Dragonball

鳥山明:「Dragonball 01、02、03」、集英社(2002~3)を読む。この3月に著者の訃報が出た。代表作としてDragonballが紹介されていた。図書館の目録を調べると、ドラゴンボールは全34巻で、著者以外のヒトによる研究書のようなものが何冊もリストアップされたのには驚いた。
物語出だしの主人公はブルマ(三蔵法師対応らしい)と孫悟空。ブルマは自称ピチピチギャルの美少女、現在の最先端のさらに先端を行く設備とともにドラゴンボール(龍球)探索に山奥に現れる。ドラゴンボールを7個集めて呪文を唱えると、~龍(シェンロン)が現れて、どんな願いでも一つだけ叶えてくれるという。孫悟空は今は天涯孤独の、女の子をはじめて見るという野生児。出会ったとたん、性の差に興味津々。尻尾が付いたサルとヒトのアイノコだ。
少なくとも第1巻を読み通した限りでは、よく言えば西遊記の新解釈に、猿飛佐助以来の忍法や怪獣物語ときは神話の尾ヒレをつけた猟奇妖怪冒険談義で、独特なのは過去現在未来のキャラクターが忽然とテンスとは無関係に表れ、日本、中国の距離感もないという天衣無縫ぶりである。4次元前提の作品だ。その内にドラキュラのような西洋の妖怪変化やギリシャやローマの神が顔を出すかも知れぬと思ったりする。
ドラゴンボ−ルとは里見八犬伝からのアイディアか(八犬士は、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉(仁義八行の玉)を持っていた)? 時代設定は大昔。恐竜まがいの化け物も早々に出演してくる。助演のサルやオオカミやムカデや亀は現世生物だが、なにしろ4次元漫画だから混淆はお構いなし。ブルマはタイムトラベルで来たのかな、さすればこれは戦艦ヤマトで覚えた発想だ。ブルマが持っているカプセルは圧縮ミニチュアで簡単に元のサイズに戻れる。バイクがでたり家屋がでたり。ドラえもんの得意技のようでもあり、zip解凍のようでもあり、紙おむつの吸水現象(吸水剤の約3000倍)のようでもある。
松茸狩り(桃太郎風)に来て道に迷った大ウミガメを海へ戻してやると、亀仙人がお礼に筋斗雲をくれる。「浦島太郎」(「新日本紀行いろいろ」('11)、「京都から丹後へU」('15))をもじったお話。筋斗雲は西遊記では「?斗雲」とか「金斗雲」だった。亀仙人は浦島とは別のキャラクター。後日、フライパン山(火焔山)の火を消す芭蕉扇に絡んだ話でまた顔を出す。西遊記では「芭蕉扇」を持っていたのは、鉄扇公主(または羅刹女)。
出雲風土記のヤマタノオロチvs.スサノオの神話が主役をそっくり変えて出てくる。ヤマタノオロチがここではウーロンで、村人を脅しては娘を差し出させている。退治役のスサノオを悟空がやる。ウーロン(家の表札は烏龍)は西遊記では猪八戒。カッコ良く変身するが力なしの道化役。変身は5分しか持たないのがナキ。アンデルセンの童話に似たような仕掛けの話があったかな。
ウーロンの住処では掠われた娘たちは贅沢三枚に暮らしていて、迎えに来た家族にはそっぽを向く。現代風のオチになっている。旅の供を嫌がるウーロンは下痢攻めの鎖に繋がれている。さすがは漫画。ブルマの呪文で降参した時は、藪からロールペーパーを持って現れるから笑わせる。西遊記では、悟空が三蔵に金輪攻めで縛られるのと同じアイデァ。
砂漠に入って、ヤムチャ(飲茶?)と手下プーアル登場。外見はトルコのカッパドキア風の洞穴だが、中はチャンとした中華住宅に住む。ジェットモモンガ(ジェット推進戦闘車)を操る悪党で悪賢い。西遊記でなら三蔵の法力に平伏すのだが、それでは漫画にならない。ドラゴンボールを横取りする作戦で、強盗に入ったヤムチャはブルマの入浴姿に目眩を起こしうわべだけ降参。あとフライパン山を目指す3人を尾行。
フライパン山の悪魔の帝王・牛魔王は亀仙人の弟子だった。悟空に如意棒をくれたじいちゃんは相弟子とわかる。牛魔王のドラゴンボールを貰う代わりに、亀仙人の芭蕉扇を借り出す仕事を引き受ける。芭蕉扇は西遊記にもあるが、同じじゃつまらない。亀仙人はそれを捨ててしまったことになっていた。亀仙人は自分で火を消すと決心。呼び出したのが子ガメラ。映画「大怪獣ガメラ」は'65年製作だったから、ガメラになったのだろう。
亀仙人は戦艦ヤマトの波動砲ならぬかめはめ波(砲)[カメハメハはハワイ王国の国王]で、火焔はもちろん山も城も吹っ飛ばす。ドラゴンボールは城の中にあった。さてどうなる?
