5GとAI

両眼に白内障の手術(本HP:「タンパク質の一生」(09)、「白内障」('19))を受けた。6泊7日の入院だった。退屈しのぎに2冊の雑誌を持っていった。「週刊東洋経済」('19年5/25号)と「Newton(ニュートン)」(2019 9)である。前者は「5G革命〜超高速だけじゃない 次世代通信の破壊力〜勃興する巨大市場を掴め!〜」という特集号で、後者は「人工知能のすべて〜人工知能(AI)のしくみと最新情報がわかる!〜」という特集号である。以下はその要旨と感想である。
まず5G。5Gの経済効果は年間46.8兆円という。トップは21.0兆円の交通・移動・物流関係、第二位に13.4兆円の工場、製造、オフィス。4Gが5Gになることで通信速度は1Gbpsから10Gbpsと10倍になる。通信では超低遅延が実現する。4GではWi-Fiでも0.4〜0.5秒ほどの遅延が起こるため、交通移動機関では40km/hrまでならともかく、それ以上の高速運転では支障をきたす。人手不足のトラック業界で実験されている隊列走行の例が示されている。80km/hr走行なら、ブレーキにたいし先頭と後続の間での伝達に10mの間隔を入れなければ、衝突の可能性に繋がる。
自動運転は基本が自律運転であるが、5Gは複数大量の情報を基地局につなげるために、遠隔監視の精度が上がり緊急動作を正確に指示できるメリットがある。自律運転でも3D地図を受信することでより安全より正確に運転されるだろう。多数同時接続は5Gの大きなメリットだ。ただ5G通信では電波の飛距離が短いために基地局の密度を上げねばならない。自動運転実用化にはその全国的なネットワークを必要とするが簡単な話ではない。それから車載通信機のチップ化には、まだまだ高いハードルが待ち構えている。
多種多量の情報を一時に利用できるから現実と仮想の境界はどんどん曖昧になる。「色即是空」「空即是色」が生身かバーチャルかの融合した姿になってあらわれ、社会に影響を与える。その最も先端にあるのがエンターテインメントの世界だ。私はまだ経験したことがないのだが、ポケモンGOなどのARゲームの本領は5Gで開花する。バーチャルキャラクターの進歩は、「VTuber」の舞台裏の俳優声優と舞台面のバーチャルキャラクター(ユニ)の表裏一体の話として説明してある。任天堂やソニーのゲーム市場にグーグルが「クラウドゲーム戦争」を仕掛けている。ドイツでは次世代スマート工場に力が入っている。パナソニックや東芝が熱い視線を注ぐ「ローカル5G」は同じ路線と言えるのだろう。
米中関税合戦の原因の一つとなったファーウェイの全貌解説が載っている。トランプ大統領の心配は、裏に中国政府の援助があろうと無かろうと、それは表向きの話で、ファーウェイの圧倒的な開発費と成果としての特許出願数の激増に自由陣営のどの会社も太刀打ちできなくなっている現状だ。中国は上海を5G実験都市に指定し覇権に王手をかけた。ファーウェイがその実行を担う。韓国勢のサムソン電子とLG電子もあなどりがたい。我が国の実施体制は日本で開催されるラクビーW杯から始まる。米韓では一部で5Gサービスが始まっている。
ここに来て大切なのは全国の光ファイバーネットの充実度で、我が国は高い普及度を誇るから5G通信実用化において立ち後れているとは言えない。通信用半導体業界ではインテルが開発を断念しインテルを当てにしていたアップルがクアルコムに全面降伏したという事件があった。
AI(人工知能)には過去に2回のブームがあった。1次は1950年代後半〜1960年代にかけて起きた。ルールやゴールがきっちり決まっている問題だった。2次は1980年代〜1990年代のはじめまで。「エキスパートシステム」による展開だった。チェスの世界チャンピオンがAIに敗れたのは1997年である。3次は2000年代半ば頃から始まった。ディープラーニングが画像認識のAI競技会で驚異的な戦績を納めブームになった。本HP:「脳・心・人工知能」('16)にも技術のあらましを載せている。「人工知能(AI)いろいろ」('17)では、AlphaGo(対李囲碁九段戦で4勝1敗)の紹介をしている。
TVでは「科捜研の女」の沢口靖子演じる榊まり子が、いろんなAI技術を披瀝してくれるが、顔認証・指紋認証をはじめいわゆるパターン認識に関わるものが多い。この雑誌記事には触れられてないが、「科捜研の女」では遠くの映像の歩行の癖や全体の肢体で認証する方法をよく使う。過去の膨大な実験データ観測データを記憶したコンピュータが、創薬や材料開発に活用されつつある。
