骨粗鬆症

NHKヒューマニエンス:「“絶滅人類” ホモ・サピエンスを映す鏡」で、ホモ・サピエンスが生き残った理由の一つに、新しい食料源として、肉食獣食べ残しの骨の髄を道具(旧石器)を使って取り出す方法を発見したことを指摘していた。そこまで言えるのかと目から鱗だった。私は、だれでも同じだろうが、そこそこに生命には関心を払ってきた。起源とか発生とか進化とか、酵素とか細胞とか多細胞臓器とか、循環系とか消化器系とか神経系とか脳とか、興味のわくまま種々雑多に読み散らかしてきた。でも骨に関してまとまった知識を手に入れたことはない。
私自身の骨密度の測定は老齢になってから時折やってもらった。平均より許容枠内とは言え下限界に近いし、青年時代より3cm以上身長が縮まっている、病院では背骨が曲がっていると指摘されている、どう見ても私は骨粗鬆症に入ったか、よくて寸前だ。で、骨粗鬆症から骨を勉強しようと思った。竹内靖博監修:「ウルトラ図解 骨粗鬆症〜いつまでも丈夫な骨でいられるために〜」、法研(2022)を読む。優しい語り口の本で、入門書中の入門書といった印象だ。
骨粗鬆症は、背中の骨折(椎体骨折)や足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)の主要な原因になる。住宅街では、腰が曲がり、歩行器や杖にすがって歩く人を多く見かける。これは前者の椎体骨折。後者の骨折では寝たきりになりやすい。くわばらくわばら。かって整形外科の先生から、椎体の骨折やずれが起こったら、なぜ腰痛その他の痛みが出るかを模型で説明してもらったことがある。脊柱管狭窄症の話だった。脊柱管を走り椎体の境界から分かれて行く神経束が圧迫されるためと承った。そのときは第4と第5の椎体がずれて(滑って)腰部などの下半身に痛みが出る話だった。
まず骨の成分と役割。鉄筋コンクリートの建物に例えて言うなら、コラーゲンが鉄筋に当たり構造体のネットワークを形作る。ハイドロオキシアパタイト(リン酸カルシウムの結晶)がコンクリートにあたる。先日NHKの「よみがえる新日本紀行」で「蔵ずまいの町〜福島県喜多方市〜」を見た。もう半世紀ほど昔の映像だ。取り壊される土蔵から壁の構造が見えた。竹筋がネットワークになり壁土をつなぎ止めている。表面に白壁が塗ってあって内部を守る。骨の外側は皮質骨ともいう緻密骨で内部を守っている。例えるなら土蔵の壁の方がよいと思った。
骨芽細胞と破骨細胞のせめぎ合いのバランス結果が、現在の君の骨だと言えばそれまでだ。宇宙船に長期滞在した飛行士が帰還したとき、彼らが担架で運ばれる写真には驚いた。骨密度低下で立つと危険らしい。バスケット選手や重量挙げ選手の骨密度は一般に高い。環境の重力加速度が骨を増やしたり減らしたりする。実験データが挟んである。骨粗鬆症患者にとって、ことに縦方向の重力負荷をかける運動は大切だとある。だか転んだりの一瞬の過剰負荷はたちまち骨折に繋がるから、用心用心の運動だ。
骨がカルシウムの貯蔵庫になっている。カルシウムは筋肉の収縮、神経興奮やホルモン分泌、酵素活性の変化などの各種の細胞機能の調節因子として、生体機能の維持および調節に不可欠な役割を担っている。海水中で生活している魚類などでは血清カルシウム濃度を低下させるカルシウム代謝の調節が必要だが、陸上動物は常に血液中のカルシウム濃度は低下の危機にさらされている。このため血清カルシウムを上昇させる副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンDなどの働きによりその濃度が維持されている。腸管からの吸収や腎臓からの排出制御でバランスを計るが、足らなくなれば骨のカルシウムを遠慮なく転用する。
妊婦が姑にやたらと小魚を食べさせられた話は覚えている。動物性のカルシウムは吸収率が高い。牛乳は好適。でもこれを1合も毎日生で飲むのは、食糧難の昔ならともかく、アレルギー性でなくてもいやになる。ポパイのほうれん草はカルシウム摂取の奨励策だったっけ。野菜の中では、ほうれん草は抜群にカルシウムリッチだ。日本人の食事はカルシウムが不足気味だそうだ。そのカルシウムを効率よく利用するにはビタミンDとKが欠かせない。Dは腸からの吸収に、Kは骨への沈着に役立つ。ビタミンの知識が喧しかったのは、私の小学生のころだった。でもビタミンKが骨作りに役立つなどという知見はその頃はなかったと思う。今回初めて知った。納豆には豊富に含まれている。地域の納豆消費量と骨折数には統計的に関連があるという(Wikipedia)。