ここまでが第1巻。まだ沙悟浄相当の役者が出てこないし、西遊記は火焔山のあとにも色んな事件があったはずだから、第2巻と第3巻ぐらいまでは読もうと、借り出し予約をした。第3巻はほどなく借り出せたが、先に申し込んだ第2巻は2ヶ月経ってもいっこうに順番が繰り上がらない。期限が来ても図書室に戻さぬ不心得者がいるようだ。それで第3巻を先に読むことになった。
第3巻('03年出版)は天下一武道会(以下大会)に出場した孫悟空が大暴れをする話。5年に1回の大会だというから、五輪とか各種スポーツの世界選手権大会が作者の頭にあるのだろう。第1巻ではブルマ一行が、三蔵法師一行がインドへ経典を貰いに出かけたように、ドラゴンボ−ル蒐集の旅が続くと思っていたが、そんな話は第2巻で終わったらしく、第3巻の冒頭は亀仙人の下で悟空とクリリンが、大会出場を目指して、厳しい修行に明け暮れるところから始まる。
空手道場の寒稽古とか名門野球部のスパルタ式訓練とか、武道とかスポーツには根性を大切にした時代の作品だ。「 一念岩をも通す 」と、猛鍛錬の結果を漫画では大岩を動かすことで示す。クリリンは悟空の兄弟弟子。あと1ヶ月で大会が始まるという時になって、亀仙人は「武道は勝つためにはげむのではない、おのれに負けぬためじゃ、そのためにこれまで習得した基本を生かし、自分で考えて自分で拳法を学べ」と諭す。「上達に近道なし」「学問に王道なし」と世間で言われている。作者の漫画道もそうだと言いたげな台詞である。
孫悟空は尻尾なしで出てくる。さてはドラゴンボール蒐集が完了した時に、悟空は尻尾を取り去ってもらいサルからヒトに変身したのかなとも思った。蒐集が終わって全玉が揃ったら希望が一つ叶えられるはずだったから。その尻尾は、オナガザルが見せるように、悟空の第3の手であった。天下一武道会の試合でピンチになった時、またまたその尻尾が「自動的」に再生して悟空に勝利をもたらす。
天下一武道会にジャッキー・チュンなる無双の武道家が現れ、クリリンと対決する。この名は明らかにアメリカ映画などで著名な中国系の活劇俳優ジャッキー・チェンをもじっている。クリリンはこてんぱにやられ、ギブアップ寸前になった時、かねての確信に近い噂にもとづく反撃で、一旦は退勢を挽回する。かねてチュンが実は亀仙人の変身だという噂が流れていた。亀仙人だったら女に弱い。ブルマには特に弱い。クリリンは、密かに持ち込んでいたブルマのパンティを、最後の一撃を食らう前にチュンの目の前に曝したのであった。
この漫画本はおそらく小中生徒が対象なのだろう。「男女七歳にして席を同じうせず」とは教えられた。近年の少年は、栄養不良であった我々世代と異なり、性に目覚める年格好が低い。昔なら寺小屋の先生が、儒教のこの教えを、性教育の入り口の言葉として生徒に教えたろうが、今はそれに似た具体的な教育が、幼稚園とか小学校とか中学校とかにあるのだろうか。本書に限らず漫画本には性に関する記載がよく出てくる。なんだか寺小屋の先生や地震雷火事のつぎのオヤジの代わりを、漫画本が担っているようなところもあるようだ。
やっと第2巻を借り出せた。3ヶ月近くかかった。西遊記では、一行は牛魔王と戦ってから天竺に到着し、仏法の奥義を学び釈迦に認められる。ドラゴンボールが7個揃い~龍が呼び出されるシーンが天竺(インド)到着で、願かけが奥義会得だ、釈迦の納得は龍の贈り物が対応するのだろう。新疆自治区の火焔山からインドまでの実際は特徴の少ない砂漠地帯。この漫画ではアメリカやメキシコの砂漠のウチワサボテン風景からヒントを得たのではないかと思う画面がある。小さいウチワサボテンの芽はウサギの耳に似ている。そこのオアシス都市に根を張るワルがウサギ団で、ブルマが人参に替えられてしまう。たたきのめされたウサギ団は、月へ送られて餅をつくというオチになっている。月とウサギは、今昔物語にも出ているという我ら世代には懐かしいおとぎ話だ。
トルコ・イスタンブールのスルタンアフメト・モスク(ブルーモスク)のような巨大イスラム風建造物が現れる。天竺に相当するらしい。ただ親玉はピラフ(炒飯)大王というドラゴンボールによる世界制覇狙いのワル。一行の持つ6個と自分の1個を合わせ、満願成就とばかり竜を呼び寄せ、ピラフ大王が「世界を」と願い事を唱えた横から、抜け出ていたエロ好きウーロンが「ギャルのパンティおくれーっ」と繋ぐ。天からパンティが1枚舞い降り龍は去る。満月を見た悟空が怪物猿(「月に吠える」(萩原朔太郎)ではオオカミ)に変身し、超近代材料でできた獄舎を吹っ飛ばし、一行を助ける。ブルマとヤムチャはめでたく結ばれる。一行解散。
尻尾を切られて元に戻った悟空は、再修業のため亀仙人に弟子入りを希望する。亀仙人が要求する修業料はピチピチギャル。亀仙人は純情だがちょっと変態の女好き。も一人弟子入門希望の小僧・クリリンが現れ、二人でピチピチギャル獲得競争。そのギャル・ランチはハクション一つで性格が一変する二重人格者(精神病理学上では解離性同一性障害と言うらしい(Wikipedia)、TVアニメに「ハクション大魔王」があった)で今後の事件が愉しみ。
暗さ深刻さがない借り物お構いなしの、のびのびとしたギャグ満載漫画。この作品が生まれた20世紀が21世紀に変わる頃の日本は、成長が停まったものの、GDPは依然世界第2位を維持し、前途にまだまだ期待がもてる時代だった。Dragonballは世相をよく反映していると言えよう。

('24/6/8)