ものを分ける理論
- 徳田雄洋:「離散数学「ものを分ける理論」〜問題解決のアルゴリズムをつくる〜」、講談社BLUE BACKS、'18を読む。
- 公平な分配が社会の安定に必要なことは誰でも知っている。戦中の小学生の頃の給食の時間に、配給量が不公平だと云って泣いた子がいたことを思い出す。ガキ大将が配給権を握ったための事件だった。担任の先生が、自分のひとかけらをその子の皿に載せてやって、事が終わったと記憶している。その後この種のクレーム事件は起こらなかったから、あの先生の処置はよかったのだと思っている。食糧難の時代に、先生が不公平を認めて自分の食い扶持を減らして与えたことに、ガキ大将も私を含むその他大勢もクレームの子もきつく反省した。
- 松本清張原作・野村芳太郎監督:「張込み」で主演:高峰秀子が後添えの継母を演じる。2人の子供が、もらったおやつについて、私の方が小さいと母に訴えるシーンがあった。昭和33年の映画だからもう日本は饑餓状態からは回復していたが、生命維持本能は厳しい評価感覚となって表に現れるものだと、いまだに記憶している。
- 第1章は、羊羹の分配方法を例とする同点一位法だ。固形のお菓子は切りようによって切片に損得が出る。その評価はヒトによりまちまちで、切片の重量を均一にすれば皆公平だと納得するわけではない。形が歪んだものもある。粒あんが偏った分布をしているものもある。味が偏っていよう。水羊羹のように、意図的に別のお菓子を外から解るように練り込んだものもある。
- 私は7人兄弟、公平を旨とする母はジャンケンをさせて選ぶ順番を決めさせる。ジャンケンに負けて最後に切れ端を取らねばならなくなった子@に、母は、自分の目で等しい価値になるように、33等分するように命じる。切り終えると母は尻から2番目になった子に、大きい順から17個を選び、16個以内のものを少し削り取ってもよいから、やはり自分の目で等しい価値になるように揃えさせる。
- こんな操作を6回やってから、ジャンケンに勝ち残った順に好きな羊羹切片を1個づつ取らせてゆく。削る操作をしたものは自分が削った切れ端が残っておれば、それを選ばねばならない。理屈の上ではこれで公平だが、残念なことに切り屑と33-7=26個が余ってしまう。これでは分配したことにならない。
- 第2章のトリミング調整法は、余りの分配法である。子供が3人の場合しか書いてないから、一般化はなかなか書きづらいのであろう。ビリの@の子から見て、削った切れ端を引き取った子Aは損している。母はもう一人のBに余りを3等分させ、A@Bの順に余りを引き取らせる。誰も削らなければ余りが出ないからこの問題は出ない。
- 米朝首脳会談が行われる。複雑なバーター取引になることは間違いない。第3章はくだもの問題だ。不均質羊羹の切片が並んでいても同じだが、例題は種類の違う果物があって、それに対する評価が姉と妹で異なる場合に、双方がともに最大満足(自分の方が得をした)と思える分配法を述べている。大切なのは評価の手の内を公開することだ。米朝間ではあり得ぬことで、双方があらゆるスパイ活動で相手を読んで、それが一致すればめでたく共同声明に至る。
- 第4章はさらに簡単に分配対象を2つにして数式化し、最大に満足する線形計画問題を解説する。私は知らなかったが、スマホには線形計画アプリが入っているそうだ。もし選ぶヒトの側の判断基準を読めれば、切るヒトの側は選ぶヒトの側の獲得点数をコントロールすることが出来る。政治では切るヒトが主導側だ。米朝会談では今のところ北側のように見える。金もトランプもがんばれ。
- 第6章の家賃問題は切実である。私はクルーズ好きで今年はもう船に50泊はしている。船室の価格はどうして決めるのだろう。広さだけではなかろう、和室か洋室か、ダブルベッドかツインかシングルか、中央か端か、左舷か右舷か、レストランに近いかホールに近いか、エレベータにランドリーの位置。だが何となく船会社はうまく設定している。
