古生代3億年史

土屋健:「古生物たちのふしぎな世界〜繁栄と絶滅の古生代3億年史〜」、田中源吾協力、講談社ブルーバックス、'17を読む。中生代に恐竜が劇的に絶滅した、それが6600万年前に巨大隕石が地球(ユカタン半島沖)に落ちたためだったと云う話は、私も昔から知っていた。NHKが「コズミック フロント☆NEXT「恐竜絶滅 隕(いん)石説の真相」('16)」や「コズミック フロント☆NEXT「初公開!恐竜絶滅 詳細なシナリオ」('17)」で最近の研究の進捗状況を詳しく報じた。初めて聞いたときは、何かロマンチックなおとぎ話のように響いたが、今ではほぼ確実な歴史事件と認識している。
40億年ほどの地球生命史の中の大量絶滅事件がそれだけではなかったと知ったのは、秋田大学鉱業博物館を見学したときである(「大人の休日倶楽部パス(東北スペシャル)V」('12))。ただその原因についてはあまり明確には説明されていなかったと思う。それが本書を読む動機の一つになっている。カンブリア紀以降の大量絶滅事件は5回に及んだと本書は云う。
プロローグに最初の先カンブリア紀末期の種絶滅が記されている。先カンブリア紀は食物連鎖など激しくない平和な「エデンの園」であった。動物とも植物とも判らぬ生命体が穏やかに暮らしていたが、5.41億年前に台頭した新たな動物群に、瞬く間かしばらく共存したかは知らぬが、殲滅される。古生代のカンブリア紀の始まりである。
古生代を通じて化石数として代表的な動物は三葉虫だ。生きた化石カブトガニは昔は三葉虫の系統と云われたが今は否定されているらしい。でも古生代からの生き残りであることは間違いないようだ。四国に勤務先があった頃だからもう何10年も昔だが、今治市桜井に志満という割烹レストランがあり、そこの生け簀だったかにカブトガニを何匹も見た記憶がある。彼らには1対の複眼がある。三葉虫も同じだ。
眼がなかった先カンブリア紀以来の生物に対して、眼のある動物の食物連鎖上の優位性は圧倒的だ。動物種の間にも弱肉強食のルールはたちまちにして広がっていったろう。「NHKスペシャル 生命大躍進 第1集「そして“目”が生まれた」('15)」は、クラゲとウズベンモウソウの比較で、感光センサーたんぱく質を作るロドプシン遺伝子の起源が葉緑素の光合成システムであると解説した。ウミウシは海藻の葉緑体を取り込んで体内で光合成が出来る。葉緑体を機能させる遺伝子を自分のDNAに組み込んでいる。遺伝子の「水平伝播」はほかにも例がある(ref. Wikipedia)。ついでだが、3.6億年前には、我らの先祖の脊椎動物にカメラ眼が現れる。ヒトはロドプシン遺伝子を4対に増やしているが、脊椎動物でのこの進化が、複眼派の無脊椎動物を圧倒できる理由になった。
現生複眼の最高傑作はトンボのもので、画素数は2万を超える。ところが史上最初の覇者節足動物アノマロカリス類のあるものは画素数1.6万を超えるという。古生代節足動物の化石には視神経系が残っていて、その構造が現生節足動物のエビ・カニの仲間や昆虫類のものと似ていることが発見された。こうなるとカンブリア紀の動物がかなり完成された生命体で、もっと原始的な内部体制の動物が先カンブリア紀にいたと推定してもよいことになる。
約4.85億年ほど昔にカンブリア紀はオルドビス紀に入る。陸上生物はまだ出現していない。その中期頃に新たな節足動物「ウミサソリ類」が現れる。外観は今日の陸上のサソリそっくりのグロテスクな姿で、中には全長2mという巨大なものもいて、ウミサソリ王国を築いた。毒針は確認されていない。三葉虫もカンブリア紀に引き続き繁栄していた。この節足動物の世界に軟体動物の頭足類(タコ、イカ、アンモナイト、オウムガイ・・)が新たな支配階級としてのし上がってくる。
カメノケラスは6-11mもの殻を被ったイカの姿だ。「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」('13年放送)は、最大記録18mというダイオウイカを小笠原諸島沖合いで撮影した記録だった。あのような姿で海洋で名ハンターぶりを発揮していたのであろう。脊椎動物の始祖の魚類はすでにカンブリア紀から始まっていたが、数cmていどの、食に重要な顎をまだ持たない弱々しい存在だった。オルドビス紀に入っても弱者だったが、身体が大型(20cm)化し鱗がついた種類や、尾ひれを進化させた種類が現れる。
オルドビス紀末期に第1回目の大量絶滅事件が起こる。寒冷化とそれに伴う浅海部の後退が原因という。絶滅率は科のレベルで22%と云う。三葉虫は属レベルで1/3ほどに下がり、その後も古生代期を通して生き延びはするが、過去の繁栄を取り戻せなかった。次のシルル紀は4.44億年前からの第3番目の紀だが、はじめの100万年ほどで生命社会は以前の活気を取り戻す。
