桜の科学
- 勝木俊雄:「桜の科学」、サイエンス・アイ新書、'18を読む。
- 例によって目次の中から気に入った項目を選んで、それから読み始める。その最初は「金刀比羅宮の桜」。金比羅(琴平)は私にはおなじみの場所だから。金刀比羅宮には何度もお参りした(「金比羅詣り」('95))。高峰秀子主演の名画:「二十四の瞳」では修学旅行コースにこのお宮が入っていて、お宮の門前町風景から拝殿までの石段までがしっかり撮影してあった。琴平町の金丸座へは歌舞伎を見るために1泊旅行で出かけた(「金比羅歌舞伎」('96))。「旧造幣局サクラの通り抜け」では、本書で話題にしている桜:「琴平」を見ている(「びいなすシネマクルーズ」('19))。
- 「琴平」は栽培品種。佐野藤右衛門が金比羅宮から採取・増殖した。彼本人は NHKのスペシャルドラマ:「京都人の密かな愉しみ」の「桜散る」編ドキュメンタリー部に桜守として出演している。ところが現地で原木と称する桜の木は「琴平」と咲かせる花が一致しない。そのなぞを著者が追っかける。佐野氏は里桜山桜各一種を持ち帰った。その山桜が「琴平」になった。今金比羅宮にある原木は里桜の方だと解明された。「琴平」は里帰りして、今社務所門前に里桜古木と向かい合って、春が来ると美しさを競っているそうだ。
- 「琴平」の次ぎに読んだ項目は、「「染井吉野」は一つのクローン」。Wikipediaには、「遺伝子研究により、ソメイヨシノはエドヒガンを母、日本固有種のオオシマザクラ(最新の研究成果によると、正確にはオオシマザクラとヤマザクラの交雑種(注:前者がメジャー)を父とする(クローンの栽培品種)」と記載されている。当然、父母を同じとするのはソメイヨシノだけではない。新宿御苑の「アメリカ」(「新宿御苑2013」)という品種もその中に入っている。
- Wikipediaには「ソメイヨシノのゲノム構成はヘテロ接合性が高く、自家不和合性が強い品種である。よって遺伝子が同一であるソメイヨシノ同士では結実しても種子が発芽に至ることはないが、ソメイヨシノ以外のサクラとの間での交配は可能であり、実をつけその種子が発芽することもあり不稔性ではない。こうして誕生したサクラはソメイヨシノとは別品種になる。ソメイヨシノとその他の品種の桜の実生子孫としては、ミズタマザクラやウスゲオオシマ、ショウワザクラ、ソメイニオイ、ソトオリヒメなど100種近くの品種が確認されている。」という記載がある。
- 接木や挿木でクローンを維持する。佐倉城祉公園には根元に台木の形が残っているサクラがある。しかし多くは判別できない。初めは挿木であっても、やがて台木は本木と置き換わるものらしい。
- ソメイヨシノは日本の国花サクラをさらに代表する品種だ。だがそれは韓国が発祥の地だと言われればあまり嬉しくない。韓国ではソメイヨシノが済州島起源だと信じて止まない。学名まで同一扱いとし、日本のソメイヨシノの苗から韓国固有種の王桜(エイシュウザクラ)の名所作りが行われているという(Wikipedia)。
- 筆者らは'17年、遺伝子解析で、王桜はエドヒガンとオオヤマザクラの種間雑種であり、ソメイヨシノと異なることを明らかにして、新たな王桜の学名(Cerasus × nudiflora (Koehne) T.Katsuki & Iketani)を確立させて、国際的な周知が行われた(Wikipedia)。寿司は韓国が起源という話を昔新聞で見て驚いたことがあった。ほかにも韓国起源説はいろんな文化対象について主張されているという(Wikipedia)。私は、今では、韓国との友好回復にはさらに100年が必要と唱えている。他国人の神経を、不用意に逆なでする行為が止むまで、当方からは手をさしのべない方がよい。