- 例題は3人でのシェアハウスだ。家賃総額は同じだが、各人の支払い分担額は占有部屋の条件で変わってくる。部屋代を細かく分けて、各人の第一志望がかち合わないプランをケーススタディすればよい。だが総当たりは無駄が多い。一番明確な出発点は誰か1人が家賃全額を負担することだ。次は2人目がちょとだけ負担し3人目はタダ。これは第5章の三角形の建物定理の出発点で、あとも同じような進行法で正解に進める。三角碁盤(三角座標)の目にはなだらかな価格傾斜をつけておく。
- 8角形建物定理、64角形建物定理、1280角形建物定理、円形建物定理もありタッカーの補題と云うそうだ。3人以上の場合はこれらの多角や円形が対応するのか書いてない。私は、碁将棋チェス麻雀を見よと思っている。立派なアルゴリズムよりも、コンピュータの総当たりだろう。今や早さでは叶うまい。ましてやAIのお出ましとなれば歯が立つまいと。
- 第7章は赤道の気温定理だが、何の役に立つか思いあたるものがなかった。第8章は結婚式のケーキカット問題。ケーキでなくて羊羹でも何でもよい。価値観の違う2人がともにfifty fiftyと思えるように切るナイフ2本の使い方である。ここら辺まで読んで、どうもこの著者の日本語が、失礼ながら、寸足らずで不正確だと気が付いた。6/10の毎日の脳トレ川柳に「今よりもハードル下げたら地面だし」が選ばれていた。81才の老女の作品。足を上げて歩く訓練でもやっている光景だろうか。作者の年齢を知ってやっと作意に思い当たった。この川柳に似ている。単語の指し示す意味が解らないときがあるのだ。
- 迷惑事象の公平分担は社会問題として深刻である。親兄弟の介護支援などその典型だろう。家族制度が健在であった頃は、義務と対価がはっきりしていて、例えば長男が家長として家族に対する責任を担い、親はおろか弟妹の面倒までみるが、その代わり強い家族支配権があたえられ、全財産を引き継いだ。今はそうは行かない。第9章は嫌いな料理を出席者3人で分けて食う話、第10章は4人5人と出席者が増えたときの分割法である。第10章の解説には、ワインをグラスだけで何等分かする方法を書いている。どこかのクイズ番組で見たような話だ。
- 同点一位法だけだと、3人以上に分けるときは、余りに対しその方法を無限に繰り返し適用せねば、全体を等分することができない。3人だとトリミング調整法で無限の操作を回避できた。4人以上に対して無限を回避する方法が第11章の絶対的優位法で、同定一位法を基礎に置くことには変わりがない。例題は4人の場合で、それ以上の人数の時の絶対的優位法に対しては、付録にn人版の絶対的優位法が載っている。
- 4人の場合でも簡単でない。不公平のクレームを最大12回処理せねばならぬ。前の回のクレーム処理で余った分を12等分しては、クレーム者から等分したヒトへの絶対的優位関係をつくる。クレーム者は等分者へは今後クレームできなくなる。その論理はめんどくさいが説明文がある。7という数字が出てくる。有限の手数で、数学的に完璧に等分できると云っても、実用性は殆ど無い面倒さだ。
- 最終章は存在定理という題になっている。羊羹を切ってから切片の損得を問い修正するのではなく、包丁で切り分けるのは1回だけとする、ただし包丁前に切る位置を定めようというプランである。予め何分かして皆の評価範囲が重なる位置を見定める。その区画をさらに、皆がOKするまで何回でも細かく分けるプランを練るというやり方だ。2人に分けるときは線分分割定理、3人なら三角形分割定理、4人なら四面体分割定理が対応する。
- 最後にものの公平分割に関する数学的理論の歴史が載せてある。1940年代から研究が始まり、一般のn人用のうらやましさなし分割法は今世紀の'09年の発見だとある。以外と新しい数学なのである。
('18/06/11)