来する脂質を認識する。後者は特定の非ペプチドを認識する。読む方はますます混乱するが、ヒトの免疫体制はなかなか精密厳格でもある。
第7章「免疫反応の制御」。
病原体がないときの樹状細胞表面には「MHC+自己ペプチド」だけを提示している。自己反応性のTがきたら大事だ。そのとき樹状細胞を応答しない状態(アナジー)に持って行くのが、制御性T細胞で、それはナイーブヘルパーTよりも樹状細胞にくっつきやすく、くっつくと樹状細胞表面の、本来はナイーブヘルパーTと手を繋ぐはずの、補助刺激分子の発現を抑制してしまう。制御性Tは抑制性のサイトカインを放出して免疫反応を抑制する働きも知られていいる。B細胞は活性化ヘルパーTが必要なので、自己反応性のBは生まれない。病原体排除完了後の免疫活動を終わらせるためのアポトーシスの機構の説明がある。
第8章「免疫記憶」。
免疫学最大の迷宮だそうだ。天然痘ワクチン接種後の免疫記憶は、ほぼ生涯維持される。天然痘ウィルスは'80年に全世界で撲滅され、抗原が存在しない状態が実現したから、この結論が出た。だが我らは「忍者」ウィルス(「新しいウィルス入門」('13)、「細胞の中の分子生物学Ⅰ」('16)、「「新型コロナワクチン」とウイルス変異株」('21))に苦しめられ続けている。HIVウィルス、インフルエンザウィルス、新型コロナウィルス。せっかくの免疫機能をすり抜ける「突然変異」種がワクチンを一から作り直させる。しかしこれは免疫記憶の生涯維持とは別問題だ。つまり全く変化しない新型コロナウィルスに対する記憶は、生涯維持されるかという問いには答えられない。
我らの免疫機構は下手な「忍者」には対抗できるようになっている。B細胞では親和力の低いヤツが選ばれて記憶B細胞になる。その判断力の曖昧さが、抗原のちょっとの変身ぐらいには無頓着な反応を引き起こさせる。IgM型の記憶B細胞もあって、クラススイッチとか親和性成熟が可能だ。こっちも変身できるよと云うこと。2回目の感染では迅速大量の抗体が産生される。理由がいろいろ考察されている。長寿命プラズマ細胞は生涯抗体を出し続けるという。
記憶T細胞はCD28を介した補助刺激に依存しない。ナイーブT細胞ではそのCD28と樹状細胞の補助刺激分子CD80/86の結合が活性化の条件だった。すると記憶T細胞は不完全な抗原提示でも活性化して増殖し、すぐにエフェクターT細胞に分化できることになる。記憶T細胞には3種ありそれぞれの特性が述べられている。
新しい免疫入門(第2版)(その三)に続く。

('24/12/29)