宮崎駿監督のアニメーション映画:「風の谷のナウシカ」には、古生代の節足動物からヒントを得たと思われる奇っ怪な動物がいろいろ出てくる。その中でも最後にナウシカの村に攻め寄せるオーム(玉蟲)の群れの迫力は抜群だ。アニメ画面では巨大な創作動物だが、そっくりのただし5mm程度の小さいミニ玉蟲が化石として発掘されている。火山灰から取り出された化石はスライス切片化が可能で、その観察により、内部構造まで調べることが出来た。顎を持った魚が現れる。
第4番目のデボン紀は4.19億年前から6千万年続いた。脊椎動物・魚たちの時代が始まる。中期には顎を持った魚が台頭し始める。骨質で関節のある胸びれがあり、現代の魚のある種のように、幼生時は、特定の場所で暮らしたと思われる化石群も知られている。全長は8-10mという、歯のような作りの骨の板が顎の全面にある、海洋世界最強と見られる甲冑魚も出現した。彼らは板皮類と呼ばれるが、その繁栄はサメの仲間の軟骨魚類に取って代わられる。
第2の大量絶滅事件はデボン紀後期(末ではない)に起こった。絶滅率は属レベルで50%と云う。温暖域での絶滅が多かった。やはり寒冷化が原因らしいが、トリガーとなった事件ははっきりせず、大規模氷河の痕跡も見つからないと云う。隕石衝突のクレーター跡も発見されていない。
植物の陸上進出はオルドビス紀には始まっていた。シルル紀には本格化した。といっても、根も葉も花もない、水辺から離れられないシンプルな数cmほどの小植物だった。デボン紀前期に至ると維管束を有する植物が現れる。後期になると樹高12-20mの前裸子植物が繁茂する。この陸上にはまず節足動物が上陸を果たす。
脊椎動物の上陸は、肉鰭類(現生ではシーラカンスが有名)から両生類が生まれるところから出発する。上陸は第2の大量絶滅事件の直前直後あたりという。四肢の発達が辿ってある。現生魚類で四肢の骨格が見られるのは唯一肉鰭類である。泥の上を這い回る有明海のムツゴロウは一見上陸寸前に見えるが、ハゼ科の、肉鰭類とは似ても似つかぬお魚である。もっとも原始的な上陸両生類はサンショウウオに似ていた。60cmと大型だが、とても陸上を闊歩できるような手足ではなかった。だが後続の両生類には、頑強な四肢を持ちワニ顔のものも現れる。
石炭紀は3.59-2.99億年前だ。繁茂を始めたシダ植物は初頭はせいぜい2mほどの樹高しかなかったが、やがて湿地林は高さ35-40m、太さ1-2mとなるほどの巨大シダ植物で覆われる。3種の代表的石炭化シダ植物が上がっている。うち2種がヒカゲノカズラ類、もうひとつがトクサ類という。石炭はその化石だ。ただし日本の石炭は石炭紀よりずっと後世の植物化石である。小笠原諸島や沖縄には、石炭紀には及ばないにせよ、それでも数mほどの高さはある木本のシダ植物が生育(「台湾〜沖縄クルーズV」('15))しており、シダ植物の大森林地帯を偲ぶことは出来る。
大森林の大空をまず制したのは昆虫であった。翅開長70cmのお化けトンボ・メガネウラは著名だ。まだ完全変態できる昆虫は生まれていない。ゴキブリ類は現代と変わらぬ姿を見せている。地上には全長2mのお化けムカデが存在感を出していた。
古生代最後のベルム紀は2.99-2.52億年前である。最強の両生類が登場した。外見はインドガビアル(インド固有種のワニ)そっくりで推定体長10mという。両生類が覇を唱える中で、石炭紀からの爬虫類は内陸部や空中水中に生存圏を求めた。昆虫の楽園だった空中に飛び出した爬虫類は、現生のムササビのようなグライダー型の飛行をしたようだ。
現在の学会では哺乳類の祖先は単弓類となっている。単弓類は両生類とさえ系統的に繋がらないという。私らは昔、進化系統樹を両生類から爬虫類、爬虫類から鳥類と哺乳類と教えられた。たいそうな変化である。単弓類は石炭紀後期に出現し、ベルム紀に入って頭角を現す。単弓類の主軸は盤竜類で、代表的なものは肉食(植物食の種もいた)で背に長い骨で補強した帆を付けている。ベルム紀初期には陸上(水辺を除く)生態系の覇者だった。ベルム紀後期になると哺乳類直接の先祖となる獣弓類が力を付け出す。犬歯に特徴がある。犬歯を武器の剣歯としたいよいよ犬や猫の外貌を彷彿とさせる種類が現れる。最強と目される種は3.5mを越えた。我らが先祖は天下を取りかけた。
史上最大にして空前絶後の大量絶滅事件がベルム紀末期に勃発する。2.6億年前と2.52億年前の2回に亘り発生し、海棲動物種の81%以上、陸上でも地域によっては69%の脊椎動物種が滅んだ。生態系はリセットされ、祖先の覇権は消えた。この事件の原因も定かでない。
本書は火山大規模噴火説を解説している。シベリアに膨大な溶岩層がある。日本国土の19倍を覆う。深さ3千mの場所すらあるという。第1段階では大噴火が太陽光を遮り、第2段階では放出炭酸ガスが温暖化したことがトリガーとなったという。中世代第最初の三畳紀は、生き残りの爬虫類、単弓類と新に生まれた恐竜類が三つ巴で覇権争いを行う。恐竜類は次のジュラ紀に全盛期を迎える。

('17/07/27)