初めてのダイアモンド・プリンセス
- 7月早々の「気軽にショートクルーズ 長崎と韓国(釜山)」に乗船した。横浜発着の5泊6日だ。今までは日本船ばかりだったから何もかもが新鮮であった。このHPに「ダイヤモンド・プリンセス見学会」('13)と「温泉クルーズ顛末記」('14)がある。見学会に出てクルーズの予約をしたまではよかったが、台風で結局乗船を諦めた経緯を載せている。今回は梅雨時というのに晴天日和が続き、大洋に出ても波静か、高知沖で乗務員の急病がありヘリによる搬送というハプニングはあったが、全て予定通りの運行だった。復路の紀州付近ではイルカの大群の出迎えを受けた。
- 釜山にはスケジュール表通り2時丁度に到着した。しかし通関が捗らず上陸できたのが3時半、7時半出航だから6時半には戻れと云う。OT客は駆け足観光だったと聞く。我らはシャトルバスで街の中心に出掛けた。降ろされた位置は買い物客が溢れるショッピング通りに近い位置だった。かの有名なチャガルチ市場は休日だった。国際市場まで歩こうとしたが、もう一つ地理がはっきりしないのと、たちこめる我らの街とは異なる臭いに嫌気が差して船に引き上げた。港は前回訪問(「釜山印象」('04))時に比べると驚くほどスマートに整備されていた。家内は埠頭の出店で土産物を買っていた。そこは日本語が通用し円支払いが可能で安心できた。長崎紀行は、帰途立ち寄ったメアリー・カサット展の感想とともに別記する。
- 乗客数は2600とも2800とも聞いた。幼児が80名と多いのも特徴的だった。外国人が意外に多い。数で2割、私の倍3倍の人がけっこういるから容積率で3割ぐらいか。それは白人黒人で、我らと区別が付かないアジア系外人がさらにかなりいる。それと分かるのはたいていレストランやビュッフェである。台湾人、香港人、韓国人。漢字文化圏の人々とは言葉のほかに文字という意思伝達手段があるから、なんとか込み入った話にまで入り込める。乗務員やエンタテイナーは大半が外人だから、船全体の非日本人は半分を超えるだろう。でも日本人は多い。まあ外国モドキ的雰囲気と思ったらいい。
- 乗務員の幹部級は印欧語系で占めている。接触の多いホテル部門サービス部門にはフィリッピン人を主とする東南アジア系が多かった。甲板員も東南アジア系のようだった。タイ、インドネシア、マレーシアからもいた。飛鳥Uの経験があるフィリッピン人クリューがいた。飛鳥Uからの引き抜きがかなりあったことは知っている。彼は笑顔を絶やさず日本語も流暢で仕事も柔軟だった。でも一般には彼らは仕事の守備範囲が厳格で範囲外には手を出さない。初日以外は笑顔も薄れて行く。も一つよく分からぬ外国語世界を日本人スタッフが機敏に纏めている。人以外で外国を感じさせたのはスマホの示す現地時間である。洋上に出ると9時間遅れになる。つまり船内通信ネットは世界協定時(UTC)で時間を表示する。もちろん船内TVは領海の標準時を示す。
- 乗船翌日はホーマル・デーで中央のホール・アトリウムで船長主催のウェルカム・パーティが行われた。シャンペングラスの円錐状タワーにシャンペンを注ぐ儀式があった。TV紹介などで有名な演出である。あれが有料だとは知らなかった。何でも有料の船である。税やチップもセルフランドリーも船賃外の費用だ。私は同じ生活姿勢だったら、実質のコストは、オールインクルードの飛鳥Uの7割以上だと思う。シャンパンを注ぐのは慣れた幹部乗組員で、お金を払った客は彼と並んで控えているプロのカメラマンにポーズを取るだけの役だった。
- エンターテイメントは間断なく行われる。時間が重複しているものも多い。人出も多くて賑やかなのもいいが、アトリウムなどときには溢れて立ち見の隙もなくなる。社交ダンスのもとチャンピオンのショーがそうだった。日本語教室は意外と閑散としていた。私は飛鳥Uでタガログ語の教室に出たことがある。割と出席者が多かった。フィリッピン人クリューとの片言会話に今も役立っている。日本語教室に人気がないとは、日本人との交際に絶好の機会を与えてくれるクルーズなのに、惜しいことだ。どの会合でも日本人は我が物顔で顔を出しているが、出席の選択が白人黒人系では割と偏っている。一番感じたときは絵画のオークションであった。
- まず旅行会社の船内ツアーで概略を掴む。パブリックスペースと自室の位置関係が船旅ではたいそう重要だ。何しろお船はどこも似たような構造で、上下前後左右の感覚がすぐ混乱するから。
- ダンスの教室は呆れるほど種類が多かった。まずは盆踊り。河内音頭と炭坑節。わが町の盆踊りは月末なので、タイミングとしては丁度よかった。社交ダンス系ではチャチャ、サンバ、ルンバを覗いた。フラもあったしタップ、カーニバル、さてはインド・ボリウッド・ダンスというのを教える。ヒュージョンというホールを貸し切りでダンス三昧のグループがいた。参加型の催しは豊富だった。ワイン味見会、厨房見学会、ケーキ作りに手芸教室、折り紙にタトーシール貼り。前者はどちらかというと日本人に、後者は外人に人気があった。カラオケコンテストのような催しもあったらしい。
