来年の恋人


吉永小百合は「おはん」の頃が、一番女優として脂が乗っていた時代ではないか。写真集の中の、何か遠くを見るような目つきで、着物姿のおはんが屋根に腰掛けた姿は色っぽくも美しい。しかし長い間私の恋人であったその彼女も年を取り、もうスクリーンにもテレビにも現れなくなり、過去の懐かしい人に成り始めた。
年末、各書店に沢山来年のカレンダーがぶら下がっている。一つ目を引くのがあった。沢口靖子のカレンダーである。他に着物姿のカレンダーがなかったせいでもある。今までは業者から年末に贈られるカレンダーで間に合わせていたから、お金を出して買うのは初めてであった。1400円あまりの出費であった。
彼女が目についた一つの理由は、今テレビで「新・御宿かわせみ」に出演しているからである。なかなかの好演なのである。めずらしくも原作よりも上品に演出されている。例えば原作には仲の良さをしばしば恋人の膝をつねる動作で書き表しているが、テレビにはそんなシーンは今のところ出てこない。それでいて日蔭の姉さん女房らしい抑えた色気がほんのり匂うように演技している。
カレンダーの彼女は現代のきもの美人である。「御宿かわせみ」の彼女とはずいぶん印象が違う。化けれるのだなあと感心する。
表情、化粧はさて置いて、形から相違点を探す。一番違うのは髪型だろう。カレンダーでは和装用の洋髪だし、かわせみでは町娘の日本髪である。この日本髪も純江戸風ではなく現代風である。帯の結び方も現代に合わせている。江戸東京博物館の三井越後屋の模型にはたくさんの女性人形が店を出入りしているが、テレビで見る女主人の姿とはちょっと感じが違う。まあかわせみは肩の凝らない捕物帖だから、現代人に違和感のない和風を心掛けているのであろう。ただしテレビのきものの柄は時代に合わせてある。
知り合いなら、どんなスナップ写真からでも正確に人物を思い浮かべられる。しかし見知らぬ人を一枚の写真から想像するのはなかなか難しい。やっぱりその人らしさを演出なり修正なりで出さぬと、お見合い写真なんかは成り立たないのではないか。自然に写っているからと云って素人写真を渡される場合もあるが、身内の感覚が必ずしも相手の感覚でないことに注意すべきである。

('97/12/19)