熊と出会ったら


山道で突然熊に出会ったらどうするか。昔は、死に真似で難を逃れた人の話がまことしやかに流布されていて、死んだふりが一番とされていた。実際はこれほど危険な方法はないそうで、殆ど助からぬそうである。熊は生き死にを優れた本能できっちり知り分け、生きておれば、お構いなしに、猛烈な一発を食らわすそうである。
山道にさしかかると、バスガイドは、日高山脈で起きた福岡大学パーティの遭難事件を事細かに話し出した。冬の北海道観光旅行である。今回は道東つまり阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖、知床半島、網走といったコースを辿る。3泊4日を4万円を切る格安ツアーであるから、到着空港も時間もなかなか決まらなかった。やっと千歳空港から数時間をかけての日勝峠越えとなった。
その遭難では5人中3人がやられたそうである。テントを破られ、危険を感じて逃げ出した登山者が次々に殺された。熊に出会い頭ぶつかったら、正面を向いたままじわりじわりと後退せよと言う。後ろを見せれば自分より弱いと判断されてしまうという。戦う姿勢を崩さずに、後退するというのは、人間社会にも言えることで、多分正しいのだろう。手の内がわかるまでは、相手だって用心するのである。
いつか草刈り鎌で戦って重傷を負いながら、生き抜いた「山でばったり熊と出くわした」農婦の記事を見たことがあるが、今時の「ふやけた」男ではちょっと見習えぬ出来事であった。こちらの事件は本州での話である。北海道のヒグマは本州のツキノワグマより一回り大きいからなおさらである。
一番いいのは、こちらの存在を相手に知らせておく手だてを講じることである。熊の大敵は人間様だから、相手は存在を知ったらよほどの理由がない限り、人間様を回避しようとする。今からもう40年ほど昔の夏休みに、学生仲間と十勝岳に登ったことがある。麓で言われたことは、「岩陰や折れ道では何でもいいから大声を出しなさい」であった。そうしたら見えぬ位置にいても熊は退散してくれる。バスガイドも山菜取りで襲われたおばさんグループの話で、似たような結論を言った。
他人に無神経な人が増えている。ちょっと熊さん相手にトレーニングを積んではいかが。

('98/03/03)