AIの例に花の認識を取り上げてある。最新のらくらくホンには花の名を写真から判定する機能がある。グーグルにもそんなソフトがある。人に分かりやすい花だと的中率は高いが、雑草のしなびた花など人に判断しにくい花はAIも同じだ。「分からないから尋ねているのに」と思う。テキストには色、花びらの形、萼の並び、A領域とB領域の形の関係、C領域とD領域の明るさの差などなど多くの因子を対応させて正解に至るとある。世界の植物写真データはあらかじめ覚え込ませてある。画像の注目点をどこにおくかは大量に与えられた画像からAIが自ら判断する。例示した着目点はたとえの話で、AIの抽出する特徴には、人では捕らえきれない要素と要素の複雑な関係も含まれているはずだ。
次に身近な例は外国語の自動翻訳ソフトだ。私のスマホにも音声翻訳サービスが入っている。日英で試してみると日常会話程度なら十分実用に耐えると分かる。我ら世代は筆談はできるが会話は通じない人が多い。私もその一人だ。いざというときには重宝な道具だろう。私の関西弁などお茶の子で理解してくれる。逆に私の英語を聞かせてみると発音の間違いがよく分かるという使い方もある。専門用語を集めた翻訳バンクがNICSTで準備されているという。このAIは音声認識AI、自動翻訳AI、音声合成AIが順に働く。NICSTの音声翻訳アプリでは、スマホの音声がインターネットを介してNICSTのデータセンターに送信され、そこで翻訳された言語の音声がスマホに戻ってくる仕組みである。
そのうちに自分の仕事がAIに取って代わられるのではないかとは誰しもが抱く懸念だ。取って代わられるのは単純作業だ。単純でなくてもたとえば旋盤のような正確な対応をする機械を相手とする仕事は危ない。おいおいAI能力が単純から複合さらに多重に進化する事には間違いがない。一方按摩のような純粋に人間対人間の関係を軸とする仕事は影響を受けないだろう。医師、療養師、介護士、看護師と言った福祉厚生関係、教育関係、警察に消防の治安関係、人対象のマネージャーもAIは入りにくい職業だろう。
機械学習からディープラーニングまでAIが陥りやすい罠に過学習がある。ありえない高次式でデータフィッティングして学習データ以外のデータの意味を取り違えることだ。黒人や野蛮人を人種から除けたかっての白人は、白人データを過学習した結果だと言って良いのではないか?AIにはフレーム問題がある。常識を持たないから、おおざっぱな命令ではなにもかも考えようとしてフリーズするし、条件無しの単純命令では、その行動に対するタブー事項を無視してやってしまう。要は常識をまだ持てないでいることだ。シンボルクラウディング問題もある。言葉の本当の意味を理解していない。馬と打ち込まれても記号であって、その概念を呼び出して「考えて」対応するのではない。言葉を覚え始めた幼児の状態である。だがやがては「身体性」を手に入れて感覚的にも人とマッチしたAIに成長するかもしれない。
人らしい人工頭脳「汎用AI」に至るには、無限大に近い常識を覚え込み言葉の持つ背景を知らねばならぬ。ここを「適当」にこなす算段をAIは持つことが出来ようか。我らを驚かせた画像認識などの特化型AIの高度能力が、社会の隅々の事象にまで行き渡るのはシンギュラリティが到来するころであろう。AIがAI自身を進化させる日:「シンギュラリティ」は来るのかという項がある。宇宙論でもビッグバンがシンギュラリティのはず。科学あるいは技術の特異点である。特異点は数十年は来ないという人が多いようだ。「汎用AI」には当面はSFの世界に留まって貰おう。本当に到来するか否か、私は懐疑的だ。本HP:「AIは神にはなれない」('18)、「サイエンス・ネクスト(第3、4部)」('18)には未来への識者の意見が紹介されている。
もう1冊、Newton別冊:「ゼロからわかる 人工知能 基本的なしくみから応用例、そして未来まで」、(株)ニュートンプレス、'18を眺めてみた。平野晋博士インタビューという記事に「AIの2大リスクは「不透明性」と「制御不能性」」という項があった。本HPの「八月の概要(2017)T」に関連指摘がある。
そこでは「NHKスペシャル「AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン」(後編)で、NHKが開発した「社会問題解決型AI(人工知能)」が「40代ひとり暮らしが日本を滅ぼす」と言う結論を出し、住宅手当が一人暮らし解消に有効であると提言する。家賃が1坪1000円下がれば、一人暮らしが38万人は減るという。フランスに成功例があるという。我が国には持ち家購入補助金制度はあっても賃貸住宅手当ではなかった。AIの重要な問題は、結論に至る理由が理解できないことが多い点で、社会問題以外でもときおり疑問として紹介される(追記:AI棋士の打つ手が人間棋士から見て不可思議なものだったという対戦記を記憶している)。・・・。政策決定に参考にする時は、たとえ2nd bestであっても理解できる理由をもつ方策から選ぶやり方を採用し、AI不可解結論にたいするAI研究を進めねばならぬ。」と述べている。

('19/9/11)