- コメディージャグリングショーと称する洋風大道芸のパーフォーマンスはなかなか面白かった。「春の南西諸島・島めぐりT」('15)に書いたびいなす船上の大道芸に中味がかなり似通っていると思った。ダイアン吉日の日英ちゃんぽん落語は日本人に人気があったが、外人はあまり出席していなかった。初日の出し物はワンダフル・ジャパン。関西空港に降り立ったイギリスの片田舎から来た青年が日本の友人と落ち合うまでの珍妙会話である。日本人の音節英語(ラテン風発音というか、子音のあとに母音を付けて単語を終わらせる)を器用に真似して笑わせた。2回目は時ソバ勘案の時タコヤキ。たこやきタイムというのが正式の題らしい。前者はダイアンの師匠(桂枝雀)の噺で聞いた覚えがある。ダイアン吉日とは大安吉日を捩っている。この人を食った芸名のイギリスの女芸人はリバプール生まれで、3ヶ月間で日本をヒッチハイクするはずだったが、寄席のお茶子のアルバイトをしたら落語が好きになり、3ヶ月の予定が26年になったと云った。今大阪在住。あらゆるところでピアノやヴァイオリンの演奏、歌唱の会。何と云っても船の顔となるショーはシアターで行われる。歌と踊りのプロダクションショーがあり、魔術師のイルージョンショーもあった。ボーカルショータイムの出演はモニーク・ディイニー。ジャマイカ出身で日本の英語高校教師として来日し爾来17年間日本にいるという。特別に音楽教育を受けたことがないというのに、ボリュームのあるいい声であった。
- 晩餐のレストランはテーブルとともに指定される。ほかに有料のレストランがあってそこに行くのは自由だ。指定のメリットは同席メンバーと親しくなれることだ。我らは6人席だった。お互い初対面ながら話が弾み、お互いテーブルが同じであったことに感謝した。船会社が相席者を決めるのだろうが、如何なる手法を使うのか、単なる偶然なのかちょっと話題になった。ディナーの主なメニューはほぼ毎回同じで、その中から適当な組合せを料理長のお薦めとして書き出してくる。デザートに付けるコーヒーにカプチーノを頼んだら有料だった。勿論ノンアルコールビールでも有料である。料理の好みを聴かれたことは一度もない。あの工場のような厨房では無理というものだと見学者は云った。日本食は常に同じパターンで、1回食べたが2度と注文する気になれなかった。もっと長いクルーズだったら料理の種類を換えるのかも知れぬ。朝昼のビュッフェでも種類は殆ど変化がないことは同じだ。ただ選択の幅が広いので助かった。
- 船の横腹を見る機会があった。前後にサイドスラスト用の推進器のマークが3台分づつ描いてある。離岸接岸を自力でやれるわけだ。飛鳥Uもぱしふぃっく びいなすもにっぽん丸も前方だけだったと記憶する。だから埠頭ではいつもタグボートのお世話になっていた。中央にフィン模様が描いてある。フィンスタビライザーをこんなに大きな船でも備えているのかなと思い、船員に聞いてみたが、聞く相手が間違っていたらしくはっきりしなかった。戻ってからネット検索してみた。斧口淑郎ほか4名:「Princess Cruises 向け超大型豪華客船の建造 Debut of First Japanese Large Passenger Cruise Ship for Princess Cruises」、三菱重工技報 Vol.41 No.6(2004-11)という特集論文に記載されていた。この論文には船舶仕様の詳細についていろいろ書いてあるから、船舶工学に関心のある方にはお勧めできる。
- プールとジャグジーは賑わっていた。日本船ではあまり活用する人がないので乗客の年齢差を感じた。屋上に大スクリーンがあって白昼でも映画を上映する。液晶ディスプレイというからTVの親方のような構造らしい。日本船にはない設備である。でも私が見たのは朝のラジオ体操だけだった。泉の湯という大浴場がある。入り口がしゃれた銭湯風になっていて魅力的だ。でも$15の入浴料には驚いた。温泉宿に泊まって内湯に入ったらお金を取られるかい? 一歩譲って銭湯とか外湯に入ったとしても600−800円ぐらいじゃないか。
- 我ら庶民クラスの部屋の便器はウオッシレットでないことは承知していた。頭で分かっていても、いざ生活に入るとお尻の不潔感は身体全体に及ぶ。家内が耳寄りな情報を聞き込んできた。パブリックスペ−スの便器はウオッシュレットになっていると。早速探検に回る。はっきりしたことは女性のだけはウオッシュレットに変更されているが、男性用はまだと云うことだった。おいおい改造されるという。日本は江戸時代から衛生国として世界に好評だった。私の近所の公園のトイレ、埠頭のトイレ、美術館博物館お役所のトイレなど最近立ち寄った場所のそれを思い浮かべてみた。ウオッシュレットでないのは日本式便器だけである。クリスタル・ハーモニーが改造されて飛鳥Uになったとき、全部ウオッシュレットになった。日本文化のいい面はきっちり抑えて欲しいものだ。
- 船内予約すると次回は最大5万円引きになると云われていた。なかなか商売上手である。今回クルーズでプレミアムクラスといわれるダイヤモンド・プリンセスと、ラグジュアリークラスという日本船との相違はだいたいは分かった。カジュアルクラスになったらどうなのか興味が沸き出した。
('16/07/13)