植物機能系の生理学U

「植物機能系の生理学T」では自律神経による内臓機能の調節、内分泌系の機能、生殖器系の機能を取り上げた。ここでは消化器系の機能、栄養と代謝、循環系の機能を取り上げる。原著(田中冨久子:「はじめての生理学(下)」、16)の書き順に従っている。
このHPの「腸のふしぎ」('13)や「内臓の進化」('14)では、消化器系を詳しく述べている。本書には出てこないが、腸は第二の脳という表現は今ではかなりポピュラーなものらしい。口腔から食道の上1/3および外肛門括約筋は横紋筋で中間は平滑筋だ。横紋筋は運動神経により随意的に制御できるが、平滑筋は自律神経支配で、意のままにはならない。消化器からの感覚神経の密度は皮膚などよりも低く、感覚神経終末も非特異的な自由神経終末であるため、多様な刺激を区別出来ない。無髄神経だから伝達速度が遅いことも理由になる。このため腹部内臓知覚は、体性知覚に比べて、空間的/時間的に場所を特定できにくいとある。腹が痛いと患者が訴えても、なかなか患部が特定できないはずである。排便反射は自律神経の情報が体性神経に働きかけて肛門を開かせる機構で、その反対の口腔で食物を食って胃袋に送る場合と違い、簡単ではない。説明に1項設けてある。
肝臓は話題の多い生体化学工場である。本HPに「生体肝移植−京大チームの挑戦」('03)とか「人工臓器開発物語」('12)がある。今はどうなっているのだろう。生理学的な話としては「腎臓のはなし」('13)に解毒がらみで紹介している。火山から噴き出した溶岩はときおり六角柱の柱状節理の岩を作る。肝臓の単位・肝小葉がそれに似た姿をしているとは知らなかった。消化栄養素は、門脈の血液から肝小葉を構成する肝細胞に渡される。肝臓駆動用の血液は別途心臓からの肝動脈により調達される。両方の血液成分は有効成分供給後同じ静脈を通って心臓に戻る。肝細胞は胆汁の産生をも行う。肝臓は栄養のバッファータンクでもある。
タンパク質の分解は主に小腸が受け持つ。膵臓からの分解酵素は分泌腺細胞のタンパク質を分解してはいけないので、不活性酵素として分泌し、小腸内で活性化する。腸内では低量体ペプチド迄の分解が殆どで、アミノ酸までの更なる分解の大半は、小腸上皮粘膜細胞の刷子縁と細胞内で行われる。細胞内への輸送は、グルコースと同じく、Naイオンの濃度勾配による共輸送だとある。グルコースに対してはNaイオンが濃いと活発だとあるから、関東東北型の塩味の利いた味付けの食事の方が、栄養の腸管吸収にはよいと云うことだろうか。
消化器系で吸収した栄養素は生命維持発育過程で消費される。蓄積されるものもある。脳の栄養素はグルコースだから血糖維持は大切だ。ゼロ状態は死を招きかねない危険域である。空腹時にはグリカゴンがグリコーゲン分解、糖新生および脂質分解を受け持つ。糖新生は、肝臓が行うピルビン酸、乳酸、グリセロール、アミノ酸からのグルコース生成だ。1日180gの新生が出来る。ただ脳の必要量は600g(「カロリー換算」('13)では400gとしている。摂取カロリーの1/3は脳に持って行かれる。)で、これだけでは間に合わない。
脂質分解は、カロリー源に脂肪組織を使用することでグリコーゲンを節約しようとするもので、脂肪から脂肪酸を遊離させ、脂肪酸をベータ酸化分解してエネギーを発生させ、生じたアセチルCoAをクエン酸回路に放り込み、サイクルの中のもう一方のエネルギー源のグリコースの消費を節約する。肝臓におけるアセチルCoAの縮合によるケトン体は、脳の非常食になり得る。僧が絶食で修業しているときは、脳はケトン体で維持されるのだろうが、そのときの脳活動が異常活動となって、僧を覚りの境地に導くのである? グリカゴンの反対の働きをするホルモンがインスリンで、食っているときから腹が減ったと思う頃まで、せっせと糖をグリコーゲンに変え、糖新生や脂質分解を抑制する。両ホルモンのダイナミックなバランスで、我らは正常に生きられる。
グルコースのクエン酸回路による完全代謝の場合のATP生成熱効率は40%だ。ATPとなって生体エンジンの燃料になる。その半分以上が仕事に使われ残りは身体を温めるために使われる。仕事の総合熱効率は1/5から1/3ほどだ。蒸気機関車は10%程度だが、最新の自動車エンジンは最高40%ほどの熱効率を出すという。エネルギー源にはもうひとつクレアチン酸(CP)がある。ATP過剰の時にクレアチンと反応して産生し、ATP不足時に元に戻る。一種のATP貯蔵庫である。
