金よりも金色


金よりもずっと金色の生き物がいる。お目にかかるのは二度目である。初めては沖縄であった。今回は「くさぶえの丘」の蝶の飼育室であった。オオゴマダラという蝶の蛹である。
小枝にぎっしりと蛹がぶら下がっている様は、大きな粒金を隙間無く吊したようで美しい。繭は作らず体毛もないから全くの金属光沢である。蝶の成虫を愛でる人は多いが、蛹まではたいてい毒々しい色模様のグロテスクな姿をしているので、嫌われるのが普通である。だがオオゴマダラだけは違っている。
成虫になれば翅を使って捕食から逃げることができる。しかし蛹は枝にぶら下がったきりである。鳥が啄みに来たらそれまでである。幼虫時代ならまだ動けるし、身を守るためのいやな臭いを発射する器官も備えている。食べたら毒かもしれないが、これは鳥が学習するまでは防護策にならない。
一番無防備な時代になぜきんきらきんなのだろうと可笑しくなった。保護色とは逆の手で、目立つことで欺いているつもりなのか。確かに自然界にはこれ以外に全体金色の生き物は見かけない。ただこの蛹だけがピカピカしていたら、鳥も食い物とは思わないかもしれない。
オオゴマダラの死骸が部屋にたくさん集められていた。私がこの飼育室を知ったのは新聞記事になったからだが、その記事ではオオゴマダラが全盛のようだった。ほんの2-3日の間にこうなったらしい。成虫の寿命は全く短く、はかないものである。変わって全盛を迎えたのはコノハチョウであった。この蝶も亜熱帯系の種類で、見るのは初めてである。
両翅を広げなければ、停まっているコノハチョウは枯葉そっくりである。保護色とか擬態の典型として人間に理解されてきたが、実際は本当にそう機能しているとも言えぬ場合が観察されると言う。ともあれ部屋に入ったとき、殆どの蝶が休んでいたためとすぐ気付いたが、一瞬部屋を間違えたかと思ったほどだから、高等動物には十分保護色の効果を持っている。オオゴマダラは大きな翅で堂々と飛ぶが、コノハチョウは小さな範囲を少し飛ぶだけである。だから種の保存には何かの対策が、天から与えられているはずである。それはやっぱり保護色としか思えない。
可憐な騙しのテクニックの持ち主たちよ。飼育室でしか見られぬのは残念である。今度南の島々を訪れるときには原野を飛び廻っていてほしい。

('98/03/17)