小規模博物館の行方
- 小川義和、五月女賢司ほか:「挑戦する博物館〜今、博物館がオモシロイ!!〜」、ジダイ社、'18を読む。本書の主題は明らかに小規模博物館の現状と今後にある。国立はどこも大規模館だ。東京江戸博物館も大規模の方だろう。府県立は中規模館なのだろうか。小規模館とは?
- 9/22のNHKブラタモリ「#112 宇都宮」の案内人に栃木県立博物館の学芸員が出ていた。本書にも出ているが、ブラタモリという番組には地方博物館の学芸員ははまり役のはずである。「予算圧縮のあおりを食いやすいご時世でも、博物館の陣容を崩していないかどうかが、その土地の文化レベルの尺度でもある。」と云った目で私は眺めている。府県立クラスではそれがなんとか維持できているのであろう。
- このHPの「宇都宮日帰り紀行T」('10)に、2日掛けて宇都宮を旅したとき、県立博物館に立ち寄り、学芸員の説明を聞いた記事を載せている。雪の日だったからでもあろうが、たいそう閑散としていたという印象だった。展示は北関東に特化してはいるが、私の頭にある博物館の概念にぴったりのオーソドックスなものだった。専属の学芸員、職員を揃え、施設の規模も大きくて、中規模プラスだった。
- 博物館めぐりは好きな方である。地元の千葉の博物館には、機会があれば意識して立ち寄っている。千葉県立の博物館は中央博物館と各地域の分室から成り立っている。面白いのは分室の方で、千葉という地方の中のそのまた地方の自然、民俗、歴史、生活などが展示してあって見飽きない。分館海の博物館・現代産業科学館・関宿城博物館・房総のむら・大多喜城分館・大利根分館とあって適度に分散配置されている。本書に云う小規模館に分類できるだろう。
- 印旛村歴史民俗資料館(「印旛沼の畔」('98))、九十九里いわし博物館(「いわし専科」('98))は今はどうなっているのだろう。いわし博物館はまことにユニークな展示館だった。地下から湧き出る天然ガスが引火爆発して閉鎖された。館山市立博物館(「里見氏170年」('97))では里見八犬伝の話に触れていた。海辺には館山市立博物館分館(昔の県立安房博物館)があって、数多くの漁労関係収集品が並んでいた。木更津市郷土博物館金のすずは昔は県立上総博物館(「上総堀」('97))だった。古墳や移転旧農家もある。袖ヶ浦博物館は市立で、南総名物の太巻き寿司の模造品展示が記憶に残っている。市川市考古博物館と市川市歴史博物館はガランとしていた。
- 浦安市の郷土博物館(「浦安散歩」('03))へは付属レストランのあさり飯を目当てに出掛けた。昔の漁師飯である。焼き玉エンジンの実演を覚えている。千葉市立郷土博物館は天守閣モドキの外様だ。千葉城の跡地だが、千葉氏の千葉城には天守閣など無かったはずだ。100万に近い人口の郷土博物館にしては内容がない。私立の博物館では、野田市と銚子市の醸造関係の博物館は、あとで工場案内に参加できたかからか頭に残った。それから成田市のお菓子屋「なごみの米屋」の小さい博物館が記憶にある。千葉市美術館で「房総の美しき仏たち 半島仏像」(本HP「仏像半島」('13))という題の企画展を見た。美術館と博物館は、ときおりオーバーラップした展示を行う。
- 気掛かりは科学技術に向かい合う姿勢である。県立現代産業科学館は教育を主目的に設置されているのだろうが、もう時代の進歩に取り残され掛かっている。驀進する産業、技術、科学の進歩をフォローするには、予算を握る人たちの相当な覚悟が必要だ。あの程度の規模で先端を見ようとするのならもっとテーマを絞らねばならない。そのテーマを定期的に取り替えれば人気が上がるだろう。
- 「U部 挑戦する博物館」には14項の各論がある。その中から私が注目した3項目を以下に紹介しておく。
- 「企業との連携とキャリア教育を目指した取り組み 千葉市科学フェスタの新たなねらい−都市型地域博物館の取り組み」という項目がある。千葉市科学館にはまだ出掛けたことがない。Googleの地図には「プラネタリウムを備える参加体験型科学館」という副題が付いている。科学館となるとプラネタリウムがつきものなのだろうか。私は四国にいた頃、愛媛県総合科学博物館で観た覚えがある。そのときの説明の口上はよく練られた内容だった。