循環系でここ2、3年で話題になった問題は、「エコノミークラス症候群」と「t-PA治療」だろう。前者は長距離飛行の航空機でエコノミークラス席に座り続けると、ヒトによっては足に血栓を生じる話で、静脈血栓症である。静脈には静脈弁が逆流を防ぐために存在するが、同じ姿勢で座り続けると血の滞留時間が長くなり凝固を始める。足は心臓から一番遠いこと、足が必要とする血量は運動時と安静時では格段の差(約20倍)があることなどからも判る話だ。ちなみに内臓では、運動量に比例する心臓を除いて、血量は安静時と運動時でそう大きくは変化しない。座り続けはよくない。飛行機ででも観劇でもせめて1時間に1度は骨格筋を運動させるべきなのだ。
「t-PA治療」は、脳梗塞を起こした血栓を溶かし出すために、t-PA(組織プラスミノゲンアクチベータ)を静脈注射する治療法である。t-PAはプラスミノゲンをプラスミンに変え、プラスミンがフィブリンを溶かす。フィブリンは血小板血栓に網目状に覆い被さって、止血している血小判を保護する役目を担っている。元の血管の損傷部分が修復されると、血管内皮細胞がt-PAを産生し、血栓を溶かし出す。だから損傷部分は治癒するが、その血栓が血管から剥がれて脳に飛来したときに脳梗塞が起こる。脳に飛来した血栓は、血流を止め、脳細胞への酸素や栄養の補給を絶つから迅速な処置が必須である。webを見ると、脳梗塞が起きてから4.5時間までであったら助かる確率が高いという。全身に作用するから思わぬ出血を引き起こす可能性がある。
月一で定期診断に行く。血圧を測るとき医師は聴診器で血管音を聞いている。測定のタイミングを決めているらしい。これは心音を聞いているとばかり思っていたが違うらしい。空気の輪で一旦腕の動脈流を止め、空気圧を下げると、心臓の収縮の高圧とバランスする点で血流が起こり血管音として出てくる。心臓が膨張しきったら血管音は消えるだろう。血圧の上(収縮期)下(弛緩期)値はこうして計られている。心音は心臓の1サイクルの中で3回発生する。最初で一番大きい音は収縮期の房室弁閉鎖音、その次が駆出期終了での動脈半月弁閉鎖音、最後が心室充満期の心室壁の振動音だという。
心臓は自律性の高い内臓だ。神経組織ではない特殊心筋が興奮伝達系を形作る。心房から心室へと順序正しくタイムラグを挟んで興奮を伝えねばならぬし、周期正しい拍動が求められる。また交感神経や副交感神経の指令にも従わねばならない。一方制御系には必ず目標値に対する誤差を生じる。その修正機構(スターリングの心臓の法則)も心筋に備わっている。筋のプレストレスに対する反応を利用するらしいが、詳細はよく分からなかった。
心電図は年1回測定して貰っている。心筋の動きが目に見える。まずP波。地震のP波のPはPrimaryの省略だ。心電図でも同様だろう。洞房結節が吹く、拍動開始のホイッスルである。この脱分極が心房内を放射状に広がり、それが房室結節に集中する。心室筋には房室結節から興奮が伝達される(QRS波、心室の興奮からの回復がT波)。両結節には歩調取り電位という特技がある。発火して一旦落ちた膜電位はゆっくりと脱分極して、閾値に達すると再び次の活動電位(興奮)を発生する。歩調取り電位はペースメーカー電位とも云う。心臓ペースメーカーは上記結節が正常に次の活動電位を作れないとき、人工的に電気パルスを送る治療装置である。センシングには心室や心房のピーク電位を利用し、電気パルスは心筋に直接電極を宛てて伝達する。
脳と心臓に対する血管系の特別扱いは徹底している。ほかの部署が貧血で危なくなっても、そこだけには必要量を送り届ける。血管系は戦中の国鉄のようだとときおり思う。新たな鉄路がおいそれとひけるわけではないから、輸送対象をランクわけする。軍隊、軍需産業などは最優先で、民間人の私用目的は最下位だった。戦災からの復旧は迅速だった。原爆被爆後すぐに開通した夜汽車の乗客は、無数のまだ放置されている人骨から出てくる燐光を見たと云うほどだ。あらまかな輸送計画が終わったら、地方局が詳細を決める。血管系もそうなっている。リンパ管系については特別扱いの記載はない。生命にとってリンパ管系は差し迫った喫緊の問題ではないのだろう。

('16/12/12)