骨粗鬆症の治療に用いる薬とその作用。骨粗鬆症患者は3/4が女性だ。骨密度は女性の方が低い。しかも閉経期を過ぎると急速に低下する。そのカーブは女性ホルモン(エストロゲン)の産生量とパラだ。エストロゲンを内服あるいは貼り付けで補給してやればいい。選択的エストロゲン受容体作動薬は、骨の中のエストロゲン受容体に代わりに結合し、エストロゲン減少による破骨細胞増勢を抑える。(男性ホルモン(アンドロゲン)は逆に骨芽細胞に働きかけ骨形成を促進する。) 骨をコーティングして破骨細胞から守るビスホホネート薬もある。
デノスマブという抗ランクル抗体薬がある。前破骨細胞は、表面にあるRANCL受容体にRANCLというタンパク質がくっつくことで成熟し破骨細胞になるので、その働きを邪魔するのだそうだ。この薬は半年に1回の注射で済むそうで、患者には朗報だ。血液へのカルシウム供給が減る副作用がある。それに対応する薬もある。
骨の形成を助ける薬の解説がある。副甲状腺ホルモン薬は、重症者に注射投与することが多い。血中のカルシウム濃度を調節する。骨を溶かして血中の濃度を上げる働き、つまり骨吸収の作用もあるが、骨芽細胞の自然死を防ぐ作用もあると言うから微妙な相手で、断続的にホルモンが体内で増えるとき、骨形成が促進されるとある。腎臓に作用して活性型ビタミンDを増やすから、腸からのカルシウム吸収が活発になる。ロモソズマブ薬は、すでに骨折したことのある重症の骨粗鬆症に使われる注射薬である。生化学的機構の解説があるがここでは紹介しない。
活性型ビタミンD薬、カルシウム薬はより直接的なカルシウム補給だ。骨粗鬆症治療の勝負は長い。目に見えるほどの早さで改善してくれる薬なんてないのに、いらついた患者が自己判断で服薬を中止するケースが多いらしい。5年後には半数以上が服薬を止めてしまうというデータが出ていた。
骨がすかすかになると「いつの間にか骨折」の椎体圧迫骨折に陥る場合が多い。軽度のときはコルセットとかギブスをつけ歩行器とかシルバーカーを使う(買い物籠に車輪を付けた荷車は市中で多く見かけるが、介護支援の車は4輪がほとんどだから見分けが付く)、痛みがひどいとブロック療法(局所麻酔薬などの注射)が使われる。7/3の毎日に「脊柱管狭窄症」という題の運動療法の本の広告が出ていた。おそらく座骨神経痛の軽度のものに対する指南書なのだろう。脊柱管狭窄症は原因である構造異常、座骨神経痛は結果の症状を示す。半ば同じ病気を意味するらしいからややこしい。
さらに症状が悪化すると外科手術の段階に入る。外科手術は記述を読むだけで気が滅入る。私は医学部学生だったことがある。すぐ工学部に転部したが、医者にならなくて良かったと思う。器具で骨を固定する「脊椎固定術」には、上下の椎体をスクリュー(ねじ)でつなぐインプラント、さらに悪い状態ではスクリューにロッド(棒)を通して上下何本かの椎体を固定するインプラントを入れる。もちろん全身麻酔の大手術だ。手術時間は1〜2時間、入院期間は2〜3週間とある。外科手術にはほかに「脊椎除圧再建法(押し出されて神経を圧迫している破片を取り除く手術)」、「BKP術(骨セメント療法)」が解説されている。
最終章は「予防と改善のための生活術」という題。転んで骨を折ったという話はよく聞く。外出時の注意事項は、両手を空けて歩く(リュックスタイルとか手押し車方式がよいのだろう)、肘や膝や尻にプロテクターを付ける、サンダルやスリッパは止める(下駄もその一つだろう)。タイル、小さな段差、マンホール、マットの縁やスロープは要注意(すり足のためつまずきやすい)。屋内では手すり取り付けに段差排除、滑り止め設置が大切。たこ足配線に足を絡まれて転ばないよう電気配線の整備。絨毯でも足を取られることがある。

('22/7/3)