- 千葉市科学館は指定管理者制度で運営している。5年を一区切りに管理受託者が変わるのだという。筆者は本の出版時には転出している。この制度は、公の施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業・財団法人・NPO法人・市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができる(行政処分であり委託ではない)制度であるという。非正規雇用だという。これでは「科学館文化」の継承発展は望むべくもない。奥の深いK/Hは勿論さらにその奥のSpiritとなるとまったく期待できないだろう。館長の責任は重大だ。多分、千葉市美術館も同じ制度だと思う。でも館長がその道のオーソリティで、小規模美術館ながら特色ある企画を多々発表し、浮世絵に絞った蒐集も知られるようになった。科学館もそうあって欲しい。
- 千葉市科学館は創立10年で、幾多の困難を抱えながら科学フェスタ(メイン・イベントは秋の土日の2日間)の中核を担う一員になり、7年間継続発展させ定着させた。フェスタは広く市民全体を対象にしているものの、中心は小中高校生で、彼らに科学への関心興味を引くための教育プログラムと云っていい。大人向けには「(千葉中心の)オンリーワン企業とその身近な科学」という出展ブーツがあるという。企業参加には市役所の経済産業関連部署からの呼びかけが有効だったようだ。教育委員会と市長部局との連携に苦労したという。小規模館の特徴である「身軽さ」を活用するにはちょっと重すぎるテーマのように見受けられる。
- 「高槻の自然がわかるみんなの博物館を目指して あくあぴあ芥川−複数NPOによる共同運営の取り組み」という項がある。書いたのはそこの主任学芸員で、彼女は本のはじめの方の鼎談にも顔を出しているから、科学研究費補助金対象となった「知の循環型社会における対話型博物館生涯学習システムの構築に関する基礎的研究」(研究補助金の申請テーマはなぜかべらぼうに長い名が付く。最近話題になった中央官庁の資料名不明朗化による検索防止とは正反対の方向で、民からは詳細に情報を集め、自らは追求を避けたい官吏の片鱗を見せる。)の有力メンバーだったのだろう。私のかっての勤務先の中央研究所が高槻にあった。馴染みのある土地だ。古墳や寺社が点在し、高山右近で有名な高槻城址もある。市の中央を南北に芥川が流れている。
- 市の直営で始まったこの博物館は、今は指定管理制度の下に2つのNPOによる運営になっている。1つは自然史センターもう1つは芥川倶楽部だ。後者は地元の有志団体だが、前者は大阪市立自然史博物館の友の会を母体として設立された、60年という長い歴史と活動実績を誇るNPO法人である。本書には、その一部である動物標本作製を任務とする「ホネホネ団」の活動ぶりを「なにわホネホネ団と東北遠征団−博物館で楽しみ、博物館を支え、博物館をとび出す市民サークル」という題で紹介している。東北遠征団とは、東北大地震で大損害を被ったその地方の博物館の支援活動団体である。
- 雇用や経理は自然史センターが行うから、スタッフは全員自然史センターの被雇用者だが、地域との連携業務は芥川倶楽部が受け持つという役割分担という。スタッフ数は結構多いが、殆どは常勤ではないから、1日の出勤者はせいぜい3−4名だという。今注目の活動は鮎の遡上数カウントのようだ。多摩川の生態系復活はよく放映されるが、淀川の1支流にも鮎が戻っているとは驚きだ。
- NHK Eテレに「ふるカフェ系 ハルさんの休日」という30分番組がある。今月で終わるようだ。家屋保存をかねてカフェに仕立て直した古民家を訪問する番組だ。最近では「宮城・富谷〜大正ガールの気概息づく裁縫学校」「京都・吉田山 数寄者が作った風雅な山荘」「山梨・富士吉田〜“神ってる(註:元御師の家)”カフェ」がよかった。
- 私は保存事業対象になり公開されている古民家は幾つも見て歩いた。京都の茅葺きの里(「丹波路」('10))、白川郷や五箇山の合掌造りの里(「五箇山定期観光バス」('10))、大内宿、海野宿(「海野宿」('02))は住人が生業を営む生きた古民家群だった。都会のそれは実物は、例えば長屋のように、とうに失われていて博物館内に復元した場合も多かった。だが国内には公的保存事業の網に掛からず、いたずらに朽ち果て、或いはコンクリートの建物に建て替えられようとしている、価値ある建物がまだあちこちに残っている。地元の、その価値を惜しむ人たちが相携えて、カフェという形で地元振興をかねて店を開いている。
- 当然だが、民家には祖先代々の生業に応じた構造になっている。部屋の配置、梁の材料、外壁や軒桁の構造装飾或いは内装などについて「ハルさん」が細かに説明してくれる。仕立て直しには、文化の伝承に細心の注意が払われている。聞いていて隠れた日本建築文化を再発見した気持ちになる。小規模博物館よりもなお小規模の「博物館的」活動が、民間に大きな裾野となって広がっていることを心強く思った。本書は「館」にこだわりがあるのか、こんな活動には触れてない。
('18/09/27)