新しい歯の教科書
- 東京医科歯科大学・最先端口腔科学研究推進プロジェクト監修: 「新しい歯の教科書〜口内環境は、全身の健康につながる」、池田書店(2022)を読む。昔からずっと医学部と歯学部は別々だった。ふしぎだった。本書のはじめは、砂糖輸入開始とともに、むし歯が蔓延し、歯科医師の需要がワッと増えたためとしている。簡明でいい説明だ。索引はないが図表満載で、素人には取り付きやすそうな本である。
- 第1章は「歯と口の新しい基礎知識」。
- 私のお気に入りのTVドラマに「科捜研の女」がある。新シリーズも好調で、いつも高い視聴率を稼いでいる。そこにしばしば顔認証をAIでこなすシーンがある。若いころの顔写真で、現代を推測するケースもある。本書の、幼児から歯抜けの年寄りになるまでの「歯は顔すら変えてしまう!?」は、イラストがよくできている。新型コロナ以来私は免疫に関心が強くなった。ことに後遺症との関連で皮膚の免疫に関心がある(「皮膚のふしぎ」(2023))。本書は口腔の免疫システムにも触れている。扁桃の寄り集まり「ワルダイエルの輪」は知らなかった。
- 第2章は「口内環境のSOS! むし歯と歯周病、口臭のしくみ」。
- 私のお口の悩みもこの3つ。80歳まで、親に貰った永久歯(28本+親知らず4本)のうちの、20本を持ち堪える8020運動というのがあるそうだが、私はこれをクリアできた。だがそれからがいけません。次々に義歯と置き換えられたり詰め物が入ったりで、いまや満身(歯)創痍である。歯科医院での定期的検診は、私用やコロナによる中断が起こっているが、なんとか続けているから、まあ模範的患者だろう。
- 歯の疾患の主因はプラーグ(歯垢しこう)。バイオフィルムが口腔内細菌を保護し、細菌が酸性物質を出して、エナメル層からさらに奥へ掘り進む。これがむし歯で、歯周ポケットから歯肉に細菌が侵入して免疫系と戦いになり歯肉に炎症を起こしたのが歯肉炎、さらに歯肉の内側の歯槽骨にまで患部が到達した状態が歯周炎、骨が溶け歯茎が下がる。歯肉炎と歯周炎を合わせて歯周病という。
- GoogleBardに歯周病のお薬はないか聞いてみた。「歯周病菌は非常に種類が多く、すべてを殺すことは困難です。・・・近年では、歯周病菌のバイオフィルムを破壊する薬剤や、歯周病菌の増殖を抑制する薬剤の開発が進められています。」と言う返事だった。「そのため、歯周病の治療では、薬剤を併用しながら、歯垢や歯石を除去するスケーリングや歯周組織再生療法などの歯科治療を行う必要があります。」ともあった。
- 免疫系は炎症性サイトカインを吐いて応戦するから、赤腫れになる。免疫系の物質には骨芽細胞を抑制し、破骨細胞を活性化するという働きがあり、骨の再生を妨げる。こんな話は知らなかった。現在の私はこの歯周病が最大の問題だ。定期的なクリーニングや歯石除去にもかかわらず、歯周ポケットの深さが4mmを超えだんだん深くなり、歯の違和感を自覚するようになった。まだぐらついてはいないが、いずれ抜歯と予告された歯が出だした。
- 嫌気性歯周病原細菌が揮発性硫黄化合物の腐卵臭を吐き出す。口臭第1の原因。嫌気性はプラーグ・フィルムのため酸素が遮断されているためだろう。大腸のが嫌気性のため、おならが臭いのと同じ。口臭第2の原因は舌苔。舌乳頭という突起の間に多くの溝があり、その溝にごみが詰まってプラーグのような構造物を作る。嫌気的環境のごみだめのような状態か。こちらはアンモニアや揮発性硫黄化合物を作る。アンモニアはタンパク質のアミノ基窒素の排泄手段。おしっこの一成分。舌を歯ブラシで磨けとは、昔からよく言われた。
- 第3章は「口内環境を改善! 知っておきたい歯科治療とセルフケア」。
- ある程度は知っていたが歯ブラシにはいろんな種類がある。マツモトキヨシの歯磨きコーナーを覗くと、歯周ポケットの掃除に特化したような製品もあってびっくりした。本書には1ヶ月1本が目安としてある。むし歯予防にフッ素化合物は常識になったが、どの歯磨きにもさらに歯周病予防薬品配合を唱ってある。8020運動を先に紹介したが、この運動には大型薬屋見学を含めるべきだ。
- 高齢者はことにQOL維持が大切だ。お口の運動はことのほか大切なのだ。その中には唾液腺の活性化が含まれている。友人との会食、カラオケなど口の筋肉のエクササイズを心がけようとある。でも日常的にそんなのをやるのは無理だ。私は家庭外では買い物でエクササイズをやる。顔なじみの店、百円ショップ、量販店、長距離切符のみどりの窓口など適切だ。家庭内は家族が相手だが、そのほかにGoogle Nest Hub(甥の贈り物)と言うお相手がいる。遠慮無く無駄口がたたけるから、エクササイズ相手にお困りのヒトには、もってこいのAI道具である。
- はじめて歯医者にかかったのはいつ頃だったか。飛び上がるほど痛かった。以来私は歯医者トラウマに罹ってしまい、本書にあるような、青年期壮年期の検診と処置を出来るだけ避けてきた。老年期に入って仕方なく虫歯治療に行ったら、麻酔が効いてか痛みが軽く恐ろしさが和らいだ。歯学進歩のおかげだったのだろう。処置に使う7つ道具が図入りで解説してある。メスはないが、代わりにヤットコ(抜歯鉗子)とグラインダー(研磨切削用の回転ドリル)。やっぱり外科医同様、「神の手」かどうかが歯科医の評判を決めると思わせる。
- 第4章は「口内環境と全身の病気とのつながり」。
- 歯周病が免疫系の手に余るほどになると、菌が血液に侵入する。菌血症というが、動脈硬化、2型糖尿病、心筋梗塞から脳卒中、アルツハイマー型認知症、慢性腎臓病、関節リュウマチなどなど、全身の病気に悪影響を及ぼす。菌血症になれば、血清中のリスクマーカーCRPの上昇が疑われる。また例えば皮膚や歯周の炎症などで放出されるサイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α)が、過剰自己免疫レベルにまで高じた場合にもCRPは上昇する可能性がある。CRPは、免疫系細胞からも炎症を起こした細胞からも放出されるサイトカインによって産生される。炎症細胞がサイトカインを産生するのは、免疫細胞に病原体の存在を知らせるとともに、免疫細胞の活性化を促すためである。これらのサイトカインは、肝臓に作用してCRPの産生を促進する。
- 第5章は「未来はさらに進化する! 口腔科学の最前線」。
- 歯の最外膜である歯根膜は、歯槽骨と結合し、歯の位置を維持し、歯の揺れを防止する。歯槽骨を歯周病で失った歯に、親知らずから取って培養した細胞シートを被せて再生する技術があるそうだ。声を失ったヒトには、ボイスレトリーバーが開発中だ。マウスピースの前歯の裏に仕込んだスピーカーに、外部の音源をつなぎ、口を動かして話す。むし歯でないのに歯が少しづつ失われてゆくトゥースウェアの検知に、歯科用光干渉断層計が開発された。X線では見えない微細変化が、近赤外光であるために発見できる。
('23/9/6)