- 3つ目の注目項目は「新たな発見、クマノザクラ」。私のHPにはこのサクラは一度も顔を出さない。日本の野生集団としてのサクラは10種ほどという。日本には現在この野生種を基に 、これらの変種(自然交配雑種のことだろう)以下の分類を合わせて100種類以上の自生種があり、さらにこれらから育成された栽培品種が200種あり 、分類によっては600種を越えるとされる(Wikipedia)。この限定された野生種に1種加わったのだから大事件である。熊野地方にヤマザクラ、カスミザクラと混在していたため、今までは区別されなかった。ソメイヨシノより開花期が早いという。著者の発見。
- 4つ目は「浅黄は青緑色?」。鬱金と御衣?という、緑色の入った花を咲かせる栽培品種について書いてある。緑の色素は葉緑素。私がこのサクラに気付いたのは定年退職してのちだった。新しい公園などに植わっている場合が多い。私は関西が長いが、あちらでお目に掛かった記憶がない。鬱金と御衣?は元々おなじクローンであったのが、枝変わりによって花の形態が異なるようになったとある。一本だけ見てどちらだと言い切ることは私には不可能だ。それほど似ている。
- 5つ目は「サクラの実は猛毒」。これはちょっと意外な表題である。私らにはサクランボを食う習慣はなかったが、アメリカから安価に輸入されるようになってから、我が家の食卓にもサクランボがときおり顔を出すようになった。アメリカから来る品は黒色だが、国産の佐藤錦は真っ赤でいかにも美味そうだから、高価でもこちらにするときが多いようだ。Webで見ると、青酸配糖体が主にウメ、アンズ、モモ、ビワなどのバラ科植物の未成熟な果実や種子、葉などに含まれるとある。サクラもバラ科。腸内細菌などにより加水分解されると、青酸を発生する。未熟のバラ科植物の果実を食うことは無かろうが、果実が完熟していても種は念のため吐き出すべし。
- 6つ目は「吉野は桜の代名詞」。吉野は1000年以上の歴史がある。元々はシイ、カシなどの常緑樹林だったろうが、飛鳥時代や奈良時代に森林伐採が進み、二次林化した。二次林ではヤマトサクラのような落葉広葉樹が優勢になる。現在ではほかにカスミザクラやエドヒガンなどが自生している。
- お花見の花がサクラになったのは平安時代から。だから品名のある自然交配雑種の起源が、古都と結びつくのは当然だ。染井村のサクラだから染井吉野。原木はお江戸らしいが。奈良(の都の八重)桜。千本えんま堂からきた普賢象。京都御所の左近の桜。八瀬大原の大原渚。近年はDNAという解析兵器があるから、次々に起源が明らかになって行く。クローンではなかったり、品名だけが伝わった雑種であったりと歴史書との対比が面白い。
- 関山は薄紅色の八重桜で染井吉野より遅れて咲く。千葉の青葉の森公園ではいろんなサクラが観賞できる。サトザクラを一纏めにしたコーナーで見たことがある(「青葉の森公園のお花見」('13))。寒冷に強く日本より寒い欧米では人気があるそうだ。欧米ではこれを片親とする新しい栽培品種が作り出されている。出自ははっきりしないが荒川堤のコレクションの一つという。
- 7つ目は「啓翁桜はタネで増える」。啓翁桜は早咲きで関西で正月の切り花になる珍しいサクラである。いろんな名がつけられていて名称が混乱している。著者はその名の起源が宝塚の農園にあるとし、啓翁桜へ統一したいと書いている。啓翁桜はカラミザクラ(染色体4倍体)の血を引く3倍体だ。3倍体や4倍体などの多倍体植物では無融合生殖が行われる。受精することなく、母親と同じ遺伝子セットをもつ種子が生まれるということ。
- 出自に関するいろんな文献から著者が選んだストーリーは以下の通り。上記農園には種子をまき実生選抜して品種としたとあるから、もともとの無融合生殖を暗示している。その種子はシナミザクラ(=カラミザクラ)を台木としてヒガンザクラを接木し、そこに出た枝変わりからのサクラのもの(久留米市)だそうだ。枝変わりは、ある枝が成長点の突然変異などによって、その個体が持っている遺伝形質とは違うものを生じる現象である。啓翁桜はシナミザクラの枝変わりを、無融合生殖で増殖させたサクラだ。接木はたまたまそのときに突然変異があっただけで枝変わりの条件ではない。
('